羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

歴女と龍馬伝とスィーツ

2010年04月17日 12時07分55秒 | Weblog
 新学期から一つの大学では休み時間が長くなった。1限と2限、3限と4限の間が、これまで10分間だったものが15分に延長された。
 木曜日の授業は3限と4限を持っているので、時間配分に結構気をつかった。

 とはいえ、初日の授業は、とてもよい運びで2コマの授業は終了した。 
 大学の正門を出て、JR駅に向かった。そして電車に乗り込む前に、駅に隣接しているデパートのスィーツ売り場に立ち寄ることにした。
 年単位で、ずっと気になっていた新宿・高野のケーキを‘今日こそ買って帰ろう’と思ったからだ。買うものは決めてある。一つは、人気№1のイチゴと生クリームとチョコレートが層になっていて上に液状に近いチョコレートにイチゴが生クリームを従えて鎮座しているもの。もう一つは人気№2の生クリームにメロンが刻みこまれて層になっている上に、マスカットと生クリームがトッピングされているものの二種類である。

 気分もはれやかに、でも倒さないように気をつけながらケーキの箱を手にぶらさげて、山手線の電車に乗り込んで、一息ついた。
 ふと見ると若い女性が、文庫本にまっすぐ視線を落としている。
「集中ッ!」
 食入るように文字を追っている。
「へぇー、何を読んでいるのかしら」
 図書館で借りた本らしい。
 何気なくを装って、ページの上方に打ちこまれている目次を読んだ。
『人斬り以蔵』とあるではないか。本文を盗み読みする。
「ムムッ、丁度、今週の龍馬伝? 江戸に出てくるところね」
 小柄な彼女は、見るからに優しげ。黒のリクルートスーツのうえにベージュ色のコートを羽織っている。靴は黒のパンプス。すべて新しい。すべて普通。すべてお決まり。
「新人だわ」
 全身から‘歴史大好き’のメッセージが放たれている。
 始めて至近距離にたった歴女は、読んでいるものとは裏腹に、可憐な女の子だった。こういう子が幕末の男子を支えたのかもしれない。和服を着せたら似合いそうだ。一枚ずつ服を脱がせて着替えをさせる。「うぅ~ん、いいね」
 
 そんな想像たくましくしているうちに、電車は新宿駅ホームに滑り込んだ。
「乗り換えなければ」
 しぶしぶ降り立った。
 振り返ると、まだ一心不乱に活字を追っている。彼女を残すのが惜しくなった。
「きっと、GWには、最初のお給料で高知にでも出かけるのよね」

 帰宅して夕飯のデザートに、高野のフルーツのケーキを食した。抑えた甘さのなかに歴女の立ち姿が浮かんだ。
「(幕末から明治維新の流れで)私は、今、こんなに美味しいケーキを食べられるんだ!」
 なんか不思議な空間と時間のなかにタイムスリップする自分がいた。
 その日の夜は、オマケつきのケーキの味と香りに満たされた。
コメント
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