イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「成瀬は信じた道をいく」読了

2024年08月07日 | 2024読書
宮島未奈 「成瀬は信じた道をいく」読了

長らく順番待ちをしていたこの本をやっと読める。2月に予約したので6ヶ月待ったことになる。
この本を読み始める前にまずは前作の復習として、「成瀬は天下を取りにいく」をもういちどサッと読み返してみた。同僚がこの物語の舞台になった大津西武に勤めていたということはその時のブログに書いたが、彼は記念にとこの本を買っていたというのが幸いしてもう一度読むことができたのである。
予備知識を蓄えていざ「成瀬は信じた道をいく」へ。
まずはあらすじをまとめておく。この本も前作同様、いくつかの短編がつながってひとつの物語となっている。今回は5編の物語が収録されている。前作のあらすじはAIに任せてみたところ、まったく違う内容になっていたので今回はもっと安直にウイキペディアを頼ってみた。物語の構成は各編でダブル主演となるもうひとりが一人称で語るという形で物語は進む。そこにはやっぱり成瀬あかりの奇想天外な行動が潜んでいるのである。
勢いあまってほとんどネタバレというほど書いてしまったのでこれから読もうと思っている人はここから先は読まないでいただきたい・・。

・ときめっこタイム
小学4年の北川みらいがもうひとりの主人公。総合学習(ときめきっこタイムという)で10月のテーマが、ときめき地区で活躍している人を取材し発表すると担任が言った瞬間、憧れのゼゼカラの成瀬あかりを対象にすると決める。みらいは通っている小学校(大津市立ときめき小学校)の「ときめき夏祭り」で司会をしていた「ゼゼカラ」に心臓をつかまれたようにぎゅっとなったからだった。
授業の一環だからと校長室に突撃取材に行き、成瀬が琵琶湖の絵コンクールで琵琶湖博物館賞を取ったミシガンの絵を見せてもらったり、振り込め詐欺を防いだというようなエピソードを聞いたりした。
班のメンバーから通学路に成瀬の標語があったと聞かされ現地に見に行くとパトロール中の成瀬に遭遇し、本人にインタビューする機会を得る。場所はオーミ―1階のイートインスペース。そこには島崎みゆきも同席していた。そこで、成瀬あかりは人の名前を一度きくと忘れないという驚くべき能力があることを知る。
その後、北川みらいは成瀬あかりの弟子となり一緒にパトロールをすることになる。

・成瀬慶彦の憂鬱
成瀬あかりの父親である成瀬慶彦がもうひとりの主人公。家族共用のパソコンの検索履歴から、大学に進学できれば娘のあかりが京都で一人暮らしを始めるのではと気を揉んでいた。受験当日は、あかりも妻も一人でも問題ないと言ったが念の為と仕事をリモートワークにしてもらい京阪電車を乗り継いであかりに付き添う。
試験後に時計台を見ていきたいというあかりの希望で中央キャンパスに行くと雪が降る芝生でテントを設営している受験生城山友樹を見て、あかりは「うちに来たらいい」と言った。彼はユーチューバーで「3000円で京大入試に行ってみた」という企画を立てヒッチハイクしながら高知からやってきていた。
合格発表の日、パソコンに残っていた検索履歴は前作で全国高校かるた大会に広島県代表として出場していた西浦航一郎(と思われる)が京都の大学を受験してひとり暮らしをするというのでアドバイスをするために調べていたことがわかり、成瀬慶彦は安どの胴上げをされるのである。

・やめたいクレーマー
主婦の呉間言実がもうひとりの主人公。近所のスーパー・フレンドマートにお客様の声で頻繁にクレームを入れている。備え付けのボールペンはインク切れが多いので、マイボールペンを持参しているほどだ。この店では成瀬あかりがレジ打ちのアルバイトとして働いている。
クレームを書いているときに成瀬に声をかけられた。一度聞いた人の名前は忘れないという成瀬に名前を言われ動揺してクレームを書くこともできずに家に帰る。後日、夫とフレンドマートに行ってみると北川みらいと一緒にいた成瀬あかりに再び声をかけられてしまう。そこで、万引が多いので平日午前中のパトロールを頼まれるが拒否した。
成瀬と顔を合わせるのが嫌になりネットスーパーを活用したが届いた食品が傷んでいたことが続き、再びスーパーに行くようにしたら、万引の場面を目撃する。目撃内容をお客様の声に投稿しようとしたものの、あまりにも狼狽してしまい気分を悪くしてしまう。助けてくれたのは接客態度が悪いとクレームを入れた店員だった。休憩室で目を覚ますとそこには成瀬あかりが立っていた。呉間言実の情報で万引犯は捕まり、そのことでクレーム癖が無くなっていったと思いきや、ときめき夏祭りで当たったミシガンの乗船券が入っていなかったことに対して再びモヤモヤとクレーム癖が湧きだしてくるのであった。
舞台になった平和堂の店内で流れていたという「かけっことびっこ」というテーマソングは本当に存在するらしい。

・コンビーフはうまい
成瀬あかりと一緒に1年間、琵琶湖観光大使を務める篠原かれんがもうひとりの主人公。京大入試から合格発表を待つ間、成瀬はびわ湖大津観光大使の選考会場にいた。篠原かれんは、同じく観光大使に応募した成瀬がスマホを持っておらず、自宅の電話番号のメモを渡しながら「コンビーフはうまい」と覚えてくれと言う場面を目撃。
ふたりはめでたく観光大使に選ばれる。篠原かれんは親子3代で観光大使に選ばれた観光大使のエリートだ。
観光大使任命後の成瀬は京都大学に入学のための連絡用にと最新のiPhoneを所持していた。
初仕事は金沢でのイベントでああったが、成瀬は自宅から観光大使の衣装のままやってきた。そして、iPhoneの使い方を教えている最中、篠原かれんがうっかり見せてしまったInstagramの裏アカかから撮り鉄であるということが判明する。
彦根市のひこにゃんの人気に押され、集客がいまいちの大津市のブースに集客するため、成瀬はいきなりけん玉を取り出しテクニックを披露し始める。若干のライバル心を持っている篠原は焦るが手配りのパンフレットさえ受け取ってもらえない。そんなとき、観光案内地図を見ながら目的地を探しているらしい外国人が目に入り助けに入ったが相手がしゃべる未知の外国語がわからないうえに肝心の金沢の観光地の知識がない。パニックになりかけた時に成瀬に助けられた。成瀬は日本語だけでこのピンチを切り抜ける。
観光協会のパンフレット作りのためにやってきた大津港で、篠原は成瀬に将来の不安について相談をする。篠原は観光大使になることが将来の夢であったため、この先の夢を描けないでいる。また、家族からも4代目の観光大使を早く産めと見合いを勧められていた。そんな話をすると、成瀬は、日本一の観光大使を目指せばよいと提案される。スマホで、「観光大使 日本一」と検索してみると、観光大使-1グランプリという大会がヒットした。篠原と成瀬はこの大会に参加することを決める。
近畿ブロックの予選、全国大会への切符はつかめなかったものの、篠原の鉄オタの知識と成瀬の圧倒的な話術で審査員特別賞を受賞することができた。
この経験が篠原に自信を与え、自分の道は自分で決めたいと見合いの話を断るのである。

・探さないでください
前の4作に登場した主人公たちがオールキャストで登場する。語り部は島崎みゆき。2025年の大晦日、「探さないでください あかり」と書かれた書置きとスマホを家に残し、成瀬は行方をくらましていた。けん玉と観光大使の制服が部屋からなくなっていた。両親が頭を抱えているところに年末年始を成瀬と過ごそうとしていた島崎が到着した。慶彦が近くを探しに行くと言うと島崎も同行した。成瀬のバイト先に向かうと自主パトロール中のみらいに遭遇、大人の慶彦が同行していると伝え成瀬探しに行くと親の許可を取り成瀬探しに同行すると、店内で呉間夫妻に会うが特に心当たりはないものの、協力するといわれた。観光大使の制服がなくなっていたことから篠原かれんのことをSNSで検索してみると大津港にいることがわかり協力を求めた。
一度成瀬家に戻り、ふるさと納税で届いたそばをごちそうになっていると関ヶ原のスタンプラリー会場からの中継ニュースにびわ湖観光大使のたすきを着けた成瀬の姿を見つけた。篠原から成瀬が観光大使の仕事の合間に武将のスタンプを集めていたということを聞いた島崎たちは、北川みらいがチェックしていた観光大使の過去のイベント会場の白地図から次の目的地は名古屋ではと、慶彦の運転で向かうものの、僅かの差で立ち去った後だった。成瀬は60ヶ所のポイントを期限の大晦日までにコンプリートしようとしているらしいが足取りはわからなくなってしまった。ちなみに成瀬は百人一首、平和堂のはとっぴースタンプラリーなど、さまざまなスタンプラリーに挑戦していた。失意の中大津に戻る途中、島崎の母から島崎の家に成瀬が立ち寄ったと連絡が入り成瀬は東京に向かったと知る。
この間、自分の知らない成瀬を知っている北川や篠原に少しの嫉妬を覚えていた島崎であったが、その会話から自分も受け入れられていると感じうれしくなった。
成瀬は東京にいた。そして最終目的地はNHKホールであった。紅白歌合戦のけん玉ギネス記録を目指す一員として参加していたのだ。この年は全国各地の代表が集められていて、成瀬も東京でのイベントのときNHK関係者から声をかけられていた。成瀬はかつて島崎に、「島崎、わたしはいつか紅白歌合戦に出ようと思っている。」と語ったことがあったが、それが実現しようとしていたのである。(歌手としてではなかったが・・)
紅白歌合戦が終わり、2026年の元旦を迎える1分前、成瀬は自宅に戻ってきた。
「探さないでください」の理由は、NHKから、紅白歌合戦に出ることを誰にも言ってはいけないと言われていて、スマホを持っていると、GPSで居場所を知られてしまうと考えたからであった。それを律義に守っていたのであった。
翌日、島崎は初詣の馬場神社で、これからもずっと成瀬を見ていられますようにとお願いするのであった。

主人公である成瀬あかりはどうしてここまで読者を惹きつけるのかということをあれこれ考えてみると、普通では考えられない行動力とキャラクターがおもしろいだけではないということがわかってくる。他人の目を気にすることなくわが道を生きているというところがいちばん大きいのだろうが、加えて、他人の行動や考えをすべて肯定するというところも成瀬あかりの魅力である。自分の考えを押し付けることをしないということだ。その道をいくために人を傷つけることはなかったということだ。
「ひとは心の中に思っていること以外は言葉に出さない。」ということは本当のことだと僕は思っている。そしてそれを言葉に出してしまうことによって人を傷つける。パリオリンピック柔道で号泣した選手に対してたくさんの誹謗中傷が浴びせられたという話題が大きくなっていたが、こういうコメントを書き込む人たちというのは自分の考えを他人に押し付けて人を傷つける人たちだ。僕自身も最初は、「そこまで泣かなくても」と思っていたが、それを言葉に出して言ってしまうと必ず誰かを傷つけてしまう。思っているだけと言ってしまうというのには大きすぎる差があるのだ。
そもそもだが、僕を含めてこんな言葉を吐く人間にかぎって夢が叶わずに泣けるほど情熱を注ぎ込めるようなものを何ひとつ持っていない寂しい人間なのである。それに対して、成瀬あかりは、『何になるかより、何をやるかのほうが大事だ』と何に対しても全力で取り組む。まさにこういう輩とは対極にある主人公なのである。
そういう意味では成瀬あかりはまったく人を傷つけない。というか、傷つけさせない。独特の話術が効果的に使われているように思う。
朝ドラの世界では『言いたいことがあれば言い合おうよ』というようなセリフがよく出てくるが、それはすべての登場人物が悪人ではないからである。大概のドラマではあるひと言が誰かを傷つけることで物語が進んでゆくのだが「成瀬は信じた道をいく」でも「成瀬は天下を取りにいく」でもそういう展開がない。それでも物語がまとまっているというところではまったく稀有な存在の小説でもあると思う。

成瀬あかりは2020年8月3日にスタートする「ぐるりんワイド」の生中継にはじめて登場するのだが、奇しくも同じ日にこの物語を読み返していた。それも散髪屋の順番待ちの時間であった。高校1年生になった成瀬もそれから2年半髪を伸ばし続けた。日付と髪の毛の合致という奇跡的なつながりが起こったのである。



おまけに、「成瀬は信じた道をいく」を読み終えた後、テレビを点けてみると中川家が滋賀県を旅するという番組が放送されていた。もう、これは奇跡を超えているのではないかと思えてくる。滋賀県は僕の新たな聖地となってしまったのだ。聖地巡礼のため、その目的地を備忘録として書き留めてこの感想文を終えたいと思う。

・ときめき坂
・オーミ―1階のイートインスペース(Oh!Me大津テラス)
・島の関のロイヤルホスト(ロイヤルホスト浜大津店)
・フレンドマート大津打出浜店(フレンドマート大津テラス店)
・馬場神社(?)
・ミシガン(大津港)
・大津市立ときめき小学校(大津市立平野小学校)
・食事処(湖の駅 フードコートおいしや)
・プラージュ(美容プラージュ 膳所店)
・馬場公園(馬場児童公園)
・西部大津店→レイクフロント大津におの浜メモリアルプレミアレジデンス(シエリアシティ大津におの浜)
・滋賀県立膳所高等学校

残念ながら登場する場所はほとんど架空の名前の場所だそうだ。ネット上では僕と同じく巡礼を志すひとがいるようで、おそらくここがモデルだろうという場所を詳しく調べてくれている。( )で書いている場所がモデルになったリアルな場所だそうだ。そのほかには、小説とコラボしたメニューを出しているレストランもあるらしい。
ここへ僕は、成瀬あかりが受験のために京都目指した逆をたどり、JR東海道線を使わずに京阪電車を乗り継いで行ってみたいと思っている。
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