広島大学でいま、重大な事態が起こっています。
「従軍慰安婦」(性奴隷)にかかわる授業に対し、産経新聞が攻撃を加えてきたのです。
28日には学問の自由と大学の自治を守るため、同校の教職員組合主催の緊急集会が開かれました(残念ながら行くことはできませんでした)。
ことの発端は今月21日付の産経新聞1面連載記事(写真右)です。それは、「いつから日本の大学は韓国の政治的主張の発信基地に成り下がってしまったのか」という、「広島大学で韓国籍の男性准教授の講義を受けた男子学生(19)」の言葉で始まります。
4月28日の同准教授の「演劇と映画」と題する講義で、元「慰安婦」の証言をもとにした韓国のドキュメンタリー映画「終わらない戦争」が教材にされたことに、男子学生が不快感をもったという記事です。
記事はその男子学生の感想を唯一の「ニュースソース」とし、「映像を見せられた」「観賞するしかなかった」などと、まるで学生たちがいやいや映画を押し付けられたように描いて授業に干渉し、准教授を攻撃するもので、きわめて稚拙で政治的なものです。
しかしこの記事によって、広島大には「抗議の電話」が殺到。国会では日本維新の会の衆院議員が文科省に見解を求め、「在特会」は同准教授の「講義阻止」を広言しているといいます。
一方、日本科学者会議広島支部幹事会は23日、「『産経新聞』報道を契機とする言論への圧力を許さず、学問の自由を守ろう」と題する声明を発表しました。
声明はこう指摘しています。
「かつてドイツでは、政権獲得前のナチス党が、その青年組織に告発させる形で意に沿わない学説をもつ大学教授をつるし上げさせ、言論を委縮させていった歴史がある。その忌まわしい歴史を彷彿とさせる本件にたいして、われわれが拱手傍観しているようなことがあれば、特定の政治的主張をもつ報道機関がその意に沿わない講義のひとつひとつを論評し、特定の政治的主張をもつ外部のものが大学教育に介入してくるきっかけを与えることになる」
そして声明は、広島大当局に「毅然とした姿勢」をとること求めるとともに、「広島大学内外のすべての大学人」に、「ともに学問の自由を守る行動をとるよう」訴えています。
以上のような経過自体問題ですが、私がさらに危機感を持つのは、この重大事態に対し、NHKなど放送メディアはもとより、中国新聞までが、一切報道していないことです。
報道の価値なしとの判断なら、その鈍感さは致命的であり、もしもそれが同じ報道機関としての「遠慮」「かばいあい」だとすれば、ことはさらに重大です。
声明の指摘をまつまでもなく、言論・学問の自由への攻撃は、戦争への道です。「従軍慰安婦」の歴史の歪曲とも合わせ、大学人のみならず、絶対に拱手傍観してはならない事態です。