
「科学者の戦争協力への反省から(防衛省による助成)制度を問題視する日本学術会議と、会員の任命拒否や組織改革を試みる政府のせめぎ合いの中、研究費獲得に苦戦する地方大を中心に(助成制度)利用が次第に拡大する様子がうかがえた」(京都新聞など)
「9年間で」とは、防衛省が2015年に「安全保障技術研究推進制度」を開始して以降ということですが、その出発点は安倍晋三政権が13年12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」でした。
学術会議はこれに対し、「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年3月24日)で警鐘を鳴らしました(5月23日のブログ参照)。今回の報道はその危険な実態が進行していることを示すものです。
記事の中で、防衛省から1000万円の「助成」を受けた大阪公立大の森浩一教授(航空宇宙工学)は、「大学も自分も(軍事応用が可能な)デュアルユース技術研究をしようとは思っていない」と述べていますが、この認識(弁明)こそが危険です。
ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏は生前、科学者が戦争協力した歴史から、研究者が軍事研究に取り込まれていくことに警鐘を鳴らし続けました。
「軍事技術の開発は国の専門機関だけがやっているわけではありません。別の目的で開発された技術でも、これは軍事に利用できると判断すれば、どんどん吸い上げていく。つまり軍事転用が可能な技術を大学や民間企業から発掘して、豊富な資金援助を行い、共同研究に持っていこうとする国策です」(益川敏英著『科学者は戦争で何をしたか』集英社新書2015年)
「軍事研究」の看板を掲げないで軍事研究を進める。それが「安全保障技術研究推進制度」の特徴です。そのエサになっている「研究費」について、池内了・名古屋大名誉教授はこう指摘しています。
「科学者は研究費を喉から手が出るくらい欲しがっている。少しずつ軍事に絡む研究題目を掲げていけば、科学者は研究テーマをそれに沿うように変えていく。こうして、科学の軍事化は露骨な誘導をしなくても実現する。…科学は研究費配分という手段によって、簡単に方向が決められコントロールされていくものであることを押さえておかねばならない」(池内了著『科学と人間の不協和音』角川oneテーマ21新書2012年)
益川氏と池内氏が共通して警鐘を鳴らしているのは、科学者が明確な認識がないまま軍事研究に取り込まれていく危険です。
「大学や民間の研究者の取り込みは、戦前・戦中の強制的な科学者の動員とは違いますが、資金援助というエサで研究者を釣るのは、ある意味間接的な動員と言えるのではないでしょうか。そういう状況には非常に危惧を感じています」(益川敏英氏、前掲書)
こうした「科学の軍事化」、「科学者の間接的動員」は、国家が戦争へ向かう顕著な兆候です。科学者・大学だけの問題でないことは言うまでもなく、一般市民の無関心は許されません。