電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

メルケル首相のスピーチについて

2020年05月13日 06時01分56秒 | Weblog
以前、新型コロナウィルス対応に関して、ドイツのメルケル首相が国民に呼びかけたスピーチ(*1)が話題になりました。旧東独で育ち、東西ドイツの統一を経て現在は首相の座にあるという経歴から、「渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた私のような人間にとって」というフレーズに着目した報道がきっかけであったように思います。ちょうど日本でも、行動の制限が話題になる頃でしたので、そうした観点での報道が中心だったのでしょう。

先日、たまたまこの(3月18日の)TV演説の翻訳を、ドイツ大使館のWEBサイトで目にする機会があり、全文を読んでみました。そして、驚きました! 例えばこのような内容です;

さてここで、感謝される機会が日頃あまりにも少ない方々にも、感謝を述べたいと思います。スーパーのレジ係や商品棚の補充担当として働く皆さんは、現下の状況において最も大変な仕事の一つを担っています。皆さんが人々のために働いてくださり、社会生活の機能を維持してくださっていることに、感謝を申し上げます。

これは、全くそのとおりであろうと思います。東日本大震災のときにも、人の命を助けるお医者さんの大切な仕事も、実は燃料や医薬品や物資を運搬する道路を、余震の中で瓦礫の山を押し分けて急造することに奮闘した重機オペレーターやその他多くの無名の人々の労働があってはじめて維持できた(*2)のでした。今回、新型コロナウィルス禍による忍耐の生活の中にあって、食料や日用品を買い求めることができたのも、まさにスーパーのレジ係や陳列棚の補充といった目立たない労働のおかげでした。そして注目すべきは、一国の首相が、それを全国民に向かってテレビで語りかけた演説の中の、重要な一節であったということです。

残念ながら、ドイツも行動制限の緩和の方向に少しだけ舵を切ったらまた感染者数が増加の傾向にあるみたいで、今後どういうふうになるのか全く予測できませんし、ドイツ語の意味はほとんどわからないものの、落ち着いた声と話しぶりの、こういう政治家がいることを今更ながらに再認識いたしました。

(*1):新型コロナウィルス感染症対策に関するメルケル首相のテレビ演説(3月18日)〜ドイツ大使館のWEBサイトより
(*2):『石巻赤十字病院の100日間』を読む〜「電網郊外散歩道」2012年12月
(*3):イギリスのサッチャーさんは化学教師だったそうですが、メルケルさんは物理学者だったみたいです。

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