イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「科学にすがるな!―宇宙と死をめぐる特別授業」読了

2020年02月08日 | 2020読書
佐藤 文隆 、艸場 よしみ  「科学にすがるな!―宇宙と死をめぐる特別授業」読了

著者はフリーランスの編集者なのだが、身近な人の死をきっかけに、「死」とは一体なになのか?どのように「死」に向き合えばいいのか?という疑問を宗教家や哲学者ではなく、宇宙を研究する物理学者に問いかけるという内容だ。

どうして宇宙物理学者だったのか。それは宇宙には、生命や死の神秘が隠されていそうに思うと考えたからだそうだが、本の内容はどうも期待どおりではなさげだった。
ほとんどは量子物理学の歴史の解説で終わっている感がある。

量子論の本(もちろん一般向けの初歩的なものだが。)を読んでいるとなんとなく哲学的な内容が入っていることに気付く。たとえば、素粒子は実体がなく“ゆらぎ”であるということ、そういうものの集合体が物質であり僕たち自身であることや、物質とエネルギーは交換可能であるということ、そもそも宇宙自体が“無”の状態が少しだけずれたことで生まれたなどと聞くと、この世の中に見えているものはすべて幻であるのではないかと、そうならば自分たちは人生のあれこれにくよくよしてもそれさえもただの幻想だと思えば気も楽になる・・。というような考えが浮かんでくる。
筆者も、そういう予備知識があってあえて宇宙物理学者に対して問いかけをしたのではないのだろうか。加えて宇宙という広くて悠久の時を刻んだ空間を相手にしている人が描く死生観というものを知りたいというようなものであったのだろう。

しかし、物理学者はこんなことを言う。物理学というのは、物質だけを見る学問ではあるけれども、量子物理学の世界では「これが真実である」というものがない。宗教や哲学と同じで、物理学者の見る世界は人によって異なる。ましてや人間は物質でできていることには違いがないけれども、物質でできているというだけでは計り知れない何者かであるように思う。だから、生や死というものの答えを物理学者に求めても無駄なんだと。
だから、タイトルが「科学にすがるな!」となっている。ようだ。
「ようだ。」と書いたのは、それさえもよく理解できなかったからだ。この本はいったい何を伝えたかったのかということが何となくわかるようでまったくわからないという雲の中に手を突っ込んでいるような気分だった。悪く言うと著者のファンタジーにすぎない。本の中身のデザインが青いインクを使っていたり、ページの周囲にイラストが入っていたりしているのでなんとなくそんな感じがしたけれどもやっぱりデザインどおりの内容だ。

ただ、この物理学者の言っていることが面白い。物質を研究している人たちというのはただひとつだけ存在する回答に向かって実験と数式を駆使してその根源を解き明かそうとしていると思っていたけれども、どうもそうではないらしい。
以前に読んだ、理論物理学者が女子高生に解説をするという本では、世界には9次元という世界があったり、宇宙は膜でできているとか、まあ、普通ではどうも考えがつかないような世界の話が出てくるのだが、こういうものは、現実の現象に則して数式を駆使していくとこんな世界も存在する可能性があるのだと言っているだけというところが多い。これが、“見る人によって違う”ということだそうだ。
また、数千億円という実験装置を作って研究をするという、公共投資に近いようなプロジェクトというのは物理学者を養うための手段にすぎないとバッサリ言ってしまっている。そして、専門的な勉強をしたことがない著者に対しても、「専門家でないものが少しだけわかって何になるのか。」と手厳しい意見を言ったりする。

確かにスーパーカミオカンデなんていうのも、えらいお金をかけているわりに、ニュートリノというものが存在するということがわかってどんな得になるの?と思うところがあるのは確かだけれども、その一方で僕たちはどこから来てどこへ行くのかという疑問は永遠に消えない。個人にあてはめれば、どこから来たかは今まで生きてきたのだから嫌な人生であっても思い出すことができる、しかし、この先どこへ行くのか、そしてその先、死とはいったい何なのか。死んだ人たちは決して教えてくれないからその謎は永遠に消えない。
どんなものを読んでみても科学番組を見ても脳みそがついて行けないというのはわかっている。しかし、はやりそのふたつの疑問、「僕たちはどこから来てどこへ行くのか。」「死とは・・」についてはバカはバカなりに答えがほしいと思うのだ。

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