蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

旅のつばくろ

2020年05月03日 | 本の感想
旅のつばくろ(沢木耕太郎 新潮社)

沢木さんの作品のほとんどを読んでいるが、小説はどうもイマイチのような気がする。

「一瞬の夏」は、スポーツを題材にした本としてはジャンルと時代を超えて最高傑作の一つだと思う。ノンフィクションといっても、著者の思い入れがみっしり詰まっていて小説みたいなものだと思うのだが、同じボクシングを扱った小説の「春に散る」はどうもあんまり面白くなかった。

私としては著者の真骨頂はエッセイだと思う。「バーボン・ストリート」シリーズ?はどのエッセイも珠玉の出来だったし、「深夜特急」はノンフィクションというよりエッセイに分類されるべきだと思う。

そんな沢木さんの(国内とはいえ)旅をテーマにしたエッセイ集ということで、非常に高い期待をもって読み始めた。
うーん、まあ、エッセイとしては一級品だと思うし、大作家のエッセイなどによくある楽屋オチ的な脱線もなくて、どんな文章(仕事)にも全力投球する、という著者のポリシーが反映されているとは思うけど、期待ほどではなかったかな・・・

「がんばれ宇都宮線!」が面白い。新幹線に乗り遅れそうになって、渋谷から東京駅に行くより埼京線で大宮に行った方が早い、と気づくという話なのだが、極めて日常的な光景も沢木さんの手にかかるとスリリングな冒険譚になってしまうのが、うまいなあ、と思った。

(蛇足)JRの大宮―横浜間はおそらく世界有数の多路線並行区間のはずで、それなのに、乗り継ぎ等の時間に相当な配慮がされてダイヤが組まれていることが(日常的に利用している者には)よくわかる。多分、沢木さんもこの巧妙なダイヤの受益者だったのだと思う。(沢木さんは普段この辺りの区間とは縁がないらしいので実感できなっただろうが・・・)

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