自業自得…
藤村と癒着していたM社が仕事を失ったことを指して
私は前回の記事をそう結んだ。
いつも優しい!私にしては、なかなか冷たい言葉である。
なぜそう言ったのかをお話しさせていただこう。
M社は元々、隣町で小規模の土木建築業を営んでいた。
しかし十数年前、仕事に使っていた1台のダンプを
たまたまチャーターとして貸し出したところ
土木工事よりも純益が高いことを知った。
つまり本業がうまくいかないので、宗旨替えをしたのだ。
M社にはしっかりした娘婿がいて
本業と、ダンプのチャーターの両方をうまく運営していた。
しかし舅にアゴで使われる日々が嫌になった娘婿は
一昨年、会社を辞めた。
長年、仕事を娘婿に任せきりだったM社の社長は困った。
突然の喧嘩別れだったので、何もわからない。
そこで社長が頼ったのが、なぜかうちの次男。
次男は10年余り前、ダンプの新車ができ上がるまでの短期間だが
M社でアルバイトをしたことがあり、娘婿と親しかったのだ。
近年のM社は本業の土木より
チャーターの方に重きを置くようになっていたので
土木は知らないがチャーターに詳しい次男は
ほぼ毎日、社長からかかってくる電話の相談に乗った。
仕事の手順を教えたり、取引相手を紹介したり
我が社の仕事でも、M社のチャーターを優先的に使ったものだ。
そのまま1年ほどが経過して、社長も成長したのか
M社が何とか回るようになったゴールデンウィークのことである。
次男は社長から、九州は博多への社内旅行に誘われた。
M社にある使わない土木機械を
次男の口ききで高く売却できたお礼という話だった。
ところが当日、M社に行ってみたら
社長の乗用車が停めてあり、参加者は社長夫婦だけ。
そりゃまあ社長と、会社の経理をする奥さんだけでも
一応は社内旅行に違いない。
社員旅行でなく社内旅行と言ったのは、そういう意味だった。
そして旅行の運転手は、次男に決定済みだった。
こんな場合、塩の効いた男であれば、利用されたと知って腹を立てるだろう。
しかし次男は、自分の運転が信頼されていると思ってしまうタイプ。
こういう性格なので、人からよく頼まれごとをされたり
時にはあからさまに利用されるが、本人は一生懸命取り組む。
その光景をはたから見て、バカにされているのではないかと感じることもあるが
「声をかけられるうちが華」と、彼自身は何ら気にしていない。
私も、気にしないようにしている。
母親の感情としては、我が子のお人好しをあわれに思い
利用する相手に腹を立てることもあるが
誰かのために東奔西走する過程で、彼は着々と知識を身に付けているからだ。
そういう人生の歩み方が向いている子もいるのだと思い
若くて体力のあるうちは、どんどん利用されればいいと考えている。
人を見る目は、実戦でしか養われない。
ビジネスホテルに泊まり、社長夫婦の運転手兼カバン持ちとして過ごした
一泊二日の安旅行…
帰宅した次男から、その思い出話を聞いた私は
この子らしいと思って笑い転げた。
しかし夫は、社長のケチとコモノぶりに
「バカにしやがって!
あいつらを博多へ投げたまま、一人で新幹線乗って帰りゃえかったんじゃ!」
と、怒りをあらわにしたものだ。
夫なら迷わずそうすると思い、また笑った。
ともあれこの一件でM社の社長が
仁義を欠いた人間であることは証明された。
仕事で付き合うのは警戒した方がいい…
と思っていたら夏が来て、63才の誕生日を迎えた夫は窓際に追いやられた。
M社は配車権を握った藤村に取り入り、小遣いを渡す約束をして専属になった。
見事な寝返りであった。
そのまま年末を迎え、やがて年が明けた。
3月になって、藤村は自身の悪行で失脚。
配車権を取り戻した夫がM社を切ったため、M社は自動的に仕事を失った。
それがM社と我々の、今までの経緯である。
そして先日、仕事が無くなって切羽詰まったM社の社長は
再び仕事を振るよう、藤村にせっついた。
夫と次男を無視して藤村1人にぶら下がっていたため
仕事をせがんだり、文句を言う相手は藤村しかいない。
配車権を失った今、どうすることもできない藤村は困った。
M社からの小遣いが入らないのも困るが
社長を怒らせて裏リベートのことを暴露されたら、もっと困る。
藤村は考えあぐねたあげく、M社の社長と松木氏との面談を提案した。
藤村と社長とで、さんざん足蹴にしてきた夫には怖くて頼めないので
松木氏に頼んで夫を説得してもらい
仕事を回すように頼んでもらうという回りくどい方法である。
夫か次男に直接頼めばよかろうに
後ろめたいことがあると、直球は投げられないものだ。
昨日、その面談があった。
面談に臨むにあたり、M社の社長は彼なりの準備をしていた。
神田さんと組んで何かと我が社を揉ませ
藤村の子分として横柄にふるまい
あからさまに夫を見下げる言動を取っていたM社の運転手
通称“チョンマゲ”を解雇して、彼が乗っていたダンプを売ったという。
チョンマゲを辞めさせれば、夫の怒りがとけるだろうと踏んでの措置だ。
コモノ社長にしたら
「ここまでやったんだから、振り向いてくれてもいいだろう」
という目一杯の誠意らしかった。
が、それは無駄であり、誠意とは言えない。
社長はチョンマゲの悪行を知りながら見て見ぬふりをして
取引先がメチャクチャになるのを待ち
藤村王国の設立に加担していたと白状したも同じである。
また、チョンマゲ一人を辞めさせたからといって
M社が救われるわけではない。
社長が夫や息子たちをバカにして、藤村を崇めたてまつるから
社員もそれに倣うのだ。
むしろ、一人で犠牲になったチョンマゲが気の毒である。
面談は決裂に終わった。
「配車のことは、ようわからん」
松木氏はそう言って、のらりくらりとかわし続けた。
松木氏と夫は面談の前に打ち合わせをして
何が何でも逃げ切ると決めていた。
藤村が邪魔な松木氏と
次男の博多旅行以来、M社を忌み嫌う夫との利害は一致しているのだ。
しかも社長、松木氏との面談に手ぶらで来た。
初対面の相手に仕事を頼むのに、手ぶらは無い。
プライドだけは高い松木氏に、ちょっと高級な菓子折りでも渡せば
結果は多少、違ったかもしれない。
面談が不発に終わった社長は、藤村を激しく叱責して帰って行ったと
目撃した次男が言っていた。
社長はこれであきらめるのか、懲りずに別の手を考えるのかは知らないが
いずれにしてもM社の将来が暗いことは確かである。
《続く》
藤村と癒着していたM社が仕事を失ったことを指して
私は前回の記事をそう結んだ。
いつも優しい!私にしては、なかなか冷たい言葉である。
なぜそう言ったのかをお話しさせていただこう。
M社は元々、隣町で小規模の土木建築業を営んでいた。
しかし十数年前、仕事に使っていた1台のダンプを
たまたまチャーターとして貸し出したところ
土木工事よりも純益が高いことを知った。
つまり本業がうまくいかないので、宗旨替えをしたのだ。
M社にはしっかりした娘婿がいて
本業と、ダンプのチャーターの両方をうまく運営していた。
しかし舅にアゴで使われる日々が嫌になった娘婿は
一昨年、会社を辞めた。
長年、仕事を娘婿に任せきりだったM社の社長は困った。
突然の喧嘩別れだったので、何もわからない。
そこで社長が頼ったのが、なぜかうちの次男。
次男は10年余り前、ダンプの新車ができ上がるまでの短期間だが
M社でアルバイトをしたことがあり、娘婿と親しかったのだ。
近年のM社は本業の土木より
チャーターの方に重きを置くようになっていたので
土木は知らないがチャーターに詳しい次男は
ほぼ毎日、社長からかかってくる電話の相談に乗った。
仕事の手順を教えたり、取引相手を紹介したり
我が社の仕事でも、M社のチャーターを優先的に使ったものだ。
そのまま1年ほどが経過して、社長も成長したのか
M社が何とか回るようになったゴールデンウィークのことである。
次男は社長から、九州は博多への社内旅行に誘われた。
M社にある使わない土木機械を
次男の口ききで高く売却できたお礼という話だった。
ところが当日、M社に行ってみたら
社長の乗用車が停めてあり、参加者は社長夫婦だけ。
そりゃまあ社長と、会社の経理をする奥さんだけでも
一応は社内旅行に違いない。
社員旅行でなく社内旅行と言ったのは、そういう意味だった。
そして旅行の運転手は、次男に決定済みだった。
こんな場合、塩の効いた男であれば、利用されたと知って腹を立てるだろう。
しかし次男は、自分の運転が信頼されていると思ってしまうタイプ。
こういう性格なので、人からよく頼まれごとをされたり
時にはあからさまに利用されるが、本人は一生懸命取り組む。
その光景をはたから見て、バカにされているのではないかと感じることもあるが
「声をかけられるうちが華」と、彼自身は何ら気にしていない。
私も、気にしないようにしている。
母親の感情としては、我が子のお人好しをあわれに思い
利用する相手に腹を立てることもあるが
誰かのために東奔西走する過程で、彼は着々と知識を身に付けているからだ。
そういう人生の歩み方が向いている子もいるのだと思い
若くて体力のあるうちは、どんどん利用されればいいと考えている。
人を見る目は、実戦でしか養われない。
ビジネスホテルに泊まり、社長夫婦の運転手兼カバン持ちとして過ごした
一泊二日の安旅行…
帰宅した次男から、その思い出話を聞いた私は
この子らしいと思って笑い転げた。
しかし夫は、社長のケチとコモノぶりに
「バカにしやがって!
あいつらを博多へ投げたまま、一人で新幹線乗って帰りゃえかったんじゃ!」
と、怒りをあらわにしたものだ。
夫なら迷わずそうすると思い、また笑った。
ともあれこの一件でM社の社長が
仁義を欠いた人間であることは証明された。
仕事で付き合うのは警戒した方がいい…
と思っていたら夏が来て、63才の誕生日を迎えた夫は窓際に追いやられた。
M社は配車権を握った藤村に取り入り、小遣いを渡す約束をして専属になった。
見事な寝返りであった。
そのまま年末を迎え、やがて年が明けた。
3月になって、藤村は自身の悪行で失脚。
配車権を取り戻した夫がM社を切ったため、M社は自動的に仕事を失った。
それがM社と我々の、今までの経緯である。
そして先日、仕事が無くなって切羽詰まったM社の社長は
再び仕事を振るよう、藤村にせっついた。
夫と次男を無視して藤村1人にぶら下がっていたため
仕事をせがんだり、文句を言う相手は藤村しかいない。
配車権を失った今、どうすることもできない藤村は困った。
M社からの小遣いが入らないのも困るが
社長を怒らせて裏リベートのことを暴露されたら、もっと困る。
藤村は考えあぐねたあげく、M社の社長と松木氏との面談を提案した。
藤村と社長とで、さんざん足蹴にしてきた夫には怖くて頼めないので
松木氏に頼んで夫を説得してもらい
仕事を回すように頼んでもらうという回りくどい方法である。
夫か次男に直接頼めばよかろうに
後ろめたいことがあると、直球は投げられないものだ。
昨日、その面談があった。
面談に臨むにあたり、M社の社長は彼なりの準備をしていた。
神田さんと組んで何かと我が社を揉ませ
藤村の子分として横柄にふるまい
あからさまに夫を見下げる言動を取っていたM社の運転手
通称“チョンマゲ”を解雇して、彼が乗っていたダンプを売ったという。
チョンマゲを辞めさせれば、夫の怒りがとけるだろうと踏んでの措置だ。
コモノ社長にしたら
「ここまでやったんだから、振り向いてくれてもいいだろう」
という目一杯の誠意らしかった。
が、それは無駄であり、誠意とは言えない。
社長はチョンマゲの悪行を知りながら見て見ぬふりをして
取引先がメチャクチャになるのを待ち
藤村王国の設立に加担していたと白状したも同じである。
また、チョンマゲ一人を辞めさせたからといって
M社が救われるわけではない。
社長が夫や息子たちをバカにして、藤村を崇めたてまつるから
社員もそれに倣うのだ。
むしろ、一人で犠牲になったチョンマゲが気の毒である。
面談は決裂に終わった。
「配車のことは、ようわからん」
松木氏はそう言って、のらりくらりとかわし続けた。
松木氏と夫は面談の前に打ち合わせをして
何が何でも逃げ切ると決めていた。
藤村が邪魔な松木氏と
次男の博多旅行以来、M社を忌み嫌う夫との利害は一致しているのだ。
しかも社長、松木氏との面談に手ぶらで来た。
初対面の相手に仕事を頼むのに、手ぶらは無い。
プライドだけは高い松木氏に、ちょっと高級な菓子折りでも渡せば
結果は多少、違ったかもしれない。
面談が不発に終わった社長は、藤村を激しく叱責して帰って行ったと
目撃した次男が言っていた。
社長はこれであきらめるのか、懲りずに別の手を考えるのかは知らないが
いずれにしてもM社の将来が暗いことは確かである。
《続く》