「みりこん、放浪の旅に憧れるの図」
「気持ちは嬉しいけど…俺、家族がいるしな…。
割り切ったつきあいじゃイヤだろ?」
なんじゃ~?!これは求愛に苦悩する男のセリフ!!
「いや、違うって!」
「ま、俺くらいになると、飲み屋のお姉ちゃんにもよく相談されるけどな」
あかん…完全に酔っとる…。
ボーゼンとして口ごもる私…。
「お前の気持ちはわかってたよ。前にDVD、送ってくれたじゃん」
そうさ…ああ、そうさ。
悪いのは私。
市内を美しく撮ったDVDが発売されたことを話すと
欲しがったので、送りましたともっ。
お返しは無かったけどねっ。
「あ~!こんな誤解されるんなら、送らなきゃよかった!」
それをどう聞いたらこうなるのか…。
「え?旦那なんかより、あんたのほうがよかった?…ハハ、お前なぁ…」
鼻息も荒く、そうのたまうヤツ。
ギャー!!!もうダメじゃ!!
「うるさいっ!お前にお前って言われとうないわいっ!」
見た目のハンディと、出会いの少なさからか
ヤツは結婚が遅く、奥さんはかなり年上。
閉鎖された男の職場に何十年…ヤツはこういうのには慣れていない。
こちとら海千山千の、腐りきった古女房。
少々の色話、シモ話に、そよりとも揺れる神経は持ち合わせてないが
ヤツは新婚に毛が生えて、ちょっっぴり浮ついた気持ちも芽生え始めた結婚初期。
男と生まれたからには、色めいた思い出のひとつやふたつ
作ってから死にたいのはわかる。
しかし、ヤツの青春の思い出になるのはイヤ。
私にだって、選ぶ権利があるというものじゃ。
このまま無視して、ほとぼりが冷めるのを待とう…。
私に出来ることは、それしかなかった。
その後、何度かメールや電話があったけど、無視。
でも、うっかり非通知の電話に出てしまった。
「今度休暇を取ったから、オヤジの墓参りに、そっちへ行こうと思ってるんだ」
非通知なんぞ使いおってからに、平然と話すヤツ。
健在の母親は他県の人だが、父親はこちらの出身なので、墓があるのだ。
「行けば」
「飛行機だから、着いたら空港まで迎えに来てよ」
「お断りします!」
「俺がお前の気持ちに応えてやれないからって、そう気を悪くするなよ」
「違うって言ってるだろっ!
しかもお前って言うな!」
「ハハハ。じゃあ、出発する頃電話入れるから」
それって、もしかして…迎えに行って、墓参りに連れてって
懐かしい場所へ案内して、夜はホテルまで送れってこと?
しかもあわよくば思い出作りっ?
ギャー!!!ざけんなよ!!
「ちょっ…ちょっと!私行かないからね!」
「なんで~?あてにしてるのに。いいじゃん」
「なんで私がそんなことしないといけないのよっ!
他の男子に頼みなさいよ」
「みんな仕事じゃん。働いてないの、お前くらいじゃん」
「だから、お前言うな!
私はダメだよ。忙しいんだから」
「辞めたって言ってたじゃん」
「もう働くんだよっ!」
「へぇ~。どこ?」
「さ…沢竜二劇団…」
とっさにその名前が出てしまった。
沢さん、ごめんなさい…。
失業した人を募集して、劇団の雑用の仕事を与えてくれるという。
「給料はそんなに出せないが
雨露をしのぎ、食事にも困らない、仕事が見つかれば離れてもいい」
テレビでそう話している座長を見て、間もない時だった。
私は放浪に憧れるところがあって
旅から旅、最期は見知らぬ土地で一人息絶える…なんてのが理想なのだ。
寅さんに出てくるリリー…山頭火…
旅に病んで、夢は荒野を駆け巡る…芭蕉…なんちゃって。
劇団に入れてもらうには、困っている人が対象らしいので
困っている部分を探している時にヤツからの電話を取ってしまったのだ。
「何?それ?」
「た…旅芝居にくっついて全国を回るのさ。
だから、もう家にはいない!ガチャン!」
天の助けか、ヤツの所属する職場は
ニュースになるほどのゴタゴタが続いている。
今回も深刻。
おそらく休暇どころではなくなるだろう。
思えば一昨年、ヤツが赴任してからずっと災難続き。
そのつらさゆえ、よこしまな感情が私に向けられたことは明白だ。
要は、誰でもいいのさ。
私の胸を木枯らしが吹き抜ける。
完
「気持ちは嬉しいけど…俺、家族がいるしな…。
割り切ったつきあいじゃイヤだろ?」
なんじゃ~?!これは求愛に苦悩する男のセリフ!!
「いや、違うって!」
「ま、俺くらいになると、飲み屋のお姉ちゃんにもよく相談されるけどな」
あかん…完全に酔っとる…。
ボーゼンとして口ごもる私…。
「お前の気持ちはわかってたよ。前にDVD、送ってくれたじゃん」
そうさ…ああ、そうさ。
悪いのは私。
市内を美しく撮ったDVDが発売されたことを話すと
欲しがったので、送りましたともっ。
お返しは無かったけどねっ。
「あ~!こんな誤解されるんなら、送らなきゃよかった!」
それをどう聞いたらこうなるのか…。
「え?旦那なんかより、あんたのほうがよかった?…ハハ、お前なぁ…」
鼻息も荒く、そうのたまうヤツ。
ギャー!!!もうダメじゃ!!
「うるさいっ!お前にお前って言われとうないわいっ!」
見た目のハンディと、出会いの少なさからか
ヤツは結婚が遅く、奥さんはかなり年上。
閉鎖された男の職場に何十年…ヤツはこういうのには慣れていない。
こちとら海千山千の、腐りきった古女房。
少々の色話、シモ話に、そよりとも揺れる神経は持ち合わせてないが
ヤツは新婚に毛が生えて、ちょっっぴり浮ついた気持ちも芽生え始めた結婚初期。
男と生まれたからには、色めいた思い出のひとつやふたつ
作ってから死にたいのはわかる。
しかし、ヤツの青春の思い出になるのはイヤ。
私にだって、選ぶ権利があるというものじゃ。
このまま無視して、ほとぼりが冷めるのを待とう…。
私に出来ることは、それしかなかった。
その後、何度かメールや電話があったけど、無視。
でも、うっかり非通知の電話に出てしまった。
「今度休暇を取ったから、オヤジの墓参りに、そっちへ行こうと思ってるんだ」
非通知なんぞ使いおってからに、平然と話すヤツ。
健在の母親は他県の人だが、父親はこちらの出身なので、墓があるのだ。
「行けば」
「飛行機だから、着いたら空港まで迎えに来てよ」
「お断りします!」
「俺がお前の気持ちに応えてやれないからって、そう気を悪くするなよ」
「違うって言ってるだろっ!
しかもお前って言うな!」
「ハハハ。じゃあ、出発する頃電話入れるから」
それって、もしかして…迎えに行って、墓参りに連れてって
懐かしい場所へ案内して、夜はホテルまで送れってこと?
しかもあわよくば思い出作りっ?
ギャー!!!ざけんなよ!!
「ちょっ…ちょっと!私行かないからね!」
「なんで~?あてにしてるのに。いいじゃん」
「なんで私がそんなことしないといけないのよっ!
他の男子に頼みなさいよ」
「みんな仕事じゃん。働いてないの、お前くらいじゃん」
「だから、お前言うな!
私はダメだよ。忙しいんだから」
「辞めたって言ってたじゃん」
「もう働くんだよっ!」
「へぇ~。どこ?」
「さ…沢竜二劇団…」
とっさにその名前が出てしまった。
沢さん、ごめんなさい…。
失業した人を募集して、劇団の雑用の仕事を与えてくれるという。
「給料はそんなに出せないが
雨露をしのぎ、食事にも困らない、仕事が見つかれば離れてもいい」
テレビでそう話している座長を見て、間もない時だった。
私は放浪に憧れるところがあって
旅から旅、最期は見知らぬ土地で一人息絶える…なんてのが理想なのだ。
寅さんに出てくるリリー…山頭火…
旅に病んで、夢は荒野を駆け巡る…芭蕉…なんちゃって。
劇団に入れてもらうには、困っている人が対象らしいので
困っている部分を探している時にヤツからの電話を取ってしまったのだ。
「何?それ?」
「た…旅芝居にくっついて全国を回るのさ。
だから、もう家にはいない!ガチャン!」
天の助けか、ヤツの所属する職場は
ニュースになるほどのゴタゴタが続いている。
今回も深刻。
おそらく休暇どころではなくなるだろう。
思えば一昨年、ヤツが赴任してからずっと災難続き。
そのつらさゆえ、よこしまな感情が私に向けられたことは明白だ。
要は、誰でもいいのさ。
私の胸を木枯らしが吹き抜ける。
完