shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

別ヴァージョンで楽しむキャンディーズ特集①

2015-12-06 | 昭和歌謡
 私は同一曲でアレンジやミックスの違う、いわゆるひとつの別ヴァージョンというヤツが大好きだ。特にCD時代になって以降は過去の音源が復刻される際のボーナス・トラックとしてこの手のオルタネイト・テイクが収録されることが多く、オフィシャルと同等の高音質で未発表テイクが聴ける幸せを噛みしめながら楽しんでいるが、そのほとんどは洋楽ロックか50年代モダン・ジャズかのどちらかだった。
 しかしよくよく探せば邦楽でもヴァージョン違いの類は色々見つけることが出来る。太田裕美の「木綿のハンカチーフ」や荒井由実の「やさしさに包まれたなら」のように一聴して違いが分かるものもあれば、小山ルミの「さすらいのギター」のようによく聴かないと違いに気付かないレベルのものまで様々だが、色んなテイクやミックスの違いで楽しませてくれる邦楽アーティストで真っ先に頭に浮かぶのがキャンディーズだ。そしてそんな彼女達の楽曲の中で私が最初にヴァージョン違いの存在に気付いたのがこの「春一番」だった。
 この曲が流行っていた当時、私は気に入ったヒット曲はまずシングル盤を買うのが常だったので、それからしばらくしてアルバムに収録された別ヴァージョンを聴いた時は “何やこれ??? シングル盤とは全然雰囲気がちゃうやん!” とビックリしたものだった。しかもそのアルバムというのがシングル「春一番」の1年前に出ていた「年下の男の子」だったので、“何で昔のアルバムに新しいシングル曲が入ってるんやろ?” と何もかもがワカランことだらけだったが、ゴツゴツした迫力満点の演奏をバックにラン、スー、ミキの3人がほぼ全編ユニゾンで疾走するアルバム・ヴァージョンのインパクトは強烈で、私はシングル・ヴァージョンよりも断然こっちの方が気に入ってしまった。
 かなり後になってから知ったことだが、この曲は元々はシングル曲として書かれたものではなく、1975年発売のアルバム「年下の男の子」の中の1曲に過ぎなかった。ところがあまりにも曲の出来が良く、ライヴでのファンの反応も上々だったので当時の歌謡曲の常識からは考えられない “既発アルバムからのシングルカット” を行ったところ、プロデューサーの松崎澄夫氏を中心とする制作サイドの読みがズバリ当たって大ヒットを記録したのだという。
 このアルバム・ヴァージョンの一番の特徴はその時代を先取りした先鋭的なアレンジにある。とにかく切れ味鋭いハイハットやファンキーなクラビネットの音を前面に押し出したライヴ感溢れるロック色の強いサウンドがめちゃくちゃカッコ良く、特に2分20秒あたりからのドラムスのテンション漲るスリリングなプレイは圧巻で、完全に歌謡曲のレベルを超越してしまっている。この縦横無尽なドラミングと超アップテンポで迫る3人の一糸乱れぬユニゾンの絡みはまさに鳥肌モノで、これだけでもアルバム・ヴァージョンを聴く価値は十分にあると思う。
 ただ、私のようなロック・ファンならこのサウンドには大喜びだろうが、さすがにお茶の間アイドルのシングルとして出すにはあまりにもアグレッシヴすぎるとの判断からか、シングル・ヴァージョン用には新たにブラス・セクションを加えてミックス・ダウンをやり直し、一般ピープルにも馴染みやすい音作りにリメイクされている。アルバム・ヴァージョンと聴き比べてみると、作詞作曲の両方を手掛けた穂口雄右氏が施したシングル用のキメ細やかなアレンジには “なるほどなぁ...” と感心させられる点が多い。というワケで、私にキャンディーズの別ヴァージョンの面白さを教えてくれた大切な1曲がこの「春一番」なのだ。

キャンディーズ 春一番(アルバム・ヴァージョン)


春一番 キャンディーズ(シングル・ヴァージョン)