殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

続・続長靴談義

2011年10月18日 16時45分13秒 | みりこんぐらし
先月の話になるが、安子さんのご主人の初出勤がやっと決まった。

   「月曜日の朝6時半までに行ってくださいと伝えて」

「あんた、月曜日の6時半だって」

安子さんは、そばにいるらしきご主人に伝える。


「げ~つ~よ~び~?何日~?」

ご主人の声が聞こえる。

いかにも不機嫌そうな口ぶり。


「26日よ」

安子さんはご主人に言う。

「26日~?」

「そうよ、26日の6時半」

「ろ~く~じ~は~ん~?」


何べん聞き返したって、日にちも時間も変わりゃせんわい。

往生際の悪い男め。

本当は働きたくないのだ。

   「難しかったら、無理しないでよ」

「ううん、行く、行く…ね、あんた」


安子さんのご主人は、1日だけ働いて月末を迎えた。

30日の夕方、安子さんから電話があった。

「給料はまだかって、今朝から旦那がうるさいのよ」

さすが!どこまでも、はずさない男!

こうでなくっちゃ!

私は心中でひそかに拍手する。


「面接の時、月末締めで現金手渡しと言われたそうなんだけど

 もう月末よね…」

    「締めが月末で、支払いは翌日よ。

     今月は土日がかかってるから、遅くて3日になるかもしれない」

「あんた、3日だって」

安子さんは、かたわらで聞き耳を立てているらしきご主人に伝える。


「3日っ?!何曜日っ?!」

電話の向こうから聞こえるご主人の質問は

仕事の日程を連絡した時と違い、かなり真剣なご様子。

「月曜日よ、月曜日!」

安子さんも気合いが入っている。   


    「ごめんなさいね…はっきり何日って、言っておけば良かったのよね。

     配慮が足りなかったわ。

     ご主人の性格がここまでとは知らなかったもんだから」

「いいのよぉ、気にしないでぇ」
   
私にすれば、けっこうイヤミのつもりだが

安子さんには冒頭の謝罪だけ通じた様子で、かなり満足げである。


人からの謝罪を栄養に生きる人は、いるものだ。

チャンスと見れば、小さなことでも栄養に変換したがる。

欲しがる人には、与えてやればいい。

引き換えに、多くのものを失えばいい。


「たった1日分のことで悪いんだけど

 はっきりしておいてもらわないと…ねえ」

    「申し訳なかったわぁ。

     働くほうにしてみれば、まだかまだかと思うわよね…

     口に出すか出さないかだけで。

     ほんと、すみませんでした」

前後に謝罪の言葉をくっつければ

間で何言ったってわかりゃしないのだ。


「利用されてタダ働きさせられたんじゃないかって

 あんまり心配するもんだから」

そこまで言うか。

拍手!拍手!

大変、大変と人に訴え、気の毒、気の毒と同情してもらう暮らしが長引くと

言っていいことと悪いことの区別が、あいまいになるらしい。


これを夫にそのまま伝えたら、怒り狂うのはわかっているので

給料日がいつだか聞いていた…とだけ伝えたが、やはり怒った。

「給料日は明日だ!1日が待てんのか!

 旦那も旦那だけど、シャーシャーと電話してくる女房も女房だ!

 もういらん!もう知らん!」

労働する者の気持ちがわからない者と、首を長くして待つ者…

本当は、間に立つ私が両者の調整をしてやらないといけなかった。

日光あたりのお猿さん程度にハンセイ。


翌日のこと、夫は雇い主から

安子さんのご主人の給料1万円也をことづかった。

一晩経ったらケロリの夫は、その足で安子さんの家まで届けたので

お礼の電話があった。

「ありがとう!さっきご主人が、わざわざ届けてくださったの!

 3日と言ってたのに早くて、旦那とびっくりしちゃった」

金さえ届けば、謙虚で明るい夫妻であった。


もう声をかけない!と断言していた夫であるが

今月に入って忙しくなり、安子さんのご主人に

お出まし願わなければならない状況になった。

その上、もう一人必要になったので

前から仕事の口を頼まれていた人に行ってもらう。

しかしその人は、向こうの社員の口のきき方が気に入らないと言って

初日に途中で帰ってしまった。


夫の中で、安子さんのご主人の株、急上昇。

「あの旦那はえらいよ。

 ちゃんと頑張ってくれるもんな。

 今月分の給料日は来月の1日だから、早めに言ってあげてくれ」

この変わり身…あきれながらもちょっと嬉しくなって、安子さんに電話した。

夫が言っていたことも話す。


「旦那に聞いた、聞いた。

 途中で投げ出すなんて無責任だって、うちのも言ってたわ。

 いまどきはどこも厳しいんだから、少々のことは我慢しないとねえ」

働かない亭主のことをバカだアホだと言いながらも

そこはやはり女房…人から良く言われると嬉しそうだった。


ところで、気になっていた長靴。

買ったのか、と聞いてみた。

「別に無くても働けるみたいだから、買ってないわ」

ということであった。
コメント (40)
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