shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Wings Greatest Unreleased / Paul McCartney

2014-06-14 | Paul McCartney
 私は “好きな盤は少しでも良い音で聴きたいし、そのためには金に糸目を付けない” という主義で、旧譜が “○○ビット・リマスタリングされ高音質で蘇える!” みたいな美辞麗句を纏って再発されるたびについつい買ってしまう。2009年のビートルズ・リマスター騒動しかり、ポールのアーカイヴ・コレクションしかりである。今のオーディオ装置にグレードアップして以来、 “自分好みの音” に徹底的に拘るようになったのだ。
 そんな旧譜再発において最終的な音の良し悪しは、何ビットというスペックでもSHMやGold Disc といった材質でもなく、ひとえにマスタリング・エンジニアの手腕にかかっているのではないかというのが私のこれまでの音楽体験、オーディオ体験を通して得た結論だ。マスタリングというのは簡単に言ってしまえば “ミックスダウンが済んだマスターテープを基にして、イコライザーやリミッターなどのエフェクター類を駆使して音響処理を行い、アーティストが意図したサウンドに仕上げていく作業” のことで、料理に例えるなら素材の良さを最大限に引き出すための最終的な味付けのようなもの。マスタリング・エンジニアの耳と感性によって、その作品全体の印象までもが大きく左右されるというワケだ。
 ひとえに “良い音” と言っても音の好みというのは十人十色なのだが、私的には “アナログ・オリジナル盤の持つナチュラルで生々しい音” が聴ければそれでOK。ベースがブンブン唸ってリスニングルームが地鳴り鳴動し、まるで目の前で歌っているかのようにヴォーカルがスピーカーから飛び出してくれば大満足だ。そんな私好みの音作りをしてくれるマスタリング・エンジニアがDCCコンパクト・クラシックスのスティーヴ・ホフマンとアナログ・プロダクションズのダグラス・サックスの二人で、共に真空管を採用したマスタリング機材を使っているというのが大きな特徴だ。そして最近ハマっているのがスティーヴ・ホフマンのマスタリングによる DCC Compact Classics シリーズで、先月の東京ツアーでも2枚ゲットしたことは前にも書いた通り。ポール・ロスの淋しさをブートとDCC盤で紛らわす毎日だ。
 実を言うと私がDCC盤を買い始めたのは今年に入ってからで、それまではこの手の “高音質盤” には懐疑的だった。昔オーディオショップで聴かせてもらったMFSL(Mibile Fidelity Sound Lab)盤がいかにもオーディオマニアが好みそうなキレイキレイな線の細い音であったことや、“最強音質”の謳い文句に騙されて買ったゴールドCD(←いわゆる純金蒸着というヤツですわ)をオリジナルLPを聴き比べてみてそのあまりのプアーな音に呆れ果てて思わず叩き割りたくなった苦い経験を持つ私としては、“MFSLと双璧を成す高音質盤” で “24 Karat Gold” が売りのDCC盤など聴いてみたいとも思わなかった。
 そんな私がDCC盤に瞠目したのは今年の1月に買ったポールのブートレッグ「ウイングス・グレイテスト・アンリリースト」がきっかけだった。DAPレーベルがオルタネイト・アーカイヴ・コレクション・シリーズの1枚としてリリースしたこのCDは、ディスク1が “マルチトラック・マスターからの初登場リミックスを中心にレア・バージョンをコンパイル” 、ディスク2が“DCCコンパクト・クラシックスからリリース予定がありながらお蔵入りとなった「ウイングス・グレイテスト」のオリジナル音源を収録” とのこと。2枚組で1800円というリーズナブルなお値段に釣られたというのもあるが(笑)、 “初登場” や “レア” といった謳い文句に弱い私はディスク1目当てにこの盤を買ったようなもので、ディスク2はオマケみたいなものと考えていた。
 実際に聴いてみるとディスク1には「アナザー・デイ」のアセテート・モノ・ミックスや「死ぬのは奴らだ」のクアドラフォニック(4チャンネル)・ミックスなんかが入っていてたまに聴く分には面白いが数回聴けばそれで十分で、日常聴きとなるとやはりオフィシャル音源に戻ってしまう。そんな中ではポールのヴォーカルがグッと前面に出てくるミックスでリアルな質感が楽しめる「マイ・ラヴ」や「夢の旅人」が印象に残った。尚、片チャン・イントロ(?)の「心のラヴ・ソング」やハイハット・イントロ付き「愛しのヘレン」、フェイド・アウトなしの「メイビー・アイム・アメイズド」ショート・ヴァージョンは以前取り上げた「DJサンプラー」に入ってたのと全く同じミックスだ。
マイラヴ


 ディスク2はDCCコンパクト・クラシックス社からリリース予定がありながらお蔵入りとなってしまった「ウイングス・グレイテスト」のオリジナル音源を収録したもので、スティーヴ・ホフマン公式サイトで公表されたテスト盤CD-Rからのマスター・コピーとのこと。最初はDCCの高音質盤がナンボのモンじゃいと思いながら聴き始めたのだが、1曲目に置かれた「アナザー・デイ」のポールの生々しいヴォーカルと地を這うようなベースの重低音にビックリ(゜o゜)  ポールの自由闊達に躍動するベース・ラインに耳が吸い付く「心のラヴ・ソング」や雄大なスケール感を感じさせながら爆走する「死ぬのは奴らだ」など、どの曲にも素晴らしいリマスタリングが施されており、私のDCC盤に対する偏見は木端微塵に吹き飛んだ。目からウロコとはまさにこういうことを言うだろう。
 このディスク2はどのトラックにもホフマン入魂のリマスタリングが施されていて必聴と言える素晴らしさなのだが、中でも私が一番気に入ったのが「ジュニアズ・ファーム」だ。爆裂するイントロに続いて怒涛の勢いで疾走するポールのベース音の凄さを何と表現しよう? 地を這うようにズンズン腹に来るこのベース・サウンドが聴けるだけでもこの盤を買った甲斐があるというものだ。
 ポールのアルバムはDCCから公式に6枚出ているが、それらのオリジナル・アルバムに入っていない「アナザー・デイ」「死ぬのは奴らだ」「ジュニアズ・ファーム」「幸せの予感」「夢の旅人」のホフマン・リマスタリング・ヴァージョンはこの盤でしか聴けない。そういうワケで、ポールのブンブン唸るベース音が好きなファンはこのディスク2だけでも持っている価値があると思う。
ジュニアズファーム
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