殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

グンちゃん

2011年07月03日 18時15分49秒 | みりこんぐらし
同年代の友人ミサコは、チャン・グンソクという韓流スターに夢中だ。

彼をひと目見た瞬間から、恋におちたと言う。


最初「やっと愛する人に出会えました!」と、おごそかな報告を受け

離婚して20年のミサコに、再び春が来たと思った。

喜んだのもつかの間、テレビで見る人だと知った時の落胆を

想像してもらいたい。


彼は、確かに美しい男の子だ。

宝塚や少女マンガの中だけでお目にかかる理想像が

現実の男として降臨した感じだろうか。

以来、寝ても覚めてもグンちゃん、グンちゃんと

熱病のような状態が、ここ半年ほど続いている。


その日は、私とミサコともう1人の3人で食事をしていた。

ミサコはやっぱり「グンちゃん、グンちゃん」だ。

マッコリのCMに出ているからと、勇気を出して飲めない酒を無理に飲み

寝込んだと言う。

危険な惚れ込みようである。


興味の無い私は、名前が覚えられず

     「グンテだったっけ、グンソクだったっけ」

と言ってしまい、そりゃもう厳しく怒られた。

別の韓流スターのほうが好きと言ってしまった友人は

いかにグンソク青年のほうが魅力的かを延々と説教された。


ミサコは気を取り直し、バッグから紙切れを出して

ヒラヒラさせながら言う。

「映画のチケットが3枚あるんだけど、来週、私と一緒に行く人!」

     「何の映画?」

「グンちゃんの映画」

     「何で3枚もあるのよ」

「ポスターが3種類あるから、3枚買わないと全部もらえないのよ。

 誰も行かないのっ?グンちゃんの映画が、タダで見られるのよ?」

     「いい…」

我々は首を振る。


「私が連れて行くから!

 あんた達も、グンちゃんのすばらしさを知るのよ!」

だったら…と、もう1人が言った。

「映画館まで乗せてって。

 私達はその間、近くで買物してるから」


「何よ!あんた達っ!よくもそんなことが言えたもんね!」

ミサコは、椅子から立ち上がらんばかりに激しく怒った。

我々は、パスタなんぞズルズルと食べながら、怒られるままになっていた。


気が済むと、ミサコは携帯の写真を見ろと強要する。

そこには、ラクダ色の小汚い帽子とマフラーが写っていた。

「グンちゃんに贈った、私のプレゼント。手編みよ!」

ミサコは得意げだ。

「グンちゃんは、ファンからの贈り物を身に付けてくれるのよ!

 これもきっといつか、してくれる!そう信じてるの」


でも…とミサコは悲しげな目をして言う。

「グンちゃんは赤とか白とか、はっきりした色が好きみたい」

    「なんで好きそうな色にしなかったのよ…せっかく編んだのに」

「嫌よ!ベージュは私の好きな色だもん!

 彼をワタシ色に染めるのよ!」

    「染まるかねえ…」

「染めてみせるわっ!」

「頑張って…」

「言われなくても、頑張るわよっ!」


こんな子じゃなかったのに…我々は、目で言い合った。

熱がおさまるまで、ミサコとは会わないと決めた夜であった。
コメント (53)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする