殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ギャンブル喫茶

2011年07月29日 13時29分17秒 | みりこんぐらし
          「ホッとコーナー…我が家のテレビの前です」            


そこは、好きな喫茶店であった。

こじんまりとした素朴の中に、かすかな淫靡(いんび)を感じさせるほの暗さ…

古き良き昭和の風情(ふぜい)がホッとするのは

私もやはり、古い昭和の子だからであろう。

ここの柔らかく女性的なコーヒーの味も好きで

友人とおしゃべりをしたり、日曜の朝は

夫婦でモーニングセットを食べたりしていた。


コーヒー豆が無くなれば、買いに行きがてら寄る程度なので

そんなに良いお客ではないが

私は最近、そこに見切りをつけたのだった。

3回に1回ほど、沸かし直しと思われるコーヒーが

出てくるようになったからだ。


コーヒーに詳しいわけでも、こだわりがあるわけでもないが

わざわざ入れたのと、沸かし直しの差ぐらいはわかる。

出てくるのがやたら早く、ミルクを入れたらどす黒い。

飲むと、あらぬ類の酸味を感じる。


これはまったくの運だが、午後は特にヤバいようだ。

午前で注ぎ残した余り物が溜まるからだろう。

たまの喫茶店が立派なお出かけとなる、つつましい主婦としては

非常にゆゆしき問題である。

400円出して、沸かし直しを飲まされたのでは、たまらない。

そんなギャンブルには、つきあえん。


うすうすわかっていながら何かを買って気に入らないのと

否応なく出されたものが気に入らないのとでは

気に入らないのランクが違うのだ。

オバサンとは、面倒臭い生き物なのだ。


もう一軒、夫が子供の頃に「白いコーヒー飲みに行こう(牛乳のこと)」

と母親のヨシコにねだっていたという店にも、たまに行っていた。

ここは老舗の部類ではあるが、一度改装しているので、昭和臭は無い。

店主夫妻が昭和なだけだ。


ケーキ店も兼ねるその店へ、先日久しぶりに行くと

ショーケースから自由に選べるはずのケーキが

選べない決まりに変わっていた。

ケーキセットを注文した者は、売れ残りを強制的に処分させられるシステムである。

ひからびたブルーベリーが乗ったケーキが出てきたので、がっかりした。

それまで、なまじ選択権を与えられていただけに

急にダメとなると、悔しさ倍増なのだ。

それでも食べる私のいやしさには、目をつぶってもらおう。


今、我が町で生き残っている喫茶店は、ほとんどが自宅を兼ねた古い店舗。

生活のためというより、家賃がいらないので開けているといったムード。

どこも大変なのはわかるので、クレームは言わない。

気に入らなければ、行かなきゃいいのだ。


しかし、ただでさえ少ない喫茶店の2軒が

立て続けにNGとなると、中年ライフには支障をきたす。

夫婦でちょこっと…友人とちょこっと…

それに、自宅へ招くほどの仲ではない人と待ち合わせる場合のために

指定の場所はキープしておく必要がある。


そこで、新たな店を開拓した。

老夫婦が営むこの店は、最近行き始めた。

やはり昭和の香りをそのまま残す、薄暗くて複雑な造りの店だ。


存在を知りながら30年、私は足を踏み入れなかった。

そこは長年、義父アツシが仲間と過ごすために通い続ける

彼のテリトリーだったからである。

舅の知り合いばっかりの所へわざわざ行って、楽しいわけがない。


だがアツシ、この数年、そこへは滅多に行かなくなった。

老いてやせ細り、歩行困難な姿を見られるのが嫌な様子である。

店にタムロするのが仕事みたいだった仲間達も

入院したり、死んだりで、今ではバラけてしまった。

頃は良し…と、私の侵入となった。


この店は、コーヒー以外の食べ物を注文すると

必ずコーヒーゼリーがついてくる。

ゼリーには缶詰の果物と、たっぷりの生クリームが乗っかっている。

その一手間が、嬉しいではないか。


器も嬉しいぞ。

変に和食器とか、適当なガラスではなく、昔ながらの金属製なのだ。

いにしえには、ウエハースとチェリーを添えたアイスクリームが

気取って鎮座したであろう、短い足のついた形状のものである。

余ったコーヒーをゼリーに再利用しているうちは

ギャンブルコーヒーを飲まされる危険性は無いと踏んでいる。


ケーキも強制システムではない。

注文があるたびに、店主がすぐ近所のケーキ屋へ走るからだ。

そのケーキ屋は、休みが喫茶店と同じ曜日だとリサーチ済みである。


苦しい理論ではあるが、これらの理由により

この店は当分の間、安全だと思う次第である。

なんだかもの悲しいけど、コーヒーがおいしければいいか。
コメント (57)
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