殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

いちご大福

2009年12月09日 11時38分37秒 | みりこんぐらし
オケ屋(仮名)のいちご大福が好きだ。

ここのは白あんである。

トロトロに柔らかいお餅の中に

さっぱりした白あんを薄~くまとった

とびきり甘くて大きないちご様がおられる。

私が死んだら、ぜひ供えてもらいたい。


オケ屋は、家から車で1時間くらいの所にある。

しかも、行ったついでに買物…なんていうしゃれた町ではない。

だからそこへ行くには、いちご大福のためだけ…という

強い情熱が必要だ。


先日買いに行った。

お世話になっている人にも食べてもらいたいと思い

6個入りを7箱買った。

だが、この日はひとつ問題があった。

夫が一緒だったのだ。


この男、自分のやってることがやってることなので

普段は私の言動に寛大だ。

何をしようと、口をはさむことはない。

ま、それだけ妻に興味が無いからとも言えるがね。


しかし、豹変することが2つだけある。

家具を買うのと、人にものをあげることだ。

女以外のことで喧嘩になったケースを思い出すと

たいていこの2つが原因。


たとえば去年…モダンなチェストを衝動買いした。

小さいので車で持ち帰ることにしたはいいが

帰り道でヤツの怒るまいことか!


いやがらせに猛スピードで蛇行運転を始める。

後部座席に乗せたチェストの角が

車のリアウィンドに何度も激しく当たり

チェストと車のガラスは大きな傷を負った。

運ばされるのがイヤなのかもしれないが

配達してもらう時も、類似の反応を示す。


人に物をあげる時も厄介だ。

全力で阻止しようとする。

誰かにしてもらうばかりの人生を送ってきたため

たとえわずかなものでも、あげることに慣れていないのだ。


何年前だったろうか、私の真珠のネックレスを盗み

女の厄年にプレゼントしておきながら

肉体関係の無い他人にはこれである。


余談であるが、この事実をずいぶん後になって偶然知った。

消えた時期、ブランド、玉のサイズからいって間違いない。

どこかの葬式で「彼がくれた」と自慢していたというものを

奪還する気にはなれなかった。

真珠はすでに穢(けが)れたのだ。

女房のお古と知らずに喜ぶのが、なんとなくあわれに思えたし

指輪のほうでなくて良かった…という気持ちもあった。


この時の夫の心情は

女の欲しがっている物がたまたまそこにあった…

というごくライトな感覚だったと察する。

飽き始めている心に自分でも気づかず

タダで済みながら女の機嫌のとれる方法を模索したに過ぎない。

当然であるが、そこに妻の人権は無い。


まだのぼせているなら宝石店へ連れて行く。

金持ちならいざ知らず、気持ちの離れ始めた一般庶民の男としては

そこでもっと高価な物に目移りされたら困るのだ。


オスの不可解な行動というのは、たいていこのような時期に起こる。

ちょっとうざいかも…でも会えばかわいいし…

蜜月が終焉に向かって揺さぶられるブランコ期。

突飛で残酷に映る行為は、その混乱から生じたものである。

自分でもわかってないのだから、他者に理解できるはずがない。


そしてブランコ期は、のぼせ期より何倍も長い。

だからその間に色々なことが起きてしまう。

ここらへんのメカニズムに気づいていなければ

夫の愚行を鬼畜の仕打ちと、不必要に恨んだであろう。


ま、女には心も体も物も、気前良く何でもやるくせに

人にはうるさい。

憎たらしいのは同じだ。


しかし、最近は私も考えるのだ。

今までは争いを避け、だましだましやり過ごしてきたが

年を取ると一緒に出かける機会も増えて、そうも言っていられない。

そこで慣れさせたいという衝動が働き

その足で各方面へ配達する暴挙に出た。

生ものというのが、私の決心を促した。


四軒回った頃には、夫はもう息も絶え絶え。

脂汗まで流してものも言わず、顔が鬼。

今日はこれくらいで勘弁してやろう…と帰宅する。


    「明日会社に2箱持って行ってね」

そこで夫はとうとうキレた。

「おまえ!さっき行った誰かとデキてるんじゃないのかっ!」

    「お~ほほほ!妬ける~?」

…そんな男がいたら、いちご大福ぐらいじゃすまんわい。


翌日、やっと機嫌を直した夫は

いちご大福2箱をシブシブ会社に持って行った。

「今日中に食べないと腐るよ!」が効いたらしい。


その日、仕事から帰るなり嬉しそうに言う。

「みんな喜んで食べてくれたよ。

 こんなうまいもん初めてという子もいた。

 お客さんにも出したら、すごく喜んだ」

     「人の喜ぶ顔って、嬉しいでしょ」

「うん!」


夫、半世紀余り生きて、初めて人様に何かさしあげる喜びを知る。

つらい戦いであった。
コメント (33)
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