わたらせ渓谷鉄道の終点・間藤から一駅、古くからの駅舎が残る足尾駅に降り立つ。するとそこにもバッジをつけた団体さんで賑わっている。静かな駅舎の佇まいを味わおうなどというのは甘い考えだったかな。
さて、ここで下車したのはこの後発車する「トロッコわたらせ渓谷鉄道」号に乗ろうというもの。14時25分の発車で、本来ならトロッコ整理券を購入しなければならないのだがこの日満席という。まあ、1両はこの団体が貸切利用していたし、私も急に思い立っての利用だから仕方ない。ただ、トロッコ車両ではなくその前後に連結された普通客車であれば当日アテンダントから整理券を購入して乗車することができる。
私としてはトロッコは以前に乗ったことがあり、その時も今や珍しい存在の12系客車に乗れたことが面白かったので、今回も普通客車で十分である。いやむしろそちらのほうがいいかと・・・。最後部の車両に陣取り、窓を開ければトロッコと同じく風を感じることができる。同じように観光で来ている人が多いものだから誰も何も言わない。
遠くで汽笛が鳴ったような感じがして、そろりと発車。うーんいいね、この客車列車の乗り心地。コトンコトンとレールの継ぎ目を刻む音がいいリズムである。
先ほど気動車で通ってきた渓谷の区間であるが、こうして客車の窓を開け放って眺めるとまた一味違って見える。
窓からちょっと顔を出して前方の写真を撮ってみる。今ではなかなかできない貴重な経験である。こういうことができるのもわたらせ渓谷鉄道ならではかな。
草木トンネルに入る。するとトロッコ車両ではこのように天井のイルミネーションが点灯し、何とも不思議な光景が広がる。
一方のこちら普通客車。いやあ、こちらは夜汽車に乗っているかのような感覚。数少ない経験ではあるが、学生時代に客車列車で運転された夜行快速に乗ったことを思い出す。これはトロッコでは味わえない汽車旅の風情満点。結構ねらい目かもしれない。
後は客車の揺れるのに身を任せるだけ。そろそろ沈み行く上州の渓谷、田園風景を眺めるだけ。
大間々までの1時間半はあっという間に過ぎた感じがした。ここで気動車に乗り継ぎ、相老に到着。ここからまた東武線で東京に戻ることにする。
相老という駅名を見て思い出したのが、もう30年近くも前の旅行だろうか、「相老から蕨岱」という、国鉄の五十音順で最初に来る「あいおい」からおしまいの「わらびたい」まで、レールウェイライター・種村直樹が読者たちと鈍行列車を乗り継いで行く旅行記。その当時は各地には客車列車、それに鈍行の夜行列車も健在で、今の鉄道旅行も面白いのだがそれから見ても羨ましくなるような行程である。私ももう10年早く生まれていればと思う。
・・・とまあ、そんなことを思い出すのも久しぶりに客車列車に乗ったからだろうか。
さて東武特急「りょうもう」で降り立ったのは夕方の北千住。東京在住時代は通勤経路であり、東京の北東のターミナルである。新幹線の時間を逆算しつつ、駅からちょいとわき道に入った居酒屋で一献。もつ焼きもいただくことができた。
今回訪れた東京の下町とスカイツリーの眺め、そしてわたらせ渓谷。よき人情とよき景色を楽しむことができた1泊旅行であった。