shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Cloud Nine / George Harrison

2009-03-29 | George・Ringo
 「ジョージ・ハリスンの代表作は?」と問われれば、よっぽどの天邪鬼でもない限り「オール・シングズ・マスト・パス」と答えるだろう。「マイ・スイート・ロード」の入った例の3枚組大作だ。しかしこの“代表作”という言葉が曲者で、この言葉の裏には“歴史的重要性”とか“エポックメイキングな大作”といったニュアンスが含まれているように思える。それはちょうどビートルズなら「サージェント・ペパーズ」や「アビー・ロード」を、ゼッペリンなら「Ⅱ」や「Ⅳ」を挙げる人が多いのと同じである。だから「それじゃあ一番よく聴くアルバムは?」と聞けば答えは分かれるのではないだろうか?愛聴盤というのは初めて聴いた時の衝撃度や個人的な嗜好・思い入れによって千差万別、十人十色だからである。私がよく聴くのはビートルズ的なものを意識的に避けてある意味“無理していた”ように聞こえる70年代前半のアップル期よりも、“ビートルズの封印を解いた”70年代後半以降のリラックスしたジョージである。そういう理由で私はこの「クラウド・ナイン」を愛聴している。
 この盤はビートルズの舎弟頭といえるジェフ・リンのプロデュースで、彼お得意の万華鏡のようなポップ・ワールドが展開されており、人によってはそこがオーバープロデューシングに思えるのかもしれないが、ビートルズを知り抜いたジェフ・リンだからこそ作り得たビートリィな音世界の中で、ジョージが肩の力を抜いて愉しみながら歌い演奏しているように私には聞こえる。76年の「33&1/3」や79年の「慈愛の輝き」あたりのアルバムに顕著な、彼の優しさが滲み出るような温かみのあるサウンドと、ジェフ・リンが後期ELOで実践していたアコースティック・ギター主体のカラフルでポップなサウンドが見事に融合して化学反応を起こし、ジョージをコンテンポラリー・ミュージック・シーンへとカムバックさせる大ヒットに繋がったのだと思う。
 個々の曲に関して言えば、ジョージにとって久々の全米№1となったファースト・シングル⑪「ゴット・マイ・マインド・セット・オン・ユー」が目立っているが、私はむしろ開き直って徹底的に“ビートルズ的なサウンド”を再現した⑥「ホエン・ウィー・ワズ・ファブ」が好きだ。まるで「アイ・アム・ザ・ウォルラス」のセルフ・パロディーかと思ってしまうくらい見事に「マジカル・ミステリー・ツアー」あたりのサイケデリックなサウンド・プロダクションを施したキラー・チューンで、リンゴのドラムが「バスン!」と入ってきた瞬間、あたりの空気が一変し、それは完全にビートルズのサウンドと化す。私なんかこれだけでもう鳥肌が立つほどゾクゾクしてしまう。しかもこの懐かしさ全開のコーラス・ワーク、ストリングスの絶妙な使い方... これこそまさに“87年に蘇ったビートルズ・サウンド”そのものだ。しかもゴドレイ&クレーム製作のビデオ・クリップ、これがまた圧倒的に素晴らしい。リンゴはもちろんのこと、左利きでベースを弾くセイウチの着ぐるみまで登場(←ここんとこ、大好き!)、最後にはシタールが鳴り響く中、千手観音と化して空中浮遊(?)するシーンなど、細部にまで徹底的に拘ったその作りはビートルズ・ファンなら感心・感動・感激せずにはいられない。
 タイトル曲①「クラウド・ナイン」も上記2曲に負けず劣らず素晴らしい。左右のスピーカーに振り分けられたジョージとクラプトンのギターの絡みに涙ちょちょぎれる渋~いブルースで、ジョージの達観が伝わってくるようなめちゃくちゃカッコ良いナンバーだ。それ以外にもELO版「ハード・デイズ・ナイト」みたいなポップさが愉しい③「フィッシュ・オン・ザ・サンド」、もろELOサウンドの中、ジョージ至芸のスライド・ギターが冴え渡る⑤「ジス・イズ・ラヴ」、ビートルズが得意としていた風刺の効いた歌詞が面白い⑦「デヴィルズ・レディオ」etc聴き所満載だ。確かにジョージ本来の持ち味という点では「33&1/3」や「慈愛の輝き」に一歩譲るが、私は80年代に不死鳥のように蘇ったビートルズ・サウンドが聴けるこのアルバムの“吹っ切れた”ジョージが大好きだ。

George Harrison - When we was fab

この記事についてブログを書く
« Decade / Duran Duran | トップ | Celebration / Alma Cogan »