殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

なんの山・2

2010年10月21日 11時21分09秒 | みりこんぐらし
笹野屋のお嬢様のお話は、止まらない。

世が世なら、私のような平民が

気やすく口をきけるご身分のおかたではないらしいので

こうしてお声を拝聴できるだけで、ありがたいと思わなければなるまい。


中元歳暮を送るたびに、旦那の所にお礼の電話があるという。

「文句は私に言って、お礼は主人なんですよ!

 考えて、選んで、送るのは私ですよ?」

   「いいじゃないですか~、嫌な電話が1本でも減って…」    

「それだけじゃないんですよ!

 必ず、おいしくなかったと、主人に言います!」

   「ズケズケおっしゃる姑さんですね」

「そうでしょ?ひどいでしょ?

 私はね、いいお店で、いいものを、吟味して吟味して送ってるのに!

 ただでさえ体調が悪いのに、今からお歳暮が気になって、もう憂鬱で憂鬱で…」

   「今から…

    1年の半分は盆暮れの心配となると、つらいですね。

    送らなければいいんでは…」

黙って聞いてりゃいいものを、ついイジりたくなるのは

私の悪い癖である。


「そんなわけにはいきませんよ!私の気がすみません!」

   「なるほど…じゃ、毎回同じものを

    もう勘弁してくださいと言われるまで送るとか…」

「そんなこと、できませんよ!

 これ以上言われたら、ますます体の具合が悪くなります!」

※さらに延々と続くので、早送り


誰が聞いても、わかると思う…悩みの根源は、贈り物ではない。

姑の言葉をダイレクトに伝えてしまう、アホな旦那だ。

黙って心に収めておくなり

「次はこういうものにしたらどうか」とさりげなくアドバイスするなり

中元歳暮は自分が担当するなり

もっと気を使えば、妻の悩みはひとつ減るのである。

あてにならない旦那への不満を、姑憎しにすり替えているとも言えよう。

しかし、今の彼女にそれを言っても、混乱するだけなので言わない。


話は、生い立ちに移っていく。

母親の死で大学進学をあきらめ、女将として旅館を切り盛りしたこと…

結婚で女将を退き、ふがいない弟に任せた途端、旅館が倒産したこと…

旦那の転勤で遠方に暮らしている時、父親を一人で死なせたこと…

悩みを多く、深くしている人は、人生の要所要所に、後悔という布石がある。


「私がこんなに体調が悪くて苦しいのは、父が成仏してないからだと思うんです。

 父の霊をなぐさめるために、毎晩、お風呂に入って

 1時間お経を唱えるのを日課にしています」

    「風呂で1時間!」

「はい。供養は大事でしょ?

 一人ぼっちで亡くなった父は、無念だったと思うんです」

    「死ぬときゃ、みんな一人ですからね~。

     私、死んだことがないので、よくわかりませんけど

     かわいい娘に、成仏してないと決めつけられて

     体調が悪いのも、そのせいにされたら

     そっちのほうが無念だと思いますよ」

「いけないんですか?」

    「供養や成仏なんて小難しいことより

     毎晩1時間も蒸されてちゃ、疲れます。

     疲れて、体調が悪いんですよ。
 
     やめなさい、やめなさい…ふろふき大根じゃあるまいし」

「ふろふき大根!」

    「ちょっとお休みして、体調をみたらどうですか?」

※また長くなるので、早送り


「そうですね…ちょっと、お風呂のお経はやめてみます。

 今受講している、スピリチュアル講座のほうを頑張ります」

    「そっちかい!」

「自分探しです」

    「よしなさい、よしなさい。

     自分探してるうちに、年寄りになって死んじゃいますよ」

「月に2回、車で3時間かけて通っているんです。

 大変ですけど、自分の経験を生かして、人の役に立てればと思って…」

    「は~あ、やめやめ!

     そりゃ疲れるわ。

     人の役に立つ前にヨボヨボになって、使い物になりゃしませんよ」

「アハハハ!」


お嬢様は、やっと明るくなり、世間話をする余裕も出始める。

話が今度の市議選のことになり

私がうぐいすをしている市議の、熱烈な支持者だと言う。

今回鞍替えして、別の選挙に立つ話で、盛り上がる。

「じゃあ、その時に、お会いできますね!

 先のことが楽しみになるなんて、久しぶりだわ!」


ここで、よせばいいのに余計なことを言う私。

   「もしよかったら、選挙カーに、ご一緒にどうですか?

    気晴らしになるかもしれませんよ」

「まっ!私が選挙カーに?

 この私が?

 ホホホ!と~んでもない…そんな恥知らずな…ホホホ!」


すっかり元気になったお嬢様。

そのまま笑い転げながら「それじゃあ!」と電話を切った。

すいませ~ん…恥知らずで。      


                    

                     完     
コメント (41)
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