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まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

第33番「華厳寺」~西国三十三所めぐり2巡目・28(一足先に満願気分と言いたいところだが・・・)

2018年08月08日 | 西国三十三所
華厳寺の山門をくぐる。私の背丈の倍はあるか、大きな草鞋が出迎えてくれる。

この先は石灯籠が並ぶまっすぐな参道である。灯籠の苔、そして青もみじ。夏の景色である。青もみじが参道をほどよく覆う感じで、暑さもいくぶんか和らぐように思われる。両側に大きく「南無十一面観世音菩薩」と書かれた幟が並ぶのも風情あるように見える。

石段を上って手水場に着く。観音様が瓶から水を注ぐように見立てて造られていて、観音様から直接ありがたい水をいただくような気持ちになる。

改めて、西国満願とあちこちに出る本堂に立つ。2巡目ではまだ6ヶ所を残しているにも関わらず満願札所に来たわけで、やはりちょっと先走ったかなという気持ちもある。別に西国にこだわらず、岐阜の名刹、あるいは観光名所という感じでお参りに来た人たち(先ほど谷汲口からバスで来た人たちもどちらかと言えばそんな感じに見えた)は、「西国三十三所満願のお寺らしいよ、すごいなあ」という感じで参詣していた。

別にこのタイミングで華厳寺に来たことをしくじったとは思わないが、もし「3巡目」をやるのなら、やはりここは最後に来ることにしよう。そんなことを思いながら、経本を取り出してお勤めとする。

先達用の巻物型の納経帳に朱印を受けるが、もちろん華厳寺の欄は巻物の最後にある。まずそこを出すのにくるくる回して時間がかかる。またご存知の方もいらっしゃるだろうが、華厳寺の朱印は「3つで1セット」である。現在・過去・未来ということで、本堂、満願堂、笈摺堂それぞれの朱印をいただくことになる。巻物の納経帳もそのように作られている。

どうするかと見るに、まず受付の係が3ヵ所に朱印を押す(本堂の欄には西国開創1300年の記念印も押す)。そして後ろに控える係に納経帳を回す。係の人は左、つまり笈摺堂から満願堂、本堂の順に筆を走らせる。順序としては逆だが、左から書けば、書いた後に当て紙を置いて、巻物を少し戻して次の筆書ができる。なるほどそのほうが手も汚れずスムーズに書けそうだ。1巡目の時はぐちゃぐちゃっと殴り書きされたようだし、寺の方の対応にも多少不満を感じたのだが、今回については普通に対応していただいた印象だった。

本堂の縁側にて、巻物をぐるぐると元に戻している最中、「もういろんな悪いことばっかり起きて、頭がおかしくなりそうですわ!」という声がする。先ほど朱印を押してくれた係の人に食ってかかるように問いかけているのは老女。「そういうのに効くお札ってありますのん?」「ここはお寺なんでお札はなくてお守りで・・・」「そんなもんで効くんか!?」「後はご祈祷とか・・・」「◎※■☓▲&$・・・!!」話がかみ合わない。こういう手合いには、やれ仏の道だとか、自ら祈ってとかいうことを説いても通じないだろう。

プロの僧侶がどのように対応するのかはさて置いて、本堂の後ろに回る。出迎えるのは苔ノ水地蔵、「貼り仏」として知られている。仏の前にある護符を、自分が治してほしい部位と同じところに貼りつけて水を垂らすというものだ。私なんか身体中のあちこちに貼りたいくらいだが、それはオーバーということで、とある1ヶ所に護符を貼ってこれからの健康を祈る。

そして笈摺堂に向かう。こちらは過去に西国三十三所を満願した人たちの記念写真や千羽鶴で飾られており、堂の中には数多くの笈摺、金剛杖、菅笠が奉納されている。個人で、あるいは講を組んで西国を回った人たちの足跡である。先ほどの老女ではないが、人生のさまざまな苦悩を背負いつつ、何かしらの安らぎを得ようと回ってきた人たちの思いが詰まっているように思う。寺の人も、「それならば西国を一つずつ回ってはいかが?」と勧めてもよかったのではないかと思う。

本堂の奥にある満願堂に向かう。なぜかタヌキの石像が並ぶスポットである。ここまでは他にもお参りで来る人も見られる。満願堂で手を合わせたが、やはり、「満願」の時に来るべきだったかなという思いがする。

この先には山道を40分歩いて奥の院があるのだが、やはりこの暑さである。今回も奥の院はいいかなということでここで折り返しとする。再び本堂の外陣に行くと、どうやら祈祷してもらったかお守りか護符かをいただいたようだが、先ほどの老女がまだ何か食ってかかっている。こりゃ、西国一つずつよりは現代医療のナントカメンタルクリニックに行ったほうがよさそうだな・・・。

本堂外の柱には「精進落とし」の鯉のレリーフが打ちつけられている。西国を回ってきた人は最後にこの鯉に触れて精進落としをして、再び俗界に戻るとされているが、今の世の中、これまでの最中に肉食を禁ずることもなく、普通に回る中では一つの儀式である。

これで華厳寺参りを終える。ちょうど昼時ということで食事だが、仁王門を出て参道のすぐ右手にある「富岡屋」に入る。前回は時間の都合もあって入らなかったのだが、華厳寺の歴史とも関係する店である。時代は桓武天皇の時、奥州の役人だった大口大領という人が都で十一面観音を作らせた。大領は出来上がった観音像を引いて郷里に持ち帰るのだが、途中の美濃で像が動かなくなった。大領は、この地こそ十一面観音の結縁の地だとして、ここで修行していた豊然上人とともに寺を建てて観音像を安置した(奥州に持ち帰る話はどうなったのか)。それが華厳寺の由来とされていて、その大口大領の末裔が営んでいるとしているのがこの富岡屋である。

今もご家族経営のようで、ちょうど若女将に甘えている男の子もいる。言い伝えが本当ならこの子も大口大領の末裔となるのか。それはさておき、店の名物である「満願そば」を注文する。単品なら700円のところ、100円追加で定食ができるのでそれにする。この「満願そば」は、『百寺巡礼』で華厳寺を訪ねた作家の五木寛之さんも味わっている。バス停から華厳寺への参道にも、「五木寛之先生紹介の店」という看板もあった。

「満願そば」は、そばの上にニジマス、しいたけ、タケノコが乗った一品である。ニジマスが乗ったのが「精進落とし」ということなのだろうが、そば、つゆ共にしつこくない味で、これまで精進で肉食を断ってきた人が最初の一食目はリハビリのようなものであっさりしたものをいただく・・・という感じである。華厳寺の参道にはしいたけ料理の他には鮎やら鰻やらを食べさせる店が点在するが、昔からの流れとして精進落としは川魚なのだろう。いきなり飛騨牛や近江牛のステーキ・・・は似合わない。

このつゆを飲み干すと、「満願成就」という文字が出てくる仕掛け。

バス停に向けて参道を歩くと、納経軸を扱う店にて、白衣、笈摺姿で手には金剛杖の一団を見かける。バスツアーで西国三十三所を回ってきた人たちだろう。バスツアーにはかつて各旅行会社が「お試しプラン」とも言える第1番の那智山青岸渡寺に日帰りで行くコースに参加したことがあるが、その時の添乗員の話では、札所順に進むに連れて参加者が減るということだった。それが満願札所まで来たということは、バスツアーを重ねてここまで残った仲間意識というのは強いのかなと思う。ツアーの中には、華厳寺の後にそのまま長野の善光寺まで行くのもあるそうだ。

時刻は13時。帰りの時刻だが、谷汲口行きが13時35分発、揖斐行きが14時40分発である。本当は揖斐行きに乗って行きと帰りで変化をつけたかったが、ちょっと時間が空きすぎる。同じルートになるが谷汲口に戻ることにする。

それまで少し時間があるので、名鉄の旧谷汲駅に向かう。1926年から2001年まで走っていた名鉄谷汲線の終着駅である。駅舎は1996年に新たに建てられたが、わずか5年で廃止されたことになる。現在は昆虫館を併設した立ち寄りスポットとして、かつて谷汲線を走っていた車両2両が保存されている。

そのうちの1両が開放されていたので中におじゃまする。レトロな感じの車両は、このままガタゴト揺られてみたい気持ちになるが、ふと車内の温度計を見ると40度・・・滞在1分で外に出る。

行きで見かけた人の多くが同じバスに乗り合わせて、谷汲口に戻る。次の大垣行きは3分後の13時46分発。今度はロングシートの車両だ。

この日の大垣は最高気温が36度だったそうだが、それにしても車内が暑い。一応冷房装置はついているがふた昔前の貧弱な設備で、冷風が感じられない。また、モレラ岐阜や北方真桑で、買い物帰りや部活帰りの高校生、岐阜高専の見学帰りらしい中学生などの乗客が増えて吊り革につかまる人もずらりと並ぶ。一人の学生が「まるで東京(の電車の混雑)みたいやな」と冗談を言っている。いやいや、東京のラッシュはこんなもんやないで。

14時34分、大垣到着の前に運転士が乗り換えなどのアナウンスをしたが、その時に「本日は冷房の効きが悪く申し訳ありませんでした」と言っていた。この暑さでフル稼働して故障したか。「ローカル線も大変やねえ。それでも走ってもらわんとあかんし」という声も聞こえる。

大垣に戻ってきた。大相撲の巡業は見られなかったが、醒ヶ井と谷汲山を回るということは1週間遅れで達成することができた。これから大阪に向けて戻ることにするが、青春18きっぷを持っていながらこのまま東海道線で戻るのもどうかということで、養老鉄道で思い切って桑名に出ることにする。ローカル線に乗ろうということもあるが、ここへ来てある目論見が出てきて・・・。
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