昔のステレオ録音がパブリック・ドメインになり、ありがたいことに自由にダウンロードして楽しむことができる時代になりました。とはいえ、実際には見境なくダウンロードしているわけではなく、興味関心のある方面にかたよる傾向があるようです。
私の場合、指揮者でいえばジョージ・セルを筆頭に、フリッツ・ライナー、ピエール・モントゥー、ラファエル・クーベリック、ユージン・オーマンディなどが関心の方向で、一般に「激遅・情念系」は敬して遠ざける傾向があります(^o^)/
概して、速めのテンポで軽やかなリズムと明晰な表現を好む、というほうでしょうか。
最近のダウンロード例で言えば、昔はレギュラープライスでしかお目にかかれなかったように記憶している、ピエール・モントゥーのステレオ録音が興味深いものがあります。例えばチャイコフスキーの交響曲第4番(*1)。
弦がピツィカートで奏する第3楽章のテンポは颯爽としていて、ボストン交響楽団の響きもクリアーです。1959年4月のステレオ録音。
チャイコフスキーの交響曲第4番といえば、ジョージ・セルがロンドン響を振ったデッカ録音もありました(1962年4月,425 972-2)。セル生前には発売の許可が出なかったものではなかったかと記憶していますが、どこが不満だったのだろうと不思議なほどの演奏です。こちらは、セルとしては身振りの大きめな、圧倒的な緊張感と推進力とが特徴的。
素人音楽愛好家の蛮勇を発揮して想像していたのは、たぶんAR社の大型ブックシェルフ・スピーカを床に直置きしていたセル、低音がだぶつく音に不満で、許可を出した録音は高域に偏る傾向があったのではないか。エピック社のディレクターもエンジニアも、実際はおっかないセルに物申すことができなかったのでは。そんな事情は知らないデッカ社の担当は、ふつうにマスタリングした録音を届けてしまい、当然のごとくセルはダメを出したのではないか、というような、笑っちゃう推理です(^o^)/
これについては、実際にはジョン・カルショウの著書『レコードはまっすぐに』(*1)に記載があり、ロンドン交響楽団が世代交替期で最高の状態とはいえない時期にあり、編集によっても改善できないミスがあったために、セル自身は発売を拒否したものだそうです。しかし、これほどの演奏解釈は、演奏の不備を補って余りあるという理由で未亡人が発売を許可した、といういわくありのものだそうな。
うーむ、そうなのか。思わずうなってしまうような真相です。素人音楽愛好家には想像もつかない、実に厳しい世界でした(^o^)/
付け加えれば、併録されているベートーヴェン「エグモント」の音楽がまたほんとに素晴らしいものです。
■ピエール・モントゥー指揮ボストン交響楽団
I="17'31" II="8'10" III="5'12" IV="8'29" total="39'22"
■ジョージ・セル指揮ロンドン交響楽団
I="17'41" II="8'41" III="5'33" IV="8'45" total="40'40"
(*1):
ジョン・カルショウ『レコードはまっすぐに』を読む~「電網郊外散歩道」2005年8月
(*2):
ネルロ・サンティとN響でチャイコフスキー「交響曲第4番」を聴く~「電網郊外散歩道」2006年7月