殿は今夜もご乱心

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現場はいま…新たな展開なのか?・6

2022年03月13日 12時03分28秒 | シリーズ・現場はいま…
「お父さんとお兄ちゃんと、3人でこっちにおいでよ」

F社長は言った。

今度は父子3人、セットでの勧誘だ。

けれどもこれは、「捨てる神あれば拾う神あり」と喜ぶ類いではなさそう。

F社長は永井部長と、彼を重用する本社に復讐するつもりだと思う。


彼が前回、夫と次男を誘ってくれた時から約1年の間に

彼の会社は山陰への進出をはたしたが、県内にも数ヶ所の拠点を増やしていた。

その拠点は、我々の住む町の近くまで来ている。

我が家の男3人は当面、それらのどこかへ投入されるだろう。

F社長は、とにかく人手が欲しいのだ。


元々人数の少ない会社から、中枢を担う3人がまとめて抜けると会社は回らない。

行く所の無い佐藤君とヒロミは残るだろうが

3人に付いて来る社員もいるだろうし、これを機に辞める者も必ず出る。

その際、キーマンになるのは重機オペレーター見習いのシゲちゃん。

運転手は探せばいくらでもいるが、重機オペレーターは滅多にいないからだ。


まだ誰にも言ってないので、彼がどうするのかは不明だが

付いて来る、あるいは辞める場合

積込みをする者がいなくなるので、その日から商売はできない。

残ったとしても、彼の技術と精神力が出荷のスピードに追いつかないため

彼には耐えられないだろう。


働き手が減ると売り上げが上がらないので、会社は早晩、閉鎖される。

会社を枯らすには、まず人から枯らして行くのが早いのだ。

閉鎖と言ったら大ごとのように聞こえるかもしれないが、今どきは普通。

支店が複数ある会社は、人員を他の所へ移動させればいいので

経費だけかかって儲からない部門は気軽に閉鎖する。


本社も昭和から平成にかけて吸収や合併を繰り返し

県の内外に拡げた支社支店を次々に閉鎖している。

中途で合併した会社には愛着が無いため

利益が出なくなったら容赦なく切り捨ての対象となるのだ。

もちろん、我が社も例外ではない。


で、閉鎖したらどうなるか。

F社長はかねがね、我々と同じ建設資材の卸業を始めたいと考えている。

そして地の利を考えた場合、我が社の立地がぴったりだとも言っている。

そこで閉鎖された跡地を入手し、同じ商売を始めたとしたら…

しかも同じ場所で同じ仕事をするのが、まさかの3人だとしたら…

本社と永井部長に対する、ものすごい嫌味だ。


それが万一うまく行って、前より発展したら…

今までのやり方がまずかったと証明されたのと同じだ。

本社にとっては赤っ恥、ハンカチを噛んで悔しがるだろう。

F社長は最終的に、これを狙っているような気がする。


そんな回りくどいことをしなくても、永井部長が憎たらしければ

貸した150万の請求書を持って本社へ乗り込み

彼の所業を社長や取締役にぶちまければいいようなものだが

そうはいかんのよ。

このような場合、返済の容易い150万では少ない。

話を聞いた本社はその場で、永井部長の代わりにお金を返し

F社長は領収を切って帰るしかなくなる。


するとどうなるか。

F社長は、貸したお金に困って回収に来たチンピラに仕立てられる。

たとえ真相は違っていても、「結局はそういうことでしょ?」ということになり

ひどく残念な形で終了してしまった前例には事欠かない。


そんな憂き目に会って評判を落とすより、この件を有効に利用する方が賢い。

借金のままにしておけば、永井部長にとっては生涯、脅威であり続ける。

二度とF社長に近づけないため、仕事の邪魔をしなくなるだけでなく

本社が獲得を狙う仕事に競合し、勝ち取ることができる。

F社長と接触したくない永井部長が、先に引くからだ。

やろうと思えばの話だが、本社の絡んだ仕事に

永井部長お得意の飛ばしや割り込みを用いるのも自由自在。

結果的に永井部長が踏み倒した150万は

何倍もの収益になってF工業に返ってくるというわけである。


ところで転職対象の3人は、どう思っているのか。

永井部長の弱みを知った余裕からか

「返事をせかされるわけでもなし、急ぐことはない」

などと言いつつ、淡々としたものだ。

「チャーターは地元の業者を使え」という彼の命令にも従わず

依然としてF工業をガンガン呼んでいるが、不思議と何も言って来ない。


それもそのはず、次男が永井部長の発言をF社長に伝えた後

腹に据えかねた社長は彼の携帯に電話をかけた。

しかし、何度かけても出なかったという。

以来、出ないとわかっていても、時々かけているそうで

これが牽制になっていると思われる。


ともあれ、どっちへ身を振るにしても、鍵になるのは河野常務の進退…

などと話し合っていた先週の始め、その常務がコロナ感染。

いつぞやのダイちゃんに続いて、嘘のような本当の話だ。


今回も本社では数人が感染したが、常務以外はごく軽症。

抗癌剤を使用しているからか、常務だけが重症に陥り

会社の進退どころか生命の進退が問題になっている。

このシリーズに取りかかった時には、予想もしていなかった。


年老いて頼りにならなくなったとはいえ、一応は恩人の危篤だ。

建て前が含まれているが、こんな時に動くわけにはいかない。

しばらくは彼の全快を祈りつつ

一方で全快しなかった場合のことも考えながら

静かに過ごそうと思っている。

《完》

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (田舎爺S)
2022-03-13 14:13:50
F社長にも見通しというか、構想が見てとれるということですね。
そんな時に河野常務さんが・・・
天の時を得ないときは、動かず、じっと静観する。
なるほど、です。
返信する
Unknown (モモ)
2022-03-13 18:21:42
なるほど。無知な私の考えでは、商売とは感情で動かず、時と利と義理をもって動くのでしょうか。
勉強になります。
返信する
Unknown (みりこん〜田舎爺Sさんへ)
2022-03-13 21:09:31
実現するかどうかは不明ですが
構想は多分、この路線じゃないかと思います。

私も常務の病状を聞いて、天が「ちょい待ち」と
言っているのかな、と思いましたよ。
動かずに静観する時間も大事ですね。
返信する
Unknown (みりこん〜モモさんへ)
2022-03-13 21:19:43
商売は時と利と義理をもって動く…
その通りだと思います。
それがすなわち合理的に動くということですね。

感情が入ると、感情で動くのではなく
感情に動かされ、支配されるので
あまり良い結果は得られません。
こちらこそ、勉強になります。
返信する

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