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殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

霊…あなたの知っても知らなくてもいい世界・2

2009年02月20日 11時54分22秒 | みりこんぐらし
死んだ者より生きてる人間のほうがよっぽど怖い。

幽霊も感じのいいものではないが

そんなものより恐ろしい目に遭ったことがある。


暗い早朝、いつものように厨房の建物に入ってドアを閉めた…

つもりだった。

しかし、ドアが閉まらない。

振り返って外を見ると、何者かがドアを開けようとしているのだ。


ドアは上半分がガラス張りである。

ほの暗い門灯に照らされて浮かび上がったのは、見知らぬ中年男性。


駐車場からここまで、まったく何の気配も無かった。

たった今、降って湧いたようにそこに立っているのが恐ろしかった。


私は閉めようと中から引っ張る。

向こうは開けようと外から引っ張る。

両者無言。

私は足を突っ張り、両手に全身の力をこめる。

向こうもすごい力だ。



呼べど叫べど誰も来ないことはわかっている敷地のはずれ。

何かご用ですか?と声をかければいいのかもしれないが

しかし、その余裕が無い。

なぜなら、相手が見事に無表情だから。


口元がわずかに微笑んでいるようにも見える。

強烈な力でドアをこじ開けようとしていながら

歯を食いしばるでもなく

目つきや頬に緊張が見られるわけでもなく

顔が平静すぎるのが不気味だった。


無言の引っ張り合いはしばらく続き

やがてあきらめたのか、ふいにドアノブが軽くなった。

私は急いでロックする。

男はガラス越しにニヤリと笑って、立ち去った。

立ち去ったというのは、姿が視界から消えたという意味である。

ドアを開けて行方を確かめる勇気は無かった。


恐怖に打ち震える暇もなく、仕事にかかる。

帰りに見ると、ドアノブは引っ張りすぎてグラグラになっていた。


生きた人間のほうが怖いと言ったが

今となってはあれが人間だったかどうかもよくわからない。

変質者でもなんでもいいから、人間でありますように!



さて、退職する少し前、車を点検に出していた私を

夫が迎えに来てくれたことがあった。

その日は忙しく、20分ほど待たせてしまった。


帰りながら夫は言った。

「…いくら患者が多くても、ここのやりかたはどうかと思うよ。

 古いプレハブにいっぱい押し込んでさ」 

「…?」

「同じ入院でも、きれいな病室のほうがいいね。料金は一緒なんだろ?」

「…???」

「オレが車を停めてたとこ。

 おじいさんやおばあさんがいっぱいいて

 窓からジロジロずっと見られてた。

 年寄りってのは、なんだな…ヒマでしょうがないんだな」

でも…と、夫は言う。

「あんなボロいプレハブに入れられて、よく文句言わないよな。

 オレならよそへ行くね」 



…私は一瞬夫に話すことをためらった。

臆病なこいつに本当のことを言ったら

次には迎えに来てくれなくなるかもしれない。

電車の無い時間に始まる、遅刻も欠勤も許されない仕事…

何かあった時のために、アシはキープしておく必要があるのだ。

でも、反応が楽しみで我慢できなかったのでしゃべってしまった。


「あのボロボロハウスはね、昔の霊安室だから誰もいないよ。

 使ってなくても、一応基準がいるから壊せないんだよ」

「…」


文句なんか言うもんか。

この世の人ではないんだから。

わたしゃ、あそこの近くには絶対車停めないもんね~。


その日はちょうど病院の伝統行事「慰霊祭」だったことも申し添えておこう。

年に一度、病院で亡くなった人たちの魂をおなぐさめするのだ。

厨房のほうも、朝から何かと騒がしかった。

なぐさめられると、やっぱり嬉しいんだ…とあらためて思った次第である。





 
コメント (18)
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