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殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

他人の夢・2

2022年10月22日 14時25分06秒 | みりこん流
東京からこの田舎町に移住して起業したい…

そうおっしゃる見知らぬ娘さんに、地元住民を紹介することとなった私。

こういう場合の人選は大事だ。

それは、各方面に精通している適任者を探すことではない。

ちょっと顔が売れていれば、その人脈でたいていのことはまかり通るのが田舎なので

そんなのはゴロゴロいる。

一番大事なのは、この話がコケた時に「ゴメン」で済む人間だ。


殺風景なIT系であれば、青い海やのどかな田舎の風景が意欲をそそるかもしれないが

アパレルは、かなり夢ゆめしい世界である。

瀬戸の小魚、お年寄り、作業着と軽トラの似合う町でインスピレーションが刺激され

素敵なデザインが生まれるとはとても思えない。

私が田舎者で古いのかもしれないが、ファッションというのは

パリ、ミラノ、ニューヨークなど、洗練されたお洒落な人たちがたくさんいる都会で

発展するものではないのか。


また、ネット販売を手がけるということは、別にこの町でなくてもいいわけで

気候や風景が良くて家賃の安い空き家村なら、全国どこにでもあるじゃないか。

助成金の中には現地視察の旅費も含まれているため

それを使って旅行気分のヤカラもいないとは言えない。

事実、東京娘は、一緒にショップを運営する仲間と3人で視察に来ると言った。

私が今一つ熱心になれない理由は、ここにある。

自分がトップなら、一人で来て一人で決めればいいじゃないか。

一緒にミシンを踏むお友だちと田舎へ来て、何が決まるというのだ。


こちらに移住して商売をやりたいという人がいれば、もちろん歓迎するが

彼女がこの町で自活したいと真剣に思っているのか…

「それも有りかな」と思っているだけなのか…

それがわからないうちは、話が立ち消えることも考慮しておく必要がある。

田舎の人たちをさんざん振り回したあげく、やっぱりやめます…となった場合

ゴメンで済む人でないと、こっちが恨まれてしまうではないか。

私の役目は、移住希望者の夢を叶えるお手伝いをするというより

夢夫さんや夢子さんの思いつきを水際でふるいにかけることかもしれなかった。


そういうわけで、私の人選はKさん一択。

彼は夫の友だちで、奥さんは私の友だちだ。

前職の仕事柄、移住希望者の相談に乗った経験が豊富で

定年退職後は別の所に勤めているが、現役の頃より暇がある。

よって、海のものとも山のものともわからない遊び半分の用事を頼みやすいのだった。


東京娘は10月にこちらへ来ると言うので、Kさんには軽く下話をしたが

彼は立ち消えになる可能性が高いことを知っていた。

「アパレル関係は難しいよ。

その方面の人から移住の相談を受けたこともあるけど、僕の経験じゃあ全滅よ。

移住しても続かんと思う。

まあ、実際に来たら会うよ」


やっぱり…と思うが、余計なことは言わず

Kさんの返事だけを真知子さんに伝えると、彼女はとても喜んだ。

それを聞いた東京娘も、広島訪問を楽しみにしていると言ってきた。


そして10月になったが、東京娘は来ない。

私も「どうなってんの?」なんて催促はしない。

むしろ、興味本位で助成金を引き出そうとする人間を

水際で食い止めたような気になって満足している。

もはや私のテーマは、以下に絞られた。

移住を断念する理由が何になるか…である。


私はすっかり冷めてどうでもよくなったが

間に入っている年配女性、真知子さんは、東京娘が必ずこちらへ来ると信じている。

彼女らと私を引き合わせたいと燃えているので、ダメ押しをしておいた。

「その時は市長と議員に会ってもらって、応援してもらいましょう」


市長?夫は面識があるけど、わたしゃよう知らん。

議員?そんな親切な人はおらん。

が、そんなことはどうでもええんじゃ。

本気でない者は、話が大きくなったらひるむことを昔のヘリ事件で知った。

本気かどうかをはっきりさせたければ、第三者を引っ張り出して大風呂敷を広げればいいのだ。


心美しき真知子さんはこの話を大いに喜び、さっそく東京娘に伝えた。

そして数日後、真知子さんから、こちらへ来られない理由が発表される。

「東京のデパートで展示会をしたら大盛況で

予約が殺到して忙しくなり、しばらく東京を離れられない」

というものだ。

やんわりとした、良い理由である。

褒めてあげたい。



さて、この地で夢を叶えたい人はもう一人いる。

こっちはすでに移住を済ませた若い男の子。

やはり真知子さん経由で出会った。


そうよ、真知子さんはこのような若者のお世話をするのが趣味みたいなもの。

若者の方も、70代の彼女を慕って自然に集まってくるのだった。

ちなみに彼女は海外と東京の生活が長く、英語を始め何ヶ国語だかがペラペラの

多分イケてる独身女性である。

多分というのは、ダブダブした和洋折衷のお召し物に

地下足袋みたいな靴とか合わせてて、田舎の基準とはかけ離れているため

東京では普通かもしれないけど、こっちじゃ不思議な光景だから。


彼女はその奇抜なファッションを、温かくて上品な人柄で着こなす。

外国に東京と、生き馬の目を抜くような所でバリバリ働いていたにもかかわらず

緊張感を微塵も感じさせないホンワカした所が私にとっては好ましく

お役に立ちたいのは山々だけど…。


くだんの男の子は4年前の西日本豪雨の時に関東からボランティアで訪れ

海と山が隣接する瀬戸内の景色に魅了されて、そのまま定住を決めた。

年は30前後だろうか。

スラリとした彼は物静かで礼儀正しく、武士みたいな雰囲気。

一目でただ者でないことがわかる。


今は山仕事のアルバイトに精を出してお金を貯め、何らかの起業をしたいのだそう。

つまり前出の娘さんとは逆で、先に移住してから起業を考えるタイプ。

一人暮らしの父親もこっちに呼び寄せたというから、本気だ。


ついては地元のおばさんとして、彼のヒントになるような情報を提供して欲しい…

というのが真知子さんの希望。

が、あまりお役に立てそうもない。

こういう子は他人の手をわずらわさずとも、自分でやるからだ。


で、とりあえず瀬戸内の島巡りを勧める、いい加減な私よ。

「海の色が信じられないぐらい綺麗だし、移住者も増えてるから

きっと何かひらめくよ」

などと言ってお茶を濁したつもりだが、彼は違った。

スマホですぐフェリーの時間や港の場所を調べ

「行ってみます」。

この素直には、天が味方するだろう。

東京娘とは、えらい違い。

本当に応援したいのはこういう子なのに

こういう子には応援の必要が無いとは残念なことである。

《完》
コメント (10)
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