電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

『石巻赤十字病院の100日間』を読む

2012年12月25日 06時04分16秒 | -ノンフィクション
小学館から刊行され、話題となっている単行本で、石巻赤十字病院+由井りょう子著『石巻赤十字病院の100日間』を読みました。東日本大震災に遭遇した医師や看護師、病院職員たちの、文字通り苦闘の記録です。
本書の構成は、次のようになっています。

1章:地震発生
2章:石巻22万人の瀬戸際
3章:終わらない災害医療

第1章では、災害発生後すぐに災害対策本部を立ち上げ、災害レベル3を宣言、赤・黄・緑・黒のトリアージ・エリアが設定されるという機敏な対応が取られた様子が描かれます。災害対策を事前に準備しており、前触れとなった3月9日の地震も教訓となっていましたが、巨大津波の被害は想定をはるかに超えていました。看護専門学校は津波にのまれ、各避難所は孤立し、医療ネットワークはおろか行政の機能も破壊された中で、野戦病院のような不眠不休の戦いを迫られます。水、電気、食料、あらゆるものが不足する中での奮闘です。

第2章では、病院内だけでなく、病院外の、地域への対応が描かれます。避難所における看護専門学校の教職員と学生たちの努力は、想像を絶する厳しさの中で行われたものでしたし、取り残された避難所での看護師の役割は、同じ被災者なのに、かけがえのない存在になっておりました。そんな中での「全避難所をトリアージ」するという医師の決断は、大局的な判断として貴重なものだったろうと思います。300ヶ所もある避難所を、17日から19日までの3日間でローラー作戦で対応を終えてしまいます。人工透析、在宅酸素療法患者への対応、避難所に蔓延する肺炎などの困難の中で、新たに誕生する赤ちゃんの生命力に励まされます。

第3章では、薬を流された人々への薬剤師たちの対応や、感染症対策チームの避難所巡回、エコノミークラス症候群を予防する活動や転院支援、家族安否情報室の活動などが記録され、紹介されます。「私たちも被災者なのに」という思いは、とりわけ家族を失った病院職員には少なくないことでしょう。



本書を読んで、あらためて痛感したことがあります。それは、命を救う医師の仕事を支えているのは、様々な社会システムであり、それを担って働く人々の努力である、ということです。がれきを撤去し道路を確保する建設重機オペレータ、確保された道路をひた走る物資を満載したトラックの運転手、炊き出しのおにぎりを握りつづける赤く火傷した手、通信や電力などの復旧に奔走する現場技術者など、実に様々な職種の、きわめて多くの人々の努力の集積によって支えられているということ。おそらく、そのどれ一つが欠けても成り立たなかったことでしょう。

もう一つ、災害拠点病院への道を準備した人々の先見の明を讃えるべきでしょうが、一方で、全国の過酷な医療現場が、必ずしもこのように見事な活動を可能とする状況にはない、ということにも留意すべきでありましょう。


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