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殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

続・仁義なさそうな戦い・その2

2016年02月08日 10時46分29秒 | みりこんぐらし

暦は2月に入った。

破壊王、松木氏を送り込み

田中氏との関係を崩壊させた永井部長。

仕上げに松木氏の監督責任を名乗り出れば

今までの失態は消去される。


最後に誰かにババを引かせて

自分は逃げ切る‥

これぞ永井部長の処世術、永井トランプ。

この術で、平穏な日常を取り戻したかに見えた

永井部長だった。


しかしその翌日、運命は再び

彼の監督責任を問うこととなる。

営業部の銀行OB、65才の大下さんを

ご記憶だろうか。

彼の社内不倫が発覚したのだ。

相手は同じく営業部で働く

50代の女性事務員である。


「社内不倫?どこにでもあるじゃないか」

そう言う人が多いだろう。

しかし本社は違う。

どちらかといえば自由でフランクな会社だが

倫、不倫にかかわらず、社内恋愛だけは厳しい。

これは社長の方針である。


40代の社長は、元化学者の秀才。

ひどく頭のいい人の中には

ひどくだらしない人もいるが

反対にひどく潔癖な人もいて、社長はそっち。

しかし偏屈ではない。

明晰な頭脳と端正な外見

かつ穏やかな人格品性で

皆の尊敬を集めている。


聖なる社長は、自身の家庭のみならず

社員とその家族もファミリーと呼んで

気にかける温かい人だ。

一方で、経営者に欠かせない

シビアな合理精神も持ち合わせている。

会社の評判を貶め、社内の空気をよどませ

ファミリーを悲しませる社内不倫は

社長が最も忌み嫌う、非生産的行為なのだ。


そのためかどうか

男性社員が圧倒的に多い中で

数少ない女性社員は

なぜか光浦靖子さん似ばかり。

有能でいい子‥

間違いは起きそうにない‥

そんなタイプだ。


美しいのを連れて来て

「恋をするな」と止めるより

最初から安全パイを採用した方が

より合理的かつ生産性が高い。

人選に作為を感じる私よ。


そういえば合併する時

河野常務からたずねられた。

「ヒロシは、女遊びの方は大丈夫だろうな。

社長はこういうことを一番嫌うからな」

私は胸をはって答えた。

「大丈夫です」

嘘ではない。

夫は女遊びはしない。

全部本気だ。



さて‥

「大変です!

本社は今、パニックですよ!」

大変と言うわりには嬉しそうな

野島青年の密告によれば

時は前夜、場所は深夜の歓楽街。

手をつなぎ、いちゃつきながら歩く2人と

バッタリ出くわした人物がいけなかった。

たまたま会合で訪れていた、社長である。


私は大下さんと面識はないが

毎年1回、新年会で会う夫の表現を借りれば

「幸楽のお父さん」。

ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」で

泉ピン子のご主人役を演じる俳優さんに

そっくりだそうだ。


相手の人には、会ったことがある。

光浦靖子さんが金太郎飴のごとく並ぶ

本社の女子社員の中で

一番女性らしい雰囲気の人だった。


出くわした時、社長が何を言ったかは不明だ。

「もう来るな」と言われたのか

2人が「もう行かない」と言ったのかは

知らないが

翌朝、2人が出勤しないところを見ると

関係を認めたのは間違いない。


社長の怒りはすさまじかった。

まず重役達を呼んでこっぴどく叱り

次に、2人の直属の上司である

永井部長の監督責任を厳しく追求した。


「たまたま起きるのではない。

上が正しく仕事をしていない所に

こういうことが起きるんです」

と本当のことを言われた上

営業部は今後、解体と再編を視野に入れ

社長の管理下に置かれることに決定。


社長の保護観察が付いた永井部長

本当に仕事をしなければならなくなった。

そこでさっそく夫に連絡。

「B社へ一緒に行ってもらえませんか?

去年、入札の前に、責任者を紹介すると

言ってたでしょう。

その人に会わせてくださいよ」

当時は何度言っても無視したが

今になって、振り出しに戻りたいらしい。


不倫事件なんて知らないことになっている

夫は言った。

「大下さんがB社の担当じゃろ?

大下さんに連れて行ってもらいんさいや。

あの大下さんを差し置いて

さしでがましいことはできんよ。

辞退させていただきます」

復讐心に燃え、いつになく饒舌な夫。

絶句する永井部長。

大下さんと女性社員の辞表が出されたのは

3日後のことであった。

(完)
コメント (10)
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