まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

宮脇俊三と鉄道紀行展

2008年07月19日 | まち歩き

「時刻表2万キロ」「最長片道切符の旅」に代表される鉄道紀行文の第一人者、故・宮脇俊三氏の展覧会「没後5年 宮脇俊三と鉄道紀行展」というのが、没後5年にして初めて、世田谷文学館で開催されている。

P7192165世田谷文学館というところは世田谷ゆかりの文学についてさまざまな企画展を行っているスポットだが、宮脇俊三も世田谷に居を構えていたこともあり、今回初の試みではあるが多くの資料を展示するという。私は「熱烈なファン」とまではいかないだろうが、確か中学生の時だから20年以上前に「最長片道切符の旅」と「時刻表2万キロ」を文庫版で手にしている。それ以降初期のものを中心に(文庫版ばかりであるが)読んでおり、それまでは漠然と「電車が好きでどこかに行ってみたい」というくらいだったのが、「乗りつぶしをやろう」という気にさせ、現在に至る鉄道旅行趣味のきっかけとなった人であるから、これはぜひ行ってみないとね。

なお19日は、日本思想史の研究の一方で鉄道への造詣も深い明治学院大学の原武史教授と、エッセイストであり「女子鉄」のはしりでもある酒井順子さんのトークショーが行われるとあり、事前に観覧を申し込んでいたのだ(原教授の論文はともかく、酒井さんのエッセイは何冊か読んでおり、女性の感覚というのを実によく突いているところから面白いなと思ったので)。

まずはトークショーの観覧から。メインは原教授がおしゃべりして、それに酒井さんがツッコミを入れるという感じで進行し、途中では会場の笑いを誘うところもあって終始和やかに進んだ。それぞれが宮脇俊三の作品に出会ったきっかけや、「作家」としての宮脇俊三の紀行文の構成の素晴らしさについて語る一方で、昨今の「鉄道ブーム」を歓迎する中でどこか昔の汽車旅の風情を懐かしむような・・・と、時間はあっという間に過ぎる。

トークショーを終えた後のエレベーター前で酒井さんにサインを求める人の姿があった。私もこの日文庫本を持ってきていたこともあり、見開き扉のところにサインをしてもらう。見たところ大人しそうな感じだが、アタマの中ではエッセイに表れるいろんなことを考えているのだから、やはりすごいや。

そして企画展会場へ。鉄道紀行文学の流れということで内田百閒の「阿房列車」、阿川弘之の「南蛮阿房列車」の紹介、そして宮脇俊三の編集者時代の姿に続く。そして、いよいよ作家としてのデビューである。

P7192166やはりメインは「時刻表2万キロ」と「最長片道切符の旅」。「時刻表~」では、乗りつぶしのたびに白地図にマジックで線を引き、乗車距離を計算するというくだりがあるが、その実物の白地図が展示されている(画像はパンフレットに印刷された写し)。一度足尾線で完乗した後も新線に乗れば追加しているし、廃止後は乗車距離を減算するという出入りも記録されており、実に細かい。また、「最長片道切符」では、実際に使用した切符の現物があり、これには思わずうなってしまった。切符そのものに味や重みが感じられる。近年テレビの企画で最長片道切符の旅をやった関口某の場合はどのような切符を使用したのだろうか。

このほか、「旅の終わりは個室寝台車」や「時刻表おくのほそ道」など、編集者と一緒に旅行した時の作品についての資料や写真、それに取材ノートも多数展示されており、作品を読んでいれば「あの時のやつか・・・」と感心する(写真などは、そのとき一緒だった編集者の誰それが撮影したものだろうなと思ってみたり)。個人的には、宮脇作品の中ではこうした編集者との企画で実現した紀行文というのが好きだったりする。また海外の鉄道の旅の資料や、世田谷の書斎の再現コーナーなど盛りだくさんで、一通り見終わった後は実にお腹いっぱい。

P7192168一方で、ただ好きな鉄道に乗ってそのときのことを紀行文として書くという、そんな単純なものではなくて、綿密に自分の眼で観察し、きちんとした記録を取り、その上で「あれも書きたい、これも書きたい」という中から削るだけ削り取ってようやく、紀行文ができる・・・という、やはりプロとしての仕事に対する姿勢が伝わってきた。私もブログなどにどこかに行ったときのことを書くが、結局は「○○線に乗って○○に行きました。いい景色でした。面白かったです。また行きたいです」という構成でしかないし、おまけにいろんな余計なことを書き足そうとするもんな。

この企画展は9月15日までやっている。おそらくもう一度見学に来ることになるだろうな・・・・。 

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