shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ジャンゴの「Minor Swing」聴き比べ

2018-03-03 | Gypsy Swing
 私には “時々無性に聴きたくなるミュージシャン” というのが何人かいるのだが、ジャンゴ・ラインハルトもそんな一人だ。先日も仕事中に突然頭の中でジャンゴの「マイナー・スウィング」が鳴り始め、“おっ、今日はジャンゴが来たか...” という感じだったが、こういう時はチマチマとYouTubeで聴いてお茶を濁すのではなく、我が家のスピーカーから迸り出る大音量で聴かないと収まりがつかない。私は早々に仕事を切り上げて家に帰り、手持ちのCDを聴いてオトシマエをつけたのだが、その時ふと “そーいえばジャンゴってCDしか持ってへんかったなぁ。1930~40年代っていうSPの時代に活躍した人やからLP盤なんて今まで考えもせんかったけど、50年代に出たモノラル盤とか、いっぺん探してみよ...” と思い立った。早速ネットで調べてみると、DeccaやRCA Victorといった超有名レーベルから聞いたこともないマイナー・レーベルに至るまで、数えきれないぐらいのタイトルがリリースされていてビックリ(゜o゜)  古い音源は出来るだけリリースされた当時に近い音で聴くのが私のポリシーなので、私は古式ゆかしい10インチ盤でジャンゴを集めてやろうと決意した。
 まず最初に手に入れようと考えたのが事の発端となった「マイナー・スウィング」だ。私は片っ端からディスコグラフィーを調べ上げ、1954年にフランスのSwing レーベルから出た「Souvenirs of Django Reinhardt」(M. 33.314)というレコードにこの曲が入っていることを突き止めた。eBayには出品されていなかったが運良くDiscogs に1枚だけ出ているのを発見し、€16という安さもあって(←$100~$200のビートルズ盤を見た後に€15~€25のジャンゴ盤を見ると値段の感覚が完全に麻痺しますわ...)即決した。
 しかし届いたレコードに針を落とした私は愕然とした。イントロからして私の知っている「マイナー・スウィング」とは全然違うし、何よりもショックだったのはジャンゴのギターが “ジプシー・スウィング・ジャズ” に不可欠なセルマー社のマカフェリではなく、普通のエレクトリック・ギターだったこと。同じ曲でありながら私が期待していたのとは全く違うスタイルの演奏にガッカリした私はその時初めてジャンゴがこの曲を何度もレコーディングしていることを知ったのだ。そういうワケで、今日はジャンゴによる「マイナー・スウィング」の徹底聴き比べだ。

①Version 1 (Nov.25.1937 - Paris)
Django Reinhardt, Joseph Reinhardt, Eugene Vees (g), Stéphane Grappelli (v), Louis Vola (b)
 ジャンゴの「マイナー・スウィング」と言えば誰が何と言おうと初演であるこの1937年ヴァージョンが圧倒的に、超越的に、決定的に素晴らしい。ホット・クラブ・クインテットのスインギーな演奏をバックに泣きのメロディーを奏でるジャンゴの歌心溢れるプレイに涙ちょちょぎれる。このノリ、最高ではないか! カウント・ベイシー・オーケストラのウォルター・ペイジみたいにブンブン唸るルイ・ヴォラのピチカートも言葉に出来ないカッコ良さだ。いみじくも演奏が終わった後の “Oh yeah !” という満足そうな一声がすべてを物語っているように思う。尚、このヴァージョンはフランスの La Voix De Son Maitre というレーベルからリリースされた「Composition Des Orchestres De Django Reinhardt」(FFLP 1027)という10インチ盤(←裏ジャケもレーベル面も何故か曲目表記が間違ってるけど...)に入っている。
Django Reinhardt - Minor Swing - HD *1080p


②Version 2 (Aug.29.1947 - Paris)
Django Reinhardt (elg), Maurice Meunier (cl), Eugene Vees (g), Emmanuel Soudieux (b), Andre Jourdan (ds)
 初演から10年後にレコーディングされたこの再演ヴァージョンではジャンゴはエレクトリック・ギターに持ち替えてジャズ色の強い演奏を行っており、コレはコレでアリっちゃアリなのだろうが、“ジプシー・スウィング命” の私はあまり楽しめない。この程度のことでよろしければ、バーニー・ケッセルだってハーブ・エリスだってすごいのだ。問題は、そこにジャンゴならではの個性があるかどうかということなのである。マカフェリ・ギターで天馬空を行くように豪快にスイングせずに何のジャンゴ・ラインハルトなのか!と声を大にして言いたい。ジプシー・スウィングにエレキなど百害あって一利なしだ。
Django Reinhardt - Minor Swing (1947)


③Version 3 (Nov.1948 - Brussels)
Django Reinhardt (elg), Andre Ekyan (as,cl), Ralph Schecroun (p), Alf Masselier (b), Roger Paraboschi (ds)
 ブリュッセルでのライヴ音源だがここでもジャンゴはエレクトリック・ギターを弾いており、私としては忸怩たる思いしかない。1946年にデューク・エリントンの招待で渡米した際に初めてエレキを手にしたそうだが、エリントンのオッサンもホンマに余計なことをしてくれたものだ。
Django Reinhardt a Bruxelles - Minor Swing


④Version 4 (Jan or Feb.1949 - Rome)
Django Reinhardt (g) , Stéphane Grappelli (v), Gianni Safred (p), Marco Pecori (b), Aurelio de Carolis (ds)
 これは1949年にローマで行われたジャンゴとグラッペリの再会セッションで、そのせいかジャンゴは久々にマカフェリ・ギターを手にしてエモーショナルな演奏を行っている。後期のジャンゴで私が愉しめる数少ない音源が他でもないこのローマ・セッションで、やっぱりジャンゴにはアコギが合っているなぁと痛感させられる名演だ。尚、2人以外は地元のピアノトリオなのでベースの弱さはしゃあないか。
Django Reinhardt - Minor Swing - Rome, 01or02. 1949


⑤Version 5 (Jan or Feb.1950 - Rome)
Django Reinhardt (elg), Andre Ekyan (as,cl), Ralph Schecroun (p), Alf Masselier (b), Roger Paraboschi (ds)
 グラッペリとの再会セッションで目が覚めたかと思ったのも束の間、またしてもエレクトリック・ギターを手にしたジャンゴだが、ここで聴ける淡泊な演奏にはガッカリとしか言いようがない。マカフェリ・ギターで魂が震えるような熱い演奏を聴かせてくれたジャンゴとは別人と思って聴いた方がいいだろう。
Django Reinhardt - Minor Swing - Rome, 04or05. 1950