蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

家守綺譚

2006年10月09日 | 本の感想
家守綺譚(梨木香歩 新潮社) 明治の頃。若死した友達の父親から留守宅の管理(家守)を頼まれた主人公が、その家の庭や周囲で遭遇するさまざまな怪異(サルスベリに惚れられたり、池に河童がでたり、狸にばかされたり)の話。

先に「村田エフェンディ滞土録」を読んでしまったが、どうもこちらが先に出版された「正伝」のようだ。河童や狸の出現にも全く驚かない犬好き(多分、人間より犬を愛している)隣家のおばさんや蛇や虫を集めて薬にすることを商売にする長虫屋、死者なのに時々床の間の掛け軸から出現して怪異の謎解きをする主人公の友達、など枝分かれして書かれそうな魅力的な登場人物が多い。

わずか150ページほどの短い本で一つ一つのエピソードも数ページだが、想像力を刺激される内容で、その何倍ものページ数を読んだような錯覚を覚えた。何度読み返してもそのたび新しい発見があるように感じさせる、読んでいてとても楽しい本だった。

最近、文庫が刊行されたが、私は図書館で借りて読んだ。単行本の装丁(見開きもふくめ)がまたとても美しい。一方で、事件らしい事件が起きるわけでもなく、多少へんてこりんなことは起こるものの日常を淡々とつづった物語が好みになったのは、年とったせいかなあ、とも思う。10年前の私がこの本を読んで面白いと感じたかというと、かなり疑わしい。

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