満開の桜を散らす横なぐりの風雨の中、山形交響楽団第292回定期演奏会を聴くため、4月18日(日)の午後、山形市のテルサホールに出かけました。自宅を出るときにはお天気雨程度のパラパラ状態だったのですが、山形市に入ると風雨が強まり、傘も持っていかれそうなほどです。それでも聴衆は結構な入りで、最前列の2列ほどは空いているものの、他は概ね埋まっているような状況。山響の経営的にはありがたいことでしょう。
さて、本日のプログラムは、
- 一柳 慧/ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム~室内オーケストラのための~
- ハイドン/チェロ協奏曲 第1番 ハ長調 Hob.Ⅶb:1 佐藤 晴真(チェロ)
- ブラームス/交響曲 第2番 ニ長調 作品73
鈴木優人 指揮、山形交響楽団
というものです。
今回初登場の指揮者、鈴木優人(まさと)さんは、なんと首席客演指揮者の鈴木秀美さんの甥に当たるのだそうで、お父さんはバッハ・コレギウム・ジャパンの鈴木雅明さんだそうですから、なんとまあすごい環境で生まれ育ったものです。逆に言えば、親も親戚もスゴイ人たちだと、子どもはプレッシャーが大変なのだろうと思いますが、ご本人はいたって軽やか、正面からぶつかったりせずに巧みに避けながらしっかり主張を通すすべを知っていたのかもしれません(^o^)/ いやいや、1981年アムステルダム生まれだそうですからすでに40歳、おそらくは古楽の環境を活かしながら、しっかりと自分の音楽を展開しているのでしょう。
第1曲、一柳慧(いちやなぎ・とし)のビトゥイーン・スペース・アンド・タイム~室内オーケストラのための~という曲ですが、楽器編成が面白い。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、バス・トロンボーン、マリンバ、シンバル、タムタム、ピアノ各1というものです。初めて聴きましたが、なんとも不思議な、しかし緊張感を持った音楽。これは、CDなどでは絶対に聴く機会はないであろう、演奏会ならではの貴重な体験でした。
第2曲、ハイドンのチェロ協奏曲第1番。ステージ上の配置が変わり、左から 1st-Vn(4), Vc(2)とその後ろにCb, Vla(3), 2nd-Vn(4) の対向配置、中央奥に Hrn(2) と Ob(2) というものです。ソリストの佐藤晴真さんが登場、小編成のオーケストラとともに、軽やかで優雅で、伸びやかで晴れやかなハイドンを聴かせてくれました。
アンコールはJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」から。呼吸の深い、自由でゆったりとしたバッハで、書道でいえばきっちりとした楷書でも崩した草書でもなく、骨格はしっかりと保った自由な隷書の趣でしょうか。良かった〜。
20分の休憩時に偶然に知人に出会い、廊下で近況を報告、またホワイエで山響の新しいCD(*1)を購入しました。ブルックナーの「ミサ曲第3番」で、ちょうど山響第282回定期演奏会で取り上げたとき(*2)の録音でしょう。最近、新しいCDを購入していないので、なんだか嬉しい(^o^)/
後半はブラームスの交響曲第2番です。ステージ上はぐっと密度が上がり、8-7-5-6-3 の弦楽5部は対向配置、 正面に Fl(2)-Ob(2)-Cl(2)-Fg(2) の木管群、正面最奥部に Tp(2)-Tb(3:うち1はBassTb)-Tuba、木管の右奥に Hrn(4) そして反対側のステージ左奥に Timp. という配置です。弦楽セクションは、いつも Vla と Vc は同じ人数のことが多いのですが、今日は一人多いなあと思ったら、Vc の第3プルトの 2nd には先程の協奏曲のソリスト佐藤晴真さんが座っているのでした! うーむ、若いということはいいことだなあ。建前や遠慮はそっちのけで、屈託なく音楽に参加する! たしかにこのコロナ禍の中、音楽家にとって実際の演奏会に参加できることは心からの喜びなのだろうと思います。音楽の喜びは、演奏家だけのものではないし、聴衆だけのでもないでしょう。
第3曲め、ブラームスの2番。指揮者の鈴木優人さんは指揮棒なしで。柔軟な、しかし筋の通った、よく鳴るブラームスでした。ブラームスというと、どうしても自己抑制的な印象が先立ちますが、晦渋を装う陰には熱いロマンティックな情熱が隠されているのでしょう。若い時代を思い出して、思わず懐かしさを覚えるような音楽、演奏でした。
2021−2年のシーズンの幕開けは、引き続き新型コロナウィルス禍の中での演奏会となりましたが、変異株の流行の兆しに充分に警戒しながら、今年もなんとか健康で定期演奏会を皆出席したいと願っております。
(*1):
飯森範親&山形交響楽団/ブルックナー「ミサ曲第3番」〜HMVオンラインより
(*2):
山形交響楽団第282回定期演奏会でモーツァルト、ブルックナーを聴く〜「電網郊外散歩道」2020年2月