神奈川県では昨年里地里山条例の見直しを行った。私はその条例に関する事業にかかわっていながら、迂闊にもそのことを知らなかった。先日の県の里地里山相談の集まりにおいて、そのことを教えられた。その条例の見直しのための委員会があり、里地里山に関して、5回の協議を行い報告書を作っている。その報告書では生業としての里山の農業は不可能になっているという事が報告されている。地域の農業があって里地里山は作られたものである。では生業の農業がないまま、どのようにしたら里地里山が保全されるかについては、明確な提言はされていない。しかし、条例では県行政はどうすればいいかを示すことが義務付けられた。そこで県の出した条例とそれに付随する文章を読んでみた。抽象的な方向性は示されているが、具体的な提案は当然のごとくない。先日の県との相談会では、溜池は農地ではないので、対象にならないという事を県担当者が何度も繰り返して発言した。しかし、条例を読んでみると溜池や水路は明確に対象にしている。
検討委員会の報告書から抜粋してみる。
1) 全般的な課題
条例が目指すものを整理する必要がある。里地里山の保全等により何を目指していた
のか、里地里山は生業的にもならないし、ボランティアのみでの活動では将来性も非常に厳しい。
里地里山の保全再生を通して地域が活性化することが条例の狙いであるはずであり、
その地域活性化の指標を考え、施策の優先順位を付けていくことが必要である。
現実には、里地里山で農林業を生業とすることは難しい。では、活動の全てをボランティアで行うということになると、資金面から活動を継続することは非常に難しく、どちらでも上手く行かないと考えられる。
また地域をしょって立つという人材を育成しないと次世代に継承することはできない。
里地里山の保全型の農業の維持により、景観が保全され、生物多様性が確保され、自
分達の散策場所となるということは、里地里山の多面的機能が、多くの県民に恵みを与える存在であり税金を投入して守るべきものとなる
以下の8つの観点から、里山の評価をすべき。となっている。
① 生物多様性(生き物の個体数の増減等)
② 健康と里地里山について(長寿との関係、予防福祉の効果、子どもの健康、体力、認知症、自閉症、障害者)
③ 景観の保全
④ 農文化の継承
⑤ 参加者の多様性(女性や子どもの参加)→元気のある地域か否かを評価できる。
⑥ 里山の食生活
⑦ 自然体験の有無による子どもの生活の度合い(非行との関係など)
⑧ 活動によりどれだけの資金が得られたか
報告書には生業としての農林業の継続は難しいがそれに代わる、里山を保全する形の提案を読み取ることは出来ない。県がこの報告書に基づき、作った里地里山の指針を読んでも具体的な方策は読み取ることができない。
あしがら農の会は荒廃地の保全を25年行ってきて、それなりの成果を上げていると思うがどうなのだろうか。例えば、美しい久野里地里山協議会の活動地域だけでも、農の会が農地の保全を行っている面積は4ヘクタールほどある。その場所は耕作放棄農地の回復と言って良い。そして現在も農地利用の希望者は存在する。私を含め生業として新規就農者が実際に農地保全を行っているのである。そのやり方はこの地域で農業をやりたいと考えるものや、自給的に農業をやりたいというものが、新規に就農しているだけのことだ。それはあしがら地域全体では、30ヘクタールを超えている。あしがら農の会ではその新しい人たちを呼び込む役割を25年行ってきた。このやり方を神奈川県各地で展開すれば、里地里山が保全されるはずである。
農の会は神奈川県のNPO団体である。県に登録をしている。活動の報告も行っている。それでも多分県の担当者は農の会の活動を知らないのだろう。知らないという事は仕方がないことではあるが、知らないまま里地里山の農業は出来ないと考えているような気がする。今行われている何故里地里山地域の保全については、何回も報告をしているにもかかわらずである。理由が私にはよく分からない。神奈川県西部における里地里山農業の可能性を、あらゆる側面から考えてみる必要がある。法律の整備屋法の施行の為の努力を行えば、充分に神奈川西部の自給農業は可能である。自給農業が広がれば、里地里山の保全はかなり広がるはずだ。従来の農業の発想を転換しなければ、神奈川の里山は荒れてゆくことになる。