電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

アビガン(ファビピラビル)がRNAウィルス合成を阻害する理由

2020年05月03日 06時01分48秒 | 健康
新型コロナウィルスの流行により生活上の不便を感じることが多いためか、このウィルスに効果的に作用するらしい「アビガン」ことファビピラビルの作用に興味を持ちました。幸いに、開発者の白木公康先生の緊急寄稿論文の所在(*1,*2,*3)を知り、じっくりと読んでみました。

これによれば、ファビピラビルは体内で五炭糖の1種で RNA の原料の一つであるリボースと結合します。プリントアウトした文字が小さくて読み取りにくいのですが、



この、リボースと結合したファビピラビルが、RNA の前駆物質である AICAR とよく似ている(本物はNを含む複素環が五角形だがアビガンでは六角形になっている)ために、酵素が間違えて取り込んでしまい、RNA 合成がストップしてしまう結果、インフルエンザウィルスや新型コロナウィルス、エボラ出血熱ウィルスなどの RNA ウィルスの増殖が阻害されるというしくみのようです。



なるほど、アビガンは RNA 合成を阻害する薬なのだから、通常は一定の割合で出現してしまう耐性ウィルスを生じないという特徴があり、感染初期〜前期に投与すればウィルスの増殖を抑えることができる、ということなのでしょう。ただ、いったん増えてしまったウィルスを減らすことはできないので、細胞内から外へウィルスが拡散するのを阻害するようなタイプの薬と併用するのが望ましい、というのが著者の見解のようです。

その時期としては、感染が判明しだい早期に投与されるのが望ましく、ウィルス量のピークは感染後10日くらいになるようですが、できれば COVID-19 に特徴的な 4日間以上続く発熱の4日目あたりで感染を疑い、発症後5〜6日に労作性呼吸困難(息切れ等)を指標に肺炎合併の有無をCTで検討し、抗ウィルス薬治療を開始するのが望ましいとのこと。2タイプの薬剤の併用で耐性出現を抑制しながら初期治療で重症化を防ぐ、という戦略のようです。

アビガンの副作用としては、RNA 合成が活発に行われる生殖活動への影響があり、具体的には例えば妊娠中に阻害される結果、胎児に催奇形性を示してしまうということが挙げられます。このあたりは男女ともに充分な注意が必要でしょう。もう一つは、臨床的に尿酸値の上昇が見られるとのことで、痛風の持病がある人はちょいとためらう面があるのかもしれません。



更新した備忘録ノートの最初の記事は、なんと「アビガンがRNAウィルス合成を阻害する理由」というお硬いものになってしまいましたが、内容的にはたいへん興味深いものでした。化学反応的には、アビガンの複素環を構成する N 原子と隣接する C 原子に結合する -OH 基とリボースの -OH 基との間で H2O 分子が取れて結合するようで、これはこれでたいへん興味深いものです。

いずれにしろ、「窓を開けて換気」「手洗いの重要性」「若くても肺線維化は起こる」などのポイントをあらためて確認することができました。田舎は感染者数が少ないからと根拠のない安心感を抱くことなく、警戒しつつ過ごすことが大事になるようです。

(*1):緊急寄稿(1)新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のウィルス学的特徴と感染様式の考察(白木公康)〜WEB医事新報
(*2):緊急寄稿(2)新型コロナウィルス感染症(COVID-19)治療候補薬アビガンの特徴(白木公康)〜WEB医事新報
(*3):緊急寄稿(3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含むウイルス感染症と抗ウイルス薬の作用の特徴(白木公康)〜WEB医事新報

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