激怒している夫の話によると
D氏が本社へ抗議の電話をしたところ、夫の名前が出たため
今度は夫の会社に電話をかけ、ののしったそうである。
「女房とグルになって土地を奪うつもりじゃ!言うて
決めつけやがった。
ワシが我慢すりゃあ済むことじゃけん、それはまだええが
Dの野郎、本社を脅すみたいなこと言いやがったんじゃ」
「どう言うて?」
「それなりの詫びを入れてもらわんと、こっちもおさまらん
詫びの入れ方次第では訴訟も考えとる、と言うたらしい」
「ひえ〜!車、置いただけで訴訟!」
「たまたま電話に出た社員に言うたそうなけど
河野常務が出張中じゃけん、別の取締役に伝えて
こっちへ連絡が来たんよ。
大恥かいたわ」
「ホンマ、大恥じゃね」
「Dのことはワシが責任持って納める、いうて本社に言うたけど
これで土地の売買は完全にパーよ。
あんなのが間に入っとったら、誰でも嫌になるわ。
サチコのやつ、あげな外道を飼ようるんか」
我々夫婦はこの時点で初めて、お互いの話をすり合わせた。
発端はやはり、夫が私に何も知らせないまま
駐車場としてサチコ所有の土地を勝手に貸したことだ。
「何でひと言、言うてくれんかったん?
うちらの関係が難しいのは、わかっとるじゃろ?」
私は夫を軽くなじった。
「知るかい!もし言うたら、止めたろう」
「100パー止めた。
大ごとになるの、わかっとるもん」
「ワシは売れる思うたんけん、勝負に出たんじゃ」
元が親切心とはいえ、とんでもないことをしてくれたもんだ。
再婚家庭は、夫婦の死亡時期によって遺産の行方が大きく変わる。
うちは父が先だったので、残された妻のサチコが相続した。
先妻の子供である私と一つ下の妹は
サチコと養子縁組をしていないため、戸籍上は他人だ。
よってサチコ亡き後は、彼女の実子マーヤ一人に相続権が発生する。
偉そうに遺産と呼ぶほどではないが
このままそっとしておけば、あの土地を含めた何もかも
マーヤの家系に移る予定だったのだ。
固定資産税だけかかって使い道の無いあの土地は、絶対にいらない。
我々継子は当時、養子縁組をしなかった幸運に安堵したものだ。
それをみすみす…慚愧の念にかられる私であった。
しかし、夫の気持ちもわかる。
建設業界は、即断即決の多い世界だ。
小さいことでグズグズしたら、足元を見透かされて舐められるのも確か。
駐車場に困っていると聞いた夫が
「ちょっと待って、今、女房に聞いてみて
女房がお母さんに聞いて、お母さんからOKが出たら…」
なんて悠長なこと、みっともなくて言えまいよ。
売れると踏んだら、なおさらだ。
ここぞという一瞬を逃すと、可能性が消えてしまうのは
建設業界人の女房を長くやって、わかっているつもり。
特に夫は、勘と運だけで生きてきた男だ。
彼に“配慮”という小美しい道徳を求めたって、無理じゃわ。
とにかく、やっちまったものは仕方がない。
私は諦めて、土地の譲渡に応じた。
しかし彼らの要求は、それだけではない。
譲渡にまつわる手数料、書類を作成する司法書士への報酬
譲渡後に来る土地取得税…
それらの全額を私が支払うという、屈辱的な全面降伏。
「Dのことはワシが責任持って納める」
夫は本社に約束したと言うが
結局、私がアレらの要求を呑むことでしか解決しない。
夫にできることといったら
それらの料金と、今後発生する固定資産税を稼ぐことぐらいだ。
頑張って働いてもらうしかない。
数日後、D氏は広島から若い司法書士を呼び、私とサチコに引き合わせた。
D氏もサチコも、事がうまく運んで上機嫌。
アレらの言い分だった、「継子が後妻の資産に手を出した」
というフレーズは1ミリも出ない。
その単純を憎々しく思ったが、こちらも何食わぬ顔をした。
書類は、すでにできあがっていた。
サチコが土地の所有権を放棄し、みりこんに譲渡するという文面だ。
私とサチコは、その書類に実印を押した。
そうよ、今になってサチコが「広島の司法書士の名前があった」
そう主張するのは、このことであり
「サチコが家の権利を放棄して、みりこんに譲るという書類」
というのは、この時の書類の内容を勘違いしているのだ。
「私がサチコの実印を無断で押した」というのは
サチコが自分で押したものなのである。
話は戻り、30代らしき司法書士は小太りの話しやすい男だった。
「初めて来た」、「今後ともよろしく…」の言葉から察すると
D氏との面識は、それまでほとんど無い様子。
私の軽い頭に疑問が浮かんだ。
「司法書士は市内に2人、隣の市にはもっといるのに
何で広島くんだりから呼ぶ必要が?」
その疑問は後日、請求書が届いてますます大きくなった。
譲渡手続きの手数料として数万円、司法書士の報酬が数万円…
これはまあ、仕方がない。
加えて広島からの出張日当、及び交通費として
1万円が加算されとるじゃないの。
日当と交通費で1万円は良心的とは思うが
市内の司法書士を使えば、これは必要なかったはずだ。
請求書が届いた翌々日、D氏はうちへ集金に来た。
近くに用があったと言うが、振り込みでは都合が悪いのか
早く現金が欲しいのか。
市内に2人いる司法書士を使わず、広島の司法書士に依頼した疑問も
依然として残っている。
つまりD氏は金払いが悪くて近くの司法書士から相手にされず
何も知らない遠くの司法書士を探して、呼んだのではないのか。
以上のことから、私はD氏を真性の金困(カネコマ)族と認定した。
羽ぶり良さげに振る舞っても、内情は火の車…
そう結論付けると、彼が夫や私に向けて必要以上に強い言葉を吐いたり
本社に脅迫めいた電話をかけて
騒ぎを大きくしようとした意図もわかるというもの。
本業がサッパリなので別件、つまり脅迫という不労所得で
お金が引き出せないか模索したと思われる。
が、そこはしょせん小者。
さすがに無茶なので、手数料をかさ増しして
わずかな小遣い銭を稼ぐのが精一杯、というところだろう。
後日、土地取得税の納付書が届いたので支払い
結局、譲渡にまつわる出費は合計15万円ほど。
土地が小さいので、取得税が少なくて済んだのかも。
翌年から固定資産税の納付書が私に届くようになり、現在に至っている。
《続く》
最終戦争(ハルマゲドン)の伏線?が以前からあったんですね。その伏線回収がこれから始まるんでしょうか…
ハゲ丸ドンはまた現れるのでしょうか
次の展開を首を長くして待っております
うちの揉め事は先方の思い込み(勝手な恨みつらみ)なので、被害届もその後動きが止まっているようですが、その後防犯カメラを2台も設置され、我が家は監視対象のようです
庭木の手入れや外構設置にお金をケチった結果を隣のうちに物言いをつけといて、カメラは買うんだと呆れております
小者と組むのは お代官様。
サチコさんに 悪代官の異名を送ります。
でも 悪代官達の企ては 爪が甘いから みりこんさんには
全てお見通しって事で。
そして 私達読者は ブログで楽しませて頂く。
ありがとうございます。
座布団5枚!
次を待ってくださって、ありがとうございます。
ハゲ丸ドンは次でお別れの予定です。
思い込みって怖いです。
思い込みの激しい人って、見当違いのことを
したがりますよね。
暇で人に相手にされないからか
ドラマの見過ぎで監視も大好き。
嫌な感じ!
そんなヤツ無視して、ちぃやんさんが安らかに
生活できますよう、お祈りしています。
家の中の物や写真などの処分を始めましたが
土地も終活の一つだったようです。
あの頃は、今よりしっかりしていましたね。
悪代官のネーミング、ピッタリじゃん!
生まれながらに腐っている人間はいるものです。
しかしほんと、詰めが甘い。
頭で悪さを考えるばっかりで、世の中の常識や人の心を
知ろうとしないからだと思います。
楽しんでいただけていたら、嬉しいです。
ありがとうございます。