shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

歌いつがれて25年 藤圭子 演歌を歌う

2013-09-23 | 昭和歌謡
 これまで藤圭子のシングル盤やカヴァー曲を取り上げながら彼女の魅力を語ってきたが、 “流し” で鍛えた彼女の真の凄さはライヴでこそ発揮される。そんな彼女のライヴ・アルバムは「歌いつがれて25年 藤圭子 演歌を歌う」(1970)、「藤圭子リサイタル」(1971)、「聞いて下さい私の人生 デビュー七周年記念 藤圭子リサイタル」(1976)、「ビッグ・ショー 演歌・浪曲・おんなの涙」(1978)、「さよなら藤圭子」(1980)の計5枚がリリースされているが、後期の3枚は選曲が私の嗜好とはかけ離れており、アルバム片面聴き通すのも正直キツイ。ちょうどド演歌路線のちあきなおみ盤と同じである。一方初期の2枚は選曲も抜群で彼女のヴォーカルも絶好調、身震いするほど素晴らしい内容だ。ということで、藤圭子追悼特集の最終回は、彼女のレコードのうち最もターンテーブルに乗る回数が多い「歌いつがれて25年 藤圭子 演歌を歌う」でいこう。
 まず “演歌” と聞いただけでスルーしたくなった人も多いと思うが、この「演歌を歌う」というタイトルはこのアルバムの中身を正確に反映してはいない。全20曲中バリバリの “演歌” と呼べるものはごくわずかで、むしろ終戦直後のSP盤時代のヒット曲や昭和歌謡黎明期のムード歌謡が数多く取り上げられており、これらを十把一絡げにして “演歌” と言い切ってしまうのはどうかと思う。ここで歌われているのはクッサクサのド演歌ではなく “昭和” という時代を象徴する大衆歌謡の名曲ばかりなので、私のような演歌嫌いの歌謡曲ファン(←結構多いと思います...)でも十分楽しめる内容になっている。
 このアルバムは1970年10月23日の渋谷公会堂でのステージの模様を収録した2枚組のライヴ盤で、A面はまずA①「圭子の夢は夜ひらく」でスタート、ライヴと言うこともあってかスタジオ録音テイクよりも気持ちの重心を下げてブルージーに迫る圭子姐さんの迫力に圧倒される。他のライヴ音源も含め、私の知る限りではこの曲のベスト・テイクと言っても過言ではない素晴らしい歌唱だと思う。
 A面の残る4曲は並木路子のA②「リンゴの唄」(1946)、岡晴夫のA③「啼くな小鳩よ」(1947)、平野愛子のA④「港が見える丘」(1947)、菊池章子のA⑤「星の流れに」(1947)と、すべて終戦直後の流行歌で占められているのが興味深い。中でも「リンゴの唄」は “辛気臭い” という彼女のイメージを木っ端微塵に吹き飛ばす明るくてノリの良い歌声が楽しめる貴重なトラック。当時まだ19歳だった彼女の愛らしい、しかし抜群に上手いヴォーカルは必聴だ。又、「港が見える丘」はちあきなおみや青江三奈もカヴァーしており、三者三様の歌世界が楽しめて実に面白い。昭和歌謡のスタンダード・ナンバー聴き比べはホンマに楽しーな(^.^)
歌いつがれて25年 藤圭子 演歌をうたう
【圭子の夢は夜ひらく~リンゴの唄~啼くな小鳩よ~港が見える丘~星の流れに】


 B面は何と言っても高峰秀子のB①「銀座カンカン娘」が出色の出来。これも上記の「リンゴの唄」同様、彼女の歌手としての懐の深さを如実に示している名唱で、一連のシングル曲から彼女のことを “暗い歌を辛気臭く歌う女性歌手” だと誤解している人達にこそ聴かせたいトラックだ。2分40秒の中で様々な歌唱テクニックを駆使しながらウキウキワクワクするような曲想を見事に表現、オリジナルとはまた違った “圭子のカンカン娘” へと昇華させているところが何より凄い。わずか19才にしてこの表現力... いやはやまったく空恐ろしい天才シンガーである。
 前にも書いたように私は “藤圭子は女性歌手のカヴァーが一番!” と信じて疑わないが、もちろん男性歌手のカヴァーの中にも脳内リフレイン必至の名唱が少なくない。私にとってそんな1曲がこのアルバムに収められたフランク永井のB④「有楽町で逢いましょう」で、圭子節が曲想と絶妙なるマッチングを見せ、オリジナルを遥かに凌駕する「有楽町」になっている。又、お気楽宴会ソングの定番である和田弘とマヒナスターズのC⑤「お座敷小唄」も藤圭子の手にかかるとスピーカーに対峙して聴くべき昭和歌謡のスタンダード・ナンバーへと早変わり。クールファイブのD④「長崎は今日も雨だった」もオリジナルは暑苦しくてしんどいが、この圭子ヴァージョンなら毎日でも聴いていたい。まさに歌の錬金術師である。こんな歌い手が他に何人いるだろうか?
歌いつがれて25年 藤圭子 演歌をうたう3
【銀座カンカン娘~有楽町で逢いましょう~南国土佐を後にして~潮来笠~出世街道~お座敷小唄~網走番外地~長崎は今日も雨だった】


 以前 “藤圭子のカヴァー特集” で取り上げたエト邦枝のB②「カスバの女」と西田さっちゃんのC③「アカシアの雨がやむとき」のライヴ・ヴァージョンが楽しめるのもこのアルバムの大きな魅力だ。どちらの曲もスタジオ録音ヴァージョンを先に聴いて気に入っていたのだが、このアルバムのライヴ・ヴァージョンを聴いてその心震わす歌声に完全KOされ、 “藤圭子の真価はライヴにあり!” を確信したのだった。同じく以前取り上げた青江三奈のD③「池袋の夜」はこのアルバムか6枚組CDボックス「聞いて下さい私の人生」でしか聴けないスーパー・ウルトラ・キラー・チューン。コレを聴いて何も感じなければ昭和歌謡は諦めましょう。そしてこのアルバムを締めくくるのが「夢ひら」に続く彼女の4枚目のシングルD⑤「命預けます」... その魂のこもった歌唱でやさぐれた世界を構築し、聴き手に強烈なインパクトを与える藤圭子の魅力が全開の1曲だ。
 絶頂期の藤圭子の凄さを音溝に刻み込んだ歴史的名盤と言っていいこの大傑作ライヴ...  こんな名盤を廃盤のままにしておくのは音楽ファンへの背信行為であり、レコード会社は音楽の担い手としての役割を放棄しているに等しい。切り売り状態で小出しにするのではなく、「リサイタル」と共に早急な完全CD化を望みたいと思う。
歌いつがれて25年 藤圭子 演歌をうたう2
【カスバの女~好きだった~黒い花びら~アカシアの雨がやむとき~女のためいき~池袋の夜~命預けます】
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