電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

祝!縄文の女神が国宝へ答申~「西の前土偶」

2012年04月30日 09時59分36秒 | 散歩外出ドライブ
過日、ビッグ・ニュースが報道されました。
山形県舟形町の西の前遺跡で発掘された、「東北の縄文ヴィーナス」とか「縄文の女神」とか呼ばれる土偶が、国宝の価値ありとして、文化庁に答申されたとのことでした。私も、以前、山形県立博物館で実物をじっくり見ることができましたが、4500年前の縄文中期に、こんなにモダンで精巧で、美的なセンスに満ちた土偶が焼かれていたことに驚きました。正直言って、国宝指定は遅すぎるくらいだと思います。まあ、いろいろと事情はあったのでしょうが、まずはめでたい!

そういえば、山形県立博物館で常設展示されている、レプリカのほうは写真を撮っても良かったので、どこかにあったはず……。ありました!



桜の写真は、過日の霞城公園内、山形県立博物館の前の桜。この日は雨天でしたが、当地の桜も今が見頃です。
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山形弦楽四重奏団第43回定期演奏会で林光、壺井一歩、シューベルトを聴く

2012年04月29日 10時13分45秒 | -室内楽
早朝からタイトなスケジュールとなった土曜日、高速を下りたのが18時20分頃で、これは間に合わないかと思ったら、文翔館の旧県会議事堂ホールになんとか開演前に滑り込むことができました。



今夜のプレトークは、いつもの黒いシャツで、ヴィオラの倉田譲さん。ダンディな風貌からは意外でしたが、時代劇映画が好きだったのだとか。その音楽を通じて、黛敏郎や武満徹や伊福部昭などの日本人作曲家に興味を持つようになったのだそうです。今回の林光さんとの関わりは、山形市の合唱団「じゃがいも」の演奏会で、何度か林光さんに委嘱した作品を演奏する機会があり、一緒に演奏したりしたのだそうです。今回の訃報で、全曲演奏を目指すハイドンを一回お休みしても、林光作曲の弦楽四重奏曲を取り上げたかった、ということのようでした。

もう一つの日本人作曲家の作品、「弦楽四重奏曲第2番」の作曲者である壺井一歩さんが来場されていましたので、倉田さんがインタビューする形でお話を聞きました。日本人作品については、学生時代に作曲を志し、日本人作曲家の作品ばかり聴いていたので、とくに偏見や抵抗はないとのこと。林光さんの作品も、その頃に聴いていたそうです。今回の「弦楽四重奏曲第2番」については、第1番とは違う曲を書こうと思った、とのことで、これはものを創る人間としての思いだ、と説明されていました。なるほど、自然科学者が something new を求めて研究するのにも通じる、普遍的な感情かもしれません。

本日の曲目は、

(1) 林光 弦楽四重奏曲「レゲンデ」
(2) 壺井一歩 弦楽四重奏曲第2番
(3) シューベルト 弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D.804 「ロザムンデ」

となっています。なんともマニアックの極みとも言える、しかしこの機会を逃せば次はいつどこで聴けるのだろうかという、実に貴重な体験です。これが地元山形でナマで聴けるというのですから、素人音楽愛好家でミーハー室内楽ファンといたしましては、「どうして聴かずにいられようか、いや、ない。」という世界です。
お客様の数は、さすがにいつもよりも少なめですが、人口二十万と少し、周辺人口を合わせても数十万しかいない地方都市で、連休の初日の夜に開催する室内楽演奏会、しかもこのマニアックなプログラムとしては、実に驚異的な入場者数と言ってよいでしょう(^o^)/

しばらくして、山形弦楽四重奏団が登場します。略式服の上下にワイシャツ、明るいグレー?のネクタイの中島光之さんが1st-Vn、こげ茶色のノースリーブに黒のロングスカートの今井東子さんが2nd-Vn、いつも黒っぽいいでたちですがご本人はぜんぜんダークではない、Vla の倉田譲さん、そして先ごろ奥様が女児を出産され、一児の父となったばかりの、チェロの茂木明人さんは、明るいグレー?のシャツにネクタイといういでたちです。

さて、演奏会が始まります。

■林光 弦楽四重奏曲「レゲンド」
第1楽章:FANTASIA チェロから始まり、2nd-VnとVlaが続き、1st-Vnが入ってきます。チェロとヴァイオリンのやりとりにヴィオラも独自に絡み、不協和音の中に、強い緊張感があります。チェロがすごくいい役回りをしています。
第2楽章:SCHERZO 明るくはないが暗くもない、諧謔的な、という意味で、たしかにスケルツォ風かも。チェロのすごいソロで終わります。
第3楽章:In memoriam 1989.6.4 四本の弦楽器のピツィカート合戦で始まります。軽機関銃の乾いた銃声?某国の某広場における銃声でしょうか。チェロのソロは、強い訴える力を感じさせ、2nd-VnとVcとVlaの中に入ってくる、弱音器を付けた第1ヴァイオリンの旋律は、嘆きというよりも祈りのようです。

■壺井一歩 弦楽四重奏曲第2番
パンフレットによれば、この曲は、
I. Monologue~Moderato~Largo~Moderato~Monologue~Allegro ma non troppo~Meno mosso~Andante~Meno mosso~Andante~Allegro con fuoco~Monologue
という構成になっているそうです。
チェロの長いソロから始まります。ヴァイオリン、ヴィオラが加わり、チェロの息の長い音と対比されます。静寂の中にピツィカートがかなり大きく響き、第2ヴァイオリンが細かな繰り返しを行い、ヴィオラがぐっと出ます。第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの奏でる響きの中で、第1ヴァイオリンによるハイトーンが印象的です。全休止の後に再び第1ヴァイオリンのハイトーン。他の三人が加わり、こんどはヴァイオリンの低い持続音に対応して、第2ヴァイオリン、ヴィオラが旋律を歌います。そしてチェロの雄弁なソロ。ヴィオラが強いリードをする中に、2本のヴァイオリンとチェロがこたえ、やがて第2ヴァイオリンが悲歌を歌います。ヴィオラのリードが再び繰り返されますが、これがやけにかっこいい。2nd-Vnの悲歌も印象的です。
そして曲想は一転して速いテンポに。ヴィオラが同じ音を繰り返す中で、他の三人も同じ音を繰り返します。一種独特な同音反復効果です。再びはじめのチェロのモノローグが登場し、ヴァイオリン、ヴィオラの連続する高音の中で、チェロのピツィカートが印象的に曲を締めくくります。
素人音楽愛好家らしく、たどたどしい外面的な記述になってしまいましたが、今回の第2番も、たいへん魅力的な音楽です。とりわけ、茂木さんのチェロの活躍がスゴイ!迫力といい表現といい、あらためてかけがえのない山Qの宝だと感じました。できれば、第1番と第2番を収録したCDがほしいと思いました。

ここで、15分の休憩が入ります。作曲者の壺井一歩さんのところではファンの方が話をしておられるようで、今回は隣席でなかったのが残念(^o^)/



そして後半のプログラム、
■シューベルトの弦楽四重奏曲第13番イ短調「ロザムンデ」
です。
第1楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ。どうしても「あ~めは降る降る」と聞こえてしまう(*)のですね。でも、「城ヶ島の磯に~」とは続かない(^o^)/
ああ、シューベルトだ、と安心するような響きですが、でも緊張感を途切れさせることのできない音楽です。もし、集中力を途切れさせたら、どこかへ飛んで行ってしまうようなタイプの音楽とでも言えばよいのでしょうか。テンポはややゆっくり目で、これはかなり意図的なものでしょう。
第2楽章:アンダンテ。例の、チャーミングな「ロザムンデ」の主題です。四人の音が、音量のバランスや響きの面でも、実にとけあっています。自由闊達さはありませんが、四人が心を合わせてアンサンブルしていることが感じられます。
第3楽章:メヌエット、アレグレット。チェロの強い音から。ヴァイオリンとヴィオラが同じフレーズで応じます。ちょいと嘆き節ふう。途中、曲想が変わり、開放的な雰囲気も出てきますが、再びチェロの強い音ではじめの短調の世界に戻り、終わります。
第4楽章:アレグロ・モデラート。チェロの軽やかなピツィカートがおもしろい。いかにもフィナーレにふさわしい、明るく親密な雰囲気の中で、曲が終わります。

アンコールは、山形県白鷹町出身の、紺野陽吉?さんの弦楽三重奏曲から、第2楽章。
第2ヴァイオリンの今井さんは、ステージ脇で聞き役に変わります。
実はこの曲、以前取り上げた(*2)鶴岡出身の佐藤敏直さんの師匠、清瀬保二?さんの遺稿の中に楽譜が見つかったのだそうで、白鷹町に育ち、夢半ばで倒れた作曲家の作品を再現することになります。以前、山形北高の校長先生から、たくさん白鷹町のわらべ歌を送ってもらったそうですが、その中の一曲に雰囲気が似ている、とのことでした。来年一月には、ぜひ全曲を演奏したいとのことです。それは、私もぜひ聴いてみたいものです。

中島さんが「男ばかりでむさ苦しく終わっては申し訳ないので」と聴衆を笑わせ、アンコールをもう一つ、今度は今井さんも一緒に、ハイドンで、「皇帝」の第2楽章を。
ああ、ハイドンの音楽は、文句なく幸福になる音楽です!今宵の楽師さんたちのサービスでしょうか(^o^)/

今回も、良い演奏会でした。終演後に、壺井一歩さんと少しだけお話しして、CDを二枚購入しました。一枚は「Gift」というクラシック・ギターのCDで、演奏が宮下祥子さん、編曲が壺井一歩さんです。帰路にちょこっと聴いてみましたが、思わず懐かしくなるような選曲と編曲です。
二枚めは、ピアノと詩の朗読で、「スイミー」と「さるかに」など。こちらはまだ開封しておりません。今後の楽しみです。



(*):シューベルトの弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」を聴く~「電網郊外散歩道」2009年5月
(*2):山形弦楽四重奏団第29回定期演奏会を聴く(2)~「電網郊外散歩道」2008年12月
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本日は強行軍で~土曜出勤後に山Q定期へ

2012年04月28日 21時58分19秒 | Weblog
本日も、かなりの強行軍でした。
早朝に出発して、土曜出勤。朝のうちにあれこれ準備をして、行事に備えます。
~(中略)~
仕事の役割の方は、なんとか無事に終わったのを見届けて、職場を出ました。夕食もそこそこに、高速に乗ります。高速を下りたのが、18時20分でした。これは間に合わないかなと思ったら、なんとか開演前に滑り込むことができました。よかった!記事は明日にいたしますが、強行軍でも出かけて良かった!良い演奏会でした。

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村上もとか『JIN~仁~』第13巻を読む

2012年04月27日 06時02分21秒 | 読書
だいぶ間があいてしまいましたが、集英社漫画文庫から、村上もとか著『JIN~仁~』第13巻を読みました。本シリーズの完結です。

冒頭、橘恭太郎が福澤諭吉に呼び止められ、慶應義塾を見学して影響を受け、伊庭八郎の誘いを断って南方仁先生の警護役に徹することを決意します。勝海舟と西郷隆盛の談判で実現した、江戸城の無血開城が行われますが、これに不満を持つ彰義隊は上野の山に立てこもり、官軍との間に戦が始まります。

上野戦争の砲声が響く中、南方先生は自分の脳腫瘍に気づきますが、この時代では自分の腫瘍を治療することはできません。時代の終わりと命の短さを自覚した仁先生は、思い切って橘咲さんに求婚します。平成の時代に帰ることを諦め、この時代に生きようと決意したのでしょう。咲さんは、兄恭太郎の同意を得て、仁先生の求婚を受け入れます。

さて、松本良順は江戸を去り、大村益次郎に取り入った三隅俊斉が陰謀をめぐらす中、次々に犠牲が出てしまいます。咲さんが銃で撃たれ、兄の恭太郎も銃の暴発がもとで命を落とします。咲さんの怪我は右腕の貫通銃創に擦過傷ですが、ペニシリンが効かない緑膿菌に感染してしまったようなのです。江戸時代にタイムスリップしたときに持っていたはずの抗生物質を探して、三隅俊斉の奸計に落ちますが、落下した場所は平成の時代でした。ここで、物語の始まりに戻るわけです。

しかしこの後は、テレビドラマとはだいぶ違いました。仁先生は平成の時代に残され、入れ替わった自分が幕末に戻って咲さんを助け、橘仁・咲夫妻として仁友堂病院を育てたことを知るのです。少しだけ違う平成の時代。孤独に悩む南方仁先生は、国際機関の要請に応え、アジアアフリカの医療援助に没頭します。ふと日本に帰ったときに訪ねてきた女医は、名をルロンと言い、野風の曾孫にあたる女性でした。



なるほど、そう来ましたか。なかなか余韻の残る結末です。テレビドラマとはだいぶ違う終わり方に、物語のスケールの大きさを感じました。漫画とはいえ、なかなか充実した医学・時代考証を楽しむことができました。

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某同窓会名簿ができあがる

2012年04月26日 20時59分23秒 | 手帳文具書斎
ここしばらく力を入れていた某同窓会の名簿が完成し、次第を入れたパンフレットの原稿を、ようやく印刷所に入稿できました。当日の出席率は、目標とした五割を大きく超えるようで、お元気な恩師の出席もいただけることとなりました。会場となるホテルとの打ち合わせも、先日無事に済ませることができ、あとは当日を待つのみ、と言いたいところですが、当方にはもう一つの仕事があります。それは、受付用の名簿と、参加者のネームの作成です。ネームプレートは使わないで、ネームシールをペタリと貼り付けることで対処するつもり。貼り直してはがれる人も出てくるでしょうから、予備を含めて二枚ずつ用意すればすむだろう、という心づもりです。このあたりも、同じ名簿データを使いまわせばすみます。

………。

うーむ、だから毎回事務局から逃れられないような気がする(^o^;)>poripori

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ドヴォルザーク「交響曲第3番」を聴く

2012年04月25日 06時01分40秒 | -オーケストラ
このところ、通勤の音楽でドヴォルザークの「交響曲第3番」を聴いております。珍しく3楽章構成となっているこの曲は、Wikipedia(*)によれば、

1873年4月に着手され、同年7月4日に完成した。『白山の後継者たち』の成功に自信を深め、結婚(同年11月17日)を目前に控えた気力の充実した時期の作品である。このため、意欲的な作品となっており、当時の流行でもあったワーグナーの影響を積極的に取り入れた作品である。ドヴォルザークがこの作品をオーストリア政府の奨学生募集に提出したところ、これがハンスリックらの注目をひき、1875年から400グルテンの奨学金を得られることになった。
翌1874年3月29日にプラハでスメタナの指揮により初演された。ドヴォルザークの全交響曲中、最初に初演された交響曲である。

とのことです。実際、なかなか充実した音楽となっており、注目作となったのもよく理解できます。

楽器編成は、Pic、Fl(2)、Ob(2)、コールアングレ、Cl(2)、Fg(2)、Hrn(4)、Tp(2)、Tb(3)、Tuba、Timp.、Triangle、Hrp、弦五部 となっています。コールアングレの指定が目につきます。

第1楽章:アレグロ・モデラート、変ホ長調、8分の6拍子。ソナタ形式。ああ、ドヴォルザークだと感じられる、人懐こい旋律で始まります。
第2楽章:アダージョ・モルト、嬰ハ短調、4分の2拍子。三部形式。やや悲劇的な要素を持った楽章ですが、終わりは伸びやかに。
第3楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ、変ホ長調、4分の2拍子。ロンド形式。ティンパニとともにリズミカルに始まります。スメタナの「売られた花嫁」のような活発な音楽です。

番号から、どうしてもベートーヴェンの「英雄」を連想してしまいますが、むしろワーグナーの影響を指摘されます。ただし、私には悪漢ワーグナー(^o^;)の影響を受けたのはこの時代の若者にとってかなり共通に見られる現象であって、格別ドヴォルザークがワーグナーに心酔し真似をしているとは思えません。むしろ、同時代の先輩スメタナとの親近性を感じてしまいます。

演奏は、ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィルによるもので、グラモフォンの紙箱全集中の一枚。実に堂々たる演奏です。幸いに、第3番全曲はCD1枚に収まっていますが、併録された第5番の第4楽章だけが、別のCDに追いやられています。やっぱり変則です。どこが Collector's Edition なんじゃ(^o^)/

(*):交響曲第3番(ドヴォルザーク)~Wikipediaの解説
(*2):ドヴォルザーク「交響曲第2番」を聴く~「電網郊外散歩道」2009年1月
(*3):ドヴォルザーク「交響曲第4番」を聴く~「電網郊外散歩道」2007年5月
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場所を調べる

2012年04月24日 06時04分43秒 | 手帳文具書斎
出張や旅行などで、目的地やその周辺について調べようとするとき、以前は地図やガイドブックが頼りでした。道路地図や市街図などがよく売れ、自宅にも新旧様々な地図が、今なお書棚の一部を占拠しております。これはなんとかならないものか。

ところで、よくよ考えてみると、これらの地図を利用することはごく少なくなっています。ブラウザを立ち上げ、地名を入力してGoogleマップで検索すれば、大縮尺から小縮尺まで、目的の地図はたちどころに得られます。周辺の宿泊施設やレストラン等を探すのも容易にできます。今は、スマートフォンの普及により、現地で検索しながら目的地を探すことも可能になっています。その点では、古い道路地図や市街図は、もう処分しても良い時期なのかも。

では、旅行ガイドや雑誌等はすたれる一方かというと、どうもそうでもなさそうです。パソコン雑誌の売り場は見る影もありませんが、旅行ガイドのコーナーは相変わらず繁盛のようです。ネットで細かく詳しく調べることができるようになった反面、提案おすすめ型の記事などに人気があるようで、目的地を往復するだけでは味気ないと考える人が、ちょっと立ち寄ることができるスポットの組み合わせに工夫が凝らされているのでしょうか。当地山形周辺にも、そうしたスポットはたくさんあり、今後の楽しみの一つです。

写真は、ようやく咲いたヒマラヤユキノシタです。ああ、春が来たなあと感じます。もうすぐ桜も咲くことでしょう。

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藤沢周平『三屋清左衛門残日録』を再読する

2012年04月23日 06時03分41秒 | -藤沢周平
インフルエンザで寝ていた時に、床の中で手当たり次第に読んだ中では、藤沢周平著『三屋清左衛門残日録』が、やっぱり心に残りました。亡父が入院時に退屈しのぎに持参したところ、本書がえらく気に入ってしまい、「お前、もう一冊買え」と言われてしまったというエピソードがありますが、病床にあって読むときには、格別に印象深いものでした。2006年以来、六年ぶりの再読で、もう四度目か五度目になりましょうか、何度読んでも味があります。名作です。

以前にも一度取り上げております(*)ので、ストーリーを繰り返すことはしませんが、あらためて感じるのが、作者・藤沢周平の文章のうまさです。

 三屋家の隠居、三屋清左衛門は、枯野のむこうに小樽川の川土手と野塩村の木立が見えて来たところで足を止め、ついで踵を返した。
 夕日を正面から浴びながら歩いて来たので、日に背を向けたとたんに、清左衛門は目の中が真暗になったのを感じた。それまでの光がまぶしすぎたせいだろう。だが目はすぐに馴れて、ふたたび目の前にひろがる透明な光につつまれた晩秋の風景が見えて来た。
 ところどころに見える畑に、太ぶととならぶ大根と枯れて立つ豆の畝を残すぐらいで、野の作物はほとんどが取り入れを終わったようである。道わきからひろがる田圃も、稲の株から心ぼそげにのびる蘖(ひこばえ)のうすみどり、畦にはえる芒(すすき)の白い穂が夕日を浴びてわずかな色どりをなしているものの、あとは一面に露出した黒土がどこまでもつづいているだけだった。
 畑と境を接する田圃の隅に稲杭をあつめて積み上げている人影が二つ、黒く動いているほかは人の姿も見えなかった。季節の終わりを示す光景だった。

このあたりの描写など、いつもながら見事な、まるで映画のワンシーンを観ているような風景です。

ところで、藤沢周平は、60歳で定年退職するまで勤めたわけではありませんが、日本食品加工新聞の編集長という仕事を辞めて作家生活に入ったわけですから、「隠居」が「世間と隔絶されてしまうこと」という実感を持ったのは確かでしょう。しかも、40代後半での退職ですから、それまでの生活との落差は大きかったのでは。『三屋清左衛門残日録』は、隠居の寂しさに老いの心細さの気配を加えていくあたりに、定年退職前後の世代の共感を呼ぶところがあるのかもしれません。

(*):藤沢周平『三屋清左衛門残日録』を読む~2006年5月
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ゆっくり書くこと

2012年04月22日 06時02分22秒 | 手帳文具書斎
手書きの文字では、速く書く場合とゆっくり書く場合とでは、文字の見え方が違うように思います。同じ筆跡のはずなのですが、たとえかなりの悪筆であっても、ゆっくりと書いた方が文字に味があります。忙しいと、気ばかり焦ってなぐり書きになりがちですが、ゆっくり書いていると、小学生の頃の「書きかた」の時間のようで、すこしばかり厳粛な気分になったりします。

そういえば、小学校の低学年では、担任の先生がやんちゃ坊主たちを数人ずつ残して、書きかたを指導してくれたものでした。ノートの一ページを埋めると、大きな赤丸をつけてくれ、ノートをランドセルに入れて帰ると、親たちは畑で農作業をしていました。あの頃の親たちの年齢をはるかに過ぎて、遠い昔を懐かしく思い出すことがあります。
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要点を手書きするほうが早いことも

2012年04月21日 21時36分56秒 | 手帳文具書斎
手帳に情報として控えておきたい場合、たいていは、切り貼りしたり縮小コピーしたりして、なんとか手帳のサイズに収めようとします。ところが、よく考えてみると、そもそもその情報は全部が必要なものなのか?時として、要点を手書きするほうが早い場合も少なくありません。このあたりは、必要な情報に関する割り切りの問題で、必要ならばオリジナルにあたれるように出典を記載しておけばすむ話です。何度も参照する情報は、むしろ簡潔明瞭であるほうが望ましい。老眼世代には、とりわけ重要なポイントかもしれません(^o^)/
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今日はようやっと更新~長い一週間だった

2012年04月20日 19時55分14秒 | Weblog
インフルエンザから回復し通勤を再開して、ようやく金曜日までたどりつきました。やれやれ、です。今朝は、疲労困憊で、とうとう寝坊してしまいました。恒例の早朝メールチェックもできず、朝食もそこそこに家を出て、怒涛の一日が始まりました。



ようやく帰宅して、なんとか無事に一週間を乗り切ったことに感謝です。明日は、ようやく休日になりますが、夜には某同窓会の実行委員会を召集しており、外出の予定。さらに日曜日は出張の予定が入って来ましたので、山響定期のチケットは、子どもにあげることにしました。年度はじめの一週間の不在は大きく、ここしばらくは皺寄せがきつそうです。なんとかここを乗り切りたいところです。

ただいま、クーベリックとベルリンフィルによるドヴォルザークの交響曲全集から、第三番を聴いております。明日は休日という晩に、ドヴォルザークの初期交響曲も、なかなかよいものです。クーベリックの演奏は、実に堂々とした立派なものです。

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通勤再開後の音楽は

2012年04月19日 06時03分54秒 | クラシック音楽
車の修理も完了し、長距離自動車通勤を再開しています。春の朝はだいぶ早くなり、夕方も暗くなるのがずいぶん遅くなりました。当地の桜だよりは今週末あたりになりそうですが、陽気もよくなると気持ちも明るく前向きになります。

そんな気分で選曲した通勤の音楽は、ドヴォルザークの交響曲第2番。クーベリック指揮ベルリンフィルによる紙箱全集からの一枚です。田んぼにはまだ雪が残る郊外路を走りながら、ドヴォルザークの初期交響曲を聴くと、ちょいとひなびた感慨にひたります。そういえば、この通勤路の春景色も、今年で見納めになるのかも。充分に堪能することといたしましょう。

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システム手帳のページ構成

2012年04月18日 06時01分32秒 | 手帳文具書斎
以前、薄型のシステム手帳を使っていたときは、こんなページ構成になっていました。

(1)ハード紙 仕切りを兼ねて、当座の付箋を貼っておく。
(2)パーソナルデータ集 住所・氏名・家族構成と生年月日、車両登録番号、主な履歴事項など。
(3)瀕用住所宛名 電話番号は携帯に入れ、こちらは郵送時にしばしば使用する宛名など。
(4)今年と来年のカレンダー
(5)年間計画一覧表
(6)月次目標一覧
(7)ダイアリー 見開き1ヶ月のマンスリー・タイプを1年分。
(8)年齢早見表
(9)デイリー・プラン 特別にスケジュールが混み合っているとき。30分単位で管理用に数枚。
(10)読書記録 読了日付、著者名、書名、出版社名。2年分。
(11)Shopping 当面の買い物リスト。普通の罫線メモ用紙を転用。
(12)メモ 罫線メモ用紙に、時系列に記入していく。行頭を□から始め、終了するごとにチェックを入れていく。用件が完了したら別途バインダーに時系列に保存。
(13)歌詞カード "Stein Song"等、主として祝い事のために景気のいい歌詞を集めておく。
(14)山形交響楽団演奏会予定 年間予定と主な曲目などの一覧。
(15)ハード紙 仕切り用。予備の50円切手や80円切手などを貼っておく。

全部で40~50枚くらいで、たいへんコンパクトに使っていました。

ところが現在は、標準サイズのリングを採用したシステム手帳を使っている関係で、収納しているリフィルの枚数がぐんと増えています。

(1)カッティングガイド
(2)パーソナルデータ集 住所・氏名・家族構成と生年月日、車両登録番号、主な履歴事項など。
(3)今年と来年のカレンダー
(4)年間計画一覧表
(5)月次目標一覧
(6)ダイアリー 見開き1ヶ月タイプを2年分。昨年のものを参照しながら進めることが可能。
(7)年齢早見表
(8)平成24年度主要行事概要
(9)デイリー・メモ 特別にスケジュールが混み合っているとき。2日で1頁で数枚。
(10)挨拶原稿 ちょっとした挨拶の原稿
(11)各種数値指標 仕事上の各種数値指標等の資料
(12)リフィル印刷用の設定データ
(13)罫線つきメモ・ページ 10枚
(14)方眼メモ・ページ 6枚
(15)読書記録 読了日付、著者名、書名、出版社名。2年分。
(16)瀕用住所宛名 電話番号は携帯に入れ、こちらは郵送時にしばしば使用する宛名など。
(17)緊急連絡先一覧 関係各方面 携帯電話が不通時のためのもの
(18)酒席用持ち歌の歌詞(^o^) 普通の罫線メモ用紙を転用。
(19)Shopping 当面の買い物リスト。Don'tForget(CheckList)用紙を転用。
(20)チケット入れ 各種演奏会のチケットを入れておく。
(21)山形交響楽団演奏会予定 年間予定と主な曲目などの一覧。
(22)度量衡換算表
(23)広域関東路線図&拡大都心路線図マップ
(24)カッティングガイド

以上のようになっています。
基本的な機能はあまり変わらないものの、昨年度のダイアリーをすぐ参照できるなど、かゆいところに手が届く便利さは、特筆ものです。たんに厚みが増えた以上の意味があると感じます。逆に言えば、ごく薄型の手帳は、その薄さの分だけストイックに使う必要がある、ということでしょう。

(*):来年の手帳のこと~「電網郊外散歩道」2008年10月
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百年文庫「響」を読む

2012年04月17日 06時03分06秒 | -外国文学
ポプラ社のシリーズ「百年文庫」から、第13巻『響』を読みました。ヴァーグナー「ベートーヴェンまいり」、ホフマン「クレスペル顧問官」、ダウスン「エゴイストの回想」の三編が収められています。この冊子を手に取ったのは、もちろんヴァーグナーの「ベートーヴェンまいり」がお目当てで、ワーグナーとベートーヴェンという取り合わせが興味深いものです。中部ドイツで生まれ、まだ貧しく無名の作曲家だった青年ヴァーグナーが、お金のためにガロップ(ギャロップ?)やポプリなどの軽い音楽を書いて旅費を工面し、メッカを目指す巡礼のように、徒歩でヴィーンを目指します。途中で知り合った、金持ちで俗物のイギリス人に妨害されながら、ベートーヴェンに面会し、筆談に成功するエピソードを回想する形になっていて、なかなか面白い読み物です。

もちろん、あの悪漢ヴァーグナー(^o^;)が、脚色なしに正直に一部始終を描いているとはとても思えませんので、その点は割り引いて読んでいましたが、巻末の解説を読んでいたら、案の定、ヴァーグナーは生前のベートーヴェンとは一度も会っておらず、実際にはベートーヴェンの死後にウィーンを訪れているのだとか。やっぱりね!

ヴァーグナーがベートーヴェンのある面を崇拝し、研究したのは確かなことでしょうが、その後の歩みの方向性はだいぶ違いました。人々の感情の内奥に直接に訴えかけるような音楽を志向したという点では共通性もありますが、今の私はヴァーグナーの巨大な楽劇よりも、ベートーヴェンのピアノソナタや室内楽などに、より魅力を感じてしまいます(^o^;)>poripori

ホフマン「クレスペル顧問官」、ダウスン「エゴイストの回想」も印象的な佳編ですが、ヴァーグナーとベートーヴェンという巨人の前には、やや色あせてしまった感があります。
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回復後に聴いた音楽は

2012年04月16日 06時04分24秒 | クラシック音楽
インフルエンザで一週間も寝込んだ後で、ゆっくりと音楽を聴きました。曲目は、次のとおりです。

(1) ドヴォルザーク「4つのロマンティックな小品」、スーク(Vn)、ホレチェック(Pf)
(2) ドヴォルザーク「ピアノ三重奏曲第1番」、スーク・トリオ
(3) ドヴォルザーク「弦楽四重奏曲第10番」、パノハ四重奏団
(4) ベートーヴェン「ヴァイオリンソナタ第5番《春》」、スーク(Pf)、パネンカ(Pf)

意外にもドヴォルザーク三連発のあとにベートーヴェンの「春」と、室内楽づくしとなりました。春の季節にふさわしく、また回復期の気分にかなうような音楽ばかりでした。ゆっくりと音楽を楽しめるのは、健康あってのことです。やっぱり健康にまさるものはありません!

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