Sさんからもらったシワ取りクリームのブツブツが消え
季節は秋から冬に変わった。
そして先日、最初にお話しした
“奥さんの軽自動車を誰かに30万で売りたい”
Sさんは、この要望を次男に伝えた。
つまり彼はディーラーでの査定をせず
言い値で買ってくれるお人好しの知り合いを紹介しろと言いたいのだ。
ここに、我々母子は違和感を持った。
車の売買に関してシロウトの次男に
そんな話を持ちかけるなんて、バカにしているではないか。
次男の知り合いなら、似たようなのがいると踏んだのか。
それにSさんの奥さんは、仕事に行っている。
仕事を辞めたとしても、不便な田舎なので車が無ければ困る。
よって車を買い替えたい場合は業者へ下取りに出し
その買取金額を元手に新しいのを買うのが
世間の常識というものだろう。
しかしSさんは、奥さんの車をただ売りたいだけ。
中古車販売業者だと値を叩かれるので、個人に売りたいのが人情だろうが
だったら奥さんはもう、車を必要としない状況にあると考えられる。
おかしいではないか。
次男は続けた。
「店の2階から、例の女の子が降りて来たのを見たんよ」
Sさんの店の2階は、居住スペースだ。
「トイレなら1階の店の奥にあるし、慣れた感じで
トントン…って降りて来た。
その音を聞いて、車を売る話は忘れたフリするって決めた」
賢明である…私は言い、次男に素朴な疑問をぶつけた。
「その子、専門学校へ行ったんじゃないん?」
「辞めて帰って来て、町内の居酒屋でバイトしようる」
「はあ?」
確認はしてないが、奥さんはおそらく家を出て
二人の息子さんのどちらかの所へ行ったと思われる。
息子さんたちは都会で生活しているため、車は必要無いので置いて行った。
それでSさんは、乗り手のいなくなった車をお金に変えたいのだ。
奥さんの要求で慰謝料の一部になるのか
店の運転資金か、それとも単に遊ぶ金欲しさかは不明だが
旦那の浮気相手が10代のガキ…
奥さんの衝撃は、いかばかりであろう。
茶髪のすれっからし、しかも子供に家庭を壊されたのだとしたら
腹が立つどころの騒ぎではないだろう。
こうも年が離れると、相手の若さはすでに問題ではない。
自分の旦那が犯罪スレスレのことをしでかした怒りや
ガキに鼻の下を伸ばす異常性に、鳥肌の立つ思いが先に来るだろう。
呆れてモノが言えないとは、このことだ。
奥さんがいなくなったSさんの家で
女の子はすでに女房気取りかもしれない。
年の離れた若い相手には
同年代の相手とはまた違った残酷がある。
人目を忍ぶわきまえを知らず、本人がいたって無邪気だからこそ
やることがえげつない…
若さゆえ、無知ゆえの残酷だ。
覆水を盆に返す気が無いのであれば、私は奥さんに教えてさしあげたい。
暴力でも訴訟でも、女を無傷で済まさない決意を旦那に示すこと。
それにビビッて旦那が謝った時は
「あんたの謝罪はいらない、私が欲しいのは女の謝罪」
そう言い切ること。
妻は、女に危害を加えたり謝罪をしてもらいたいわけではない。
むしろ対面どころか、すれ違うのも嫌なので関わりたくない。
妻の願いは、時間を浮気前に戻して欲しいことだけである。
けれどもタイムマシンなんて無いんだから、無理なことはわかっている。
そこで不実な亭主に向け、恨み言の羅列になるわけだが
ダラダラと何を言ったって、のぼせた男にはこたえない。
しかしこの二つを言えば
気の小さい浮気亭主は一発、いや二発で凹む。
そうさ…浮気する男は概ね、気が小さいものだ。
そして男の気の小ささは、経済力に比例する。
経済力が乏しい庶民だから、安く遊べる異性によろめき
その乏しい経済力を妻と愛人が取り合うから、ゴタゴタするのだ。
ただし、この二つを言ったら、多くの場合は離婚しか無くなる。
男はこれから先、妻の機嫌をうかがいながら
結婚生活を続けて行く実力が無いため
尻をからげて逃げ出すからである。
これを言って、離婚に至らなかったのが我々夫婦だが
さして特殊な現象ではない。
これを言うと、二人が駆け落ちして姿を消すので
そのまま、ついなあなあになってしまっていただけである。
ともあれ、Sさんのお宅に勃発したらしき事件。
我々母子が想像する通りなのか、または杞憂に終わるのか
現在のところは不明である。
Sさんが主催する忘年会は、毎年決まった店で開かれていたが
今年は問題の女の子がバイトしている居酒屋に変更された。
次男は誘われたが、断ったという。
「君子危うきに近寄らず…偉いが」
そう褒めると
「あの居酒屋、料理がショボいもん」
だってよ。
《完》
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