shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

3 a.m. / Georges Arvanitas

2018-03-24 | Jazz
 私はこれまで “絶対手に入れてやるぞ!” と決めたレコードはどんなに時間がかかってもほとんど手に入れてきた。大抵は2~3年以内に決着をつけるが、中には10年以上かかってやっとのことで手に入れた苦労盤も少なくない。以前取り上げたヘレン・メリルのEP盤なんかその典型だが、あれよりも更に長い時間がかかったのがフランスのジャズ・ピアニスト、ジョルジュ・アルヴァニタスの PRETORIA盤「3 am」だ。
 このレコードの存在を知ったきっかけは大阪の澤野商会がリリースした復刻盤CDで、ブンブン唸るベースと瀟洒なブラッシュが生み出すリズムに乗ってピアノが軽快にスイングするという理想的展開のピアノトリオ・ジャズに完全KOを喰らい、まさかそれが “ユーロ・ジャズ3大幻の名盤” の一つだとはつゆ知らずにそのオリジナル盤LPを探す日々が始まった。
 しかしただでさえプレス枚数の少ないジャズの、しかもマイナーなヨーロッパ盤ということで市場には滅多に出てこず、ごくたま~に出てきても €500~€600 というえげつない価格設定に戦意喪失というパターンの繰り返しで、自分の中では入手を九分九厘諦めていたというのが正直なところだった。
 ところがちょうど1年ほど前のこと、Discogsから “ほしいものリスト” に登録しておいた「3 am」が出品されたというメールが届いたのだが、値段を見るとたったの €80 だ。最初は “どうせアホなセラーが再発盤をオリジナル盤と取り違えとるんやろ...” と思ったが、ひょっとするとひょっとするかもという考えが頭をよぎり、念のために商品ページを見てみると、盤質・ジャケット共に VG コンディションで、“a bit damages on sleeve, record covered by hairlines” とある。再発盤は大抵新品同様だからVGってことは本物か??? もしそうなら千載一遇のチャンスである。しかし covered by hairlines(髪の毛のような薄い擦り傷に覆われている)という文言が気になる。そこで写真をメールで送ってもらったところ、ほとんど音に出なさそうな浅い擦り傷ばかりで問題はなさそうだ。もちろん盤・ジャケット共にどう見ても本物である。私は大急ぎで “注文する” をクリックした。
 レコードが届いてまず本物のオリジナル盤であることを確認し、いよいよ盤に針を落とす。それまで何度も繰り返し聴いてきた澤野商会の復刻盤LP(←まさか本物が手に入るるとは思ってなかったので一応買っといたヤツ...)とどれほど音が違うのか興味津々だ。1曲目のアルバム・タイトル曲A①「スリー a.m.」でいきなりスピーカーから飛び出してくるダグ・ワトキンスの轟音ウォーキング・ベースにビックリ(゜o゜)  リスニングルームを地鳴り鳴動させるアート・テイラーの豪放磊落なドラミングも強烈で、これならオリジナル盤と再発盤の値段が桁1つ違うのも納得がいく凄い音だ。澤野盤は復刻盤としてはかなり優秀な音だと思うが、音の鮮度の差ばっかりは如何ともしがたい。
Three a.m. - Georges Arvanitas


 A②「チュニジアの夜」でのピアノ、ベース、ドラムスが丁々発止とやり合うテンションの高い演奏も快感そのもの。私的には “ピアノトリオ・ジャズはかくあるべし!” と快哉を叫びたくなるようなスーパーウルトラ大名演だ。バド・パウエルの名曲A③「セリア」では軽やかにスイングするアルヴァニタスももちろん良いが、何よりも素晴らしいのが演奏の根底を支えるワトキンスとテイラーのリズム隊で、やはりジャズはリズムが命だなぁと改めて実感した次第。
A Night In Tunisia - Georges Arvanitas


 B①「朝日のように爽やかに」はコロコロと珠を転がすように軽やかにスイングするピアノ、滑らかにテーマ・メロディーを弾くベース、そして八面六臂の活躍を見せる瀟洒なブラッシュと、良いことずくめのトラックだが、MVPは何と言ってもアート・テイラーだろう。この人は “シンバル命” みたいなイメージがあったが、中々どうして、ブラッシュもめちゃくちゃ巧いではないか! 私としては「ソフトリー」名演10選に入れたいキラー・チューンだ。
Softly As In A Morning Sunrise - Georges Arvanitas


 ただただ疾走あるのみといった感じのB②「アワ・デライト」や一転してスローで迫るB③「ホワッツ・ニュー」を経てアルバムのラストを飾るのはめちゃくちゃカッコイイB④「T.W.A ブルース」。このアルバム全体に言えることだが、ダグ・ワトキンスの圧倒的な存在感は凄いの一言で、メンバー3人の頭文字から名付けたと思しきこの曲でもリーダーのアルヴァニタスよりも遥かに目立っている。アルヴァニタスには悪いが “ダグ・ワトキンス・トリオ” としても愉しめるという、私のようなウッドベース大好き人間にはたまらない1枚だ。やっぱりジャズはベースですな。
T.W.A. Blues - Georges Arvanitas