shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

新宿の女 & 女のブルース / 藤圭子

2013-09-18 | 昭和歌謡・シングル盤
 私は今でこそ昭和歌謡マニアの端くれとしてお気に入りの歌手のCDやLPやシングルをせっせと集めて楽しんでいるが、若い頃は寝ても覚めてもビートルズとハードロックと80'sポップス一辺倒で、本格的に昭和歌謡にハマりだしたのは8年ぐらい前のことだった。たまたま立ち寄ったツタヤでお目当ての任侠DVDがすべて貸し出し中でガッカリし、せっかく来たんやから他も見てみようとそれまで見向きもしなかったCDのコーナーへと足を踏み入れたのがすべての始まりで、そこでたまたま見つけたのがレーベルの枠を超えて歌謡曲のヒット曲を1年ごとにまとめた「青春歌年鑑」というコンピレーション・シリーズだった。
 当時の私の手持ちの歌謡曲音源と言えばリアルタイムで買ったキャンディーズと太田裕美とジュリーのシングル盤だけで、真の黄金時代と言える60年代後半から70年代前半のヒット曲は “どっかで聞いたことあるなぁ...” 程度の認識だったが、手ぶらで帰るのも癪だったのでとりあえず1枚借りてみようと「1970年」版を選んだ。早速帰って聴いてみると「黒猫のタンゴ」や「白い蝶のサンバ」など、小学校に入ったばかりの頃に流行った曲が入っていてめっちゃ懐かしかったが、2枚組全30曲の中で最もインパクトが強かったのが藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」、「新宿の女」、「女のブルース」の3曲だった。
 前に取り上げた「圭子の夢は夜ひらく」は例の “十五、十六、十七と 私の人生暗かった~♪” のフレーズに聴き覚えがあったが、「新宿の女」と「女のブルース」は初めて聴く曲で、どちらも彼女のヴォーカルが怖いくらいリアルに迫ってくる。心の奥底までグイグイと入り込んでくるようなその歌声に完全KOされ、その濃厚な歌世界にズルズルと引き込まれていった。私はこの時初めて藤圭子という歌手の凄さを知ったのだ。この「青春歌年鑑」シリーズには他にもいしだあゆみや青江三奈など私好みの女性歌手の曲が数多く収録されており、これをきっかけに本格的に昭和歌謡に目覚めた私はその後時系列に沿ってヒット曲を後追いしていくことになるのだが、それはまた別のはなし。
 話を藤圭子に戻そう。まずは彼女のデビュー曲「新宿の女」だが、演歌というジャンルに対する先入観を捨てて聴けばその魅力的なイントロに心を奪われること間違いなし。クリスプなベースを露払いに颯爽と登場するトランペットの響きの何と瑞々しいことよ! 一杯ひっかけてホロ酔い気分のクリフォード・ブラウンが鼻歌感覚で吹いているかのような(?)見事なソロだ。それに続くギターもまるでハーブ・エリスが日本に帰化して演歌に改宗したかのような(←するかそんなもん!)歌心溢れるプレイで彼女の歌を引き立てているし、隠し味的に使われているヴィブラフォンや流麗なストリングスも彼女のドライでドスの効いたヴォーカルを柔らかく包み込んで歌と演奏の絶妙なバランスを演出している。曲調は古臭いネオン演歌の域を出ないが、この曲が今聴いても風化せずに新鮮な感動を覚えるのはそのあたりの器楽アレンジの妙によるところが大きいと思う。藤圭子というとついつい “暗い” だの “怨歌” だのといった面ばかりが語られがちだが、とにかく一度この曲のインスト・パートに注目して聴いてみれば、その素晴らしさに驚倒するだろう。
 この曲を聴いてもう一つ印象的だったのはその歌詞の展開だ。曲の出だしは “私が男になれたなら 私は女を捨てないわ~♪” と一人称の “私” を主語にしたストーリーテリングの定石に沿った始まり方をするのだが、途中の “バカだなぁ バカだなぁ だまされちゃーあぁてぇ~♪” で視点を第三者から見た “私” へと移動させることによって聴き手におやっと思わせ、最後は “夜が冷たい 新宿の女~♪” と体言止めでビシッとキメて余韻を残すという高等テクニックに唸ってしまう。 “バカだなぁ バカだなぁ~♪” という自虐的フレーズを敢えてサラッと歌い流す彼女のヴォーカリストとしての力量にも脱帽だ。これ、ホンマにエエ歌やわぁ... (≧▽≦)
新宿の女


 「新宿の女」路線を更に推し進めた彼女のセカンド・シングル「女のブルース」は彼女にとって初の№1ヒット、しかも8週連続1位という大ヒット曲で、続くサード・シングル「圭子の夢は夜ひらく」も含めたこれら初期シングル3枚にこそ藤圭子という歌手の魅力が凝縮されているように思う。この3曲に関してはただ単に “歌い手が歌を歌う” という次元を遥かに超越して、 “作詞作曲者がその歌に込めた想いを余すことなく聴き手に伝える表現者としての藤圭子” が堪能できるのだ。
 この「女のブルース」はそんな3曲の中で最もシンプルな構成で、1番から4番までそれぞれ “女ですもの ○○○~♪”、“あなた一人に △△△~♪”、“ここは東京 ×××~♪”、“何処で生きても □□□~♪” の繰り返しから成る4行詩なのだが、逆にそれが彼女の傑出した歌唱によってザ・ワン・アンド・オンリーな世界を構築し、聴き手に強烈なインパクトを与えるのだ。この曲に “昭和のオンナ” の情念を宿らせた藤圭子... まさに “シンプル・イズ・ベスト” のお手本のような名曲名唱と言えるだろう。
女のブルース
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