吉村青春ブログ『津屋崎センゲン』

“A Quaint Town(古風な趣のある町)・ Tsuyazaki-sengen”の良かとこ情報を発信します。

2007年2月21日/〈日記〉98・「街並み保存 津屋崎現代美術展」のこと

2007-02-21 04:21:56 | 日記

写真①:表紙を飾った「津屋崎千軒民俗館『藍の家』出入り口格子戸の写真
      =「街並み保存 津屋崎現代美術展」パンフレット表紙から、2007年2月18日午後4時57分複写

 きょう2月21日は、福津市新町横町の「津屋崎千軒民俗館『藍(あい)の家』」と、同市土居の「農業倉庫、塩田れんが倉庫」で、1994年(平成6年)3月20日から4月19日に開かれた「街並み保存 津屋崎現代美術展 場の夢・地の声」のことを紹介します。

 主催は、福津市津屋崎海岸通りの「旧玉乃井旅館」に住む著述・翻訳業安部文範さんの「現・在の会」と、1993年に設立された「津屋崎町街並み保存協議会」(事務局=町観光協会内)。後援団体には、町教育委員会と町文化協会が名を連ねています。

 この「街並み保存 津屋崎現代美術展」のパンフレットは、写真撮影吉住美昭さん、翻訳安部文範さんの担当で作成。6㌻構成で、表紙の写真は『藍の家』(旧上妻邸)出入り口の格子戸=写真①=。「上妻」の表札と門灯が懐かしい感じです。

 パンフレットの冒頭に掲載された「場の夢そして地の声 Dream of Space, Voice of Place」と題した文章では、「街並み保存 津屋崎現代美術展」開催の目的について、「取り壊し、立て直しなどを迫られ、緊急を要する街並み保存という呼びかけに応えるかたちで、また長い時間をくぐり抜けてきた日本の木造建築の美しさ力強さを、現在の視点で捉え、新しい空間として創りだしていこうとする試み」としています。

 1901年に建てられ、染色、織物の商家として続いてきた上妻邸や、明治期の塩田用れんが倉庫=写真②=、大正期の農業倉庫などでの、その保存のための活動を含んだ現代美術展です。


写真②:今も「内海(うちうみ)」そばに残る塩田用れんが倉庫
     =福津市津屋崎土居で、07年2月7日午後0時31分撮影

 出展作家は、元村正信(北九州市生まれ)、大浦こころ(東京生まれ)、坂崎隆一(熊本市生まれ)3氏と、津屋崎町在住の山本隆明氏(福岡県生まれ)。パンフレットの文章では、この福岡―九州を中心に活躍中の4人の美術家による、「既成の空間から離れた、インスタレーションを中心とした表現の展開になります」といい、「蓄積された時間に、今を生きるものの思いを重ねていくことで、歴史も現在も、もっとくっきり見え始めるでしょうし、場のあたたかさのなかで旧いものが今も豊かに生きているというあたりまえの事実を確認しあえるのではないでしょうか」とのメッセージを投げかけています。

 「インスタレーション」とは、もとは「設置」の意味で、展示方法によって空間自体を作品化する美術の手法として彫刻や絵画などから独立、1970年代以降に一般化した現代美術の表現手法・ジャンルのことを指すようになりました。場所や空間全体を作品として体験させる芸術とされ、中国や韓国では「設置芸術」や「装置芸術」とも呼ばれています。

 インスタレーションの特徴は、原則として作品の展示は一時的なもので、展覧会が終われば撤去されること。しかし、作品は設置場所の形状や周囲の壁面・建築・地形との関係や、その場所にかかわる歴史と記憶に密接し、設置場所に固有のもので、移転や再現が困難です。日本のインスタレーション作家では、勅使河原宏、横尾忠則、荒木経惟各氏らが知られています。

 元村氏の作品=写真③=は上妻邸1階に、大浦氏の作品は同邸2階に展示され、坂崎氏の作品は農業倉庫に、山本氏の作品は塩田れんが倉庫にそれぞれ展示されました。


写真③:上妻邸1階に展示された元村正信氏の作品
    =「街並み保存 津屋崎現代美術展」パンフレットから、07年2月20日午後2時04分複写

 パンフレットの最後の6㌻に、上妻邸(横町)、農業倉庫(土居 藤井睦雄氏所有)、塩田れんが倉庫(土居 豊村酒造所有)のミニ解説が載せられています。上妻邸については「明治34年に建築された染め物店の家屋で、間口・奥行き共に6間(約11メートル)の二階建て。がっちりとした構造とみごとな風格のある建物」と解説。

 農業倉庫については「明治から大正時代の農協の倉庫。津屋崎の塩田が盛んだった頃の土居は、塩田で働く人々で賑わい、この倉庫の右隣には農協や役場があったという。間口7間に奥行き3間半の広さで、耐震構造にもなっている」とし、塩田れんが倉庫は「津屋崎の塩田で塩を作っていた明治時代に、塩の倉庫として使われていた赤煉瓦造りの約5メートル×4メートルの建物」と紹介されています。

 この「街並み保存 津屋崎現代美術展」主催団体の一つ、「津屋崎町街並み保存協議会」は2000年、「藍の家運営協議会」に改組され、保存活動を続けてきた『藍の家』の管理・運営を担うようになります。02年には、同協議会が「津屋崎千軒いきいき夢の会」(1998年設立)と統合、新組織の「津屋崎千軒いきいき夢の会」が発足し、04年にはNPO(特定非営利活動)法人に認証、設立登記されます。

 こうした歴史を振り返ると、『藍の家』で94年に開かれた「街並み保存 津屋崎現代美術展」は、「津屋崎町街並み保存協議会」のその後の発展の礎となるイベントだったことがうかがえます。

 「旧玉乃井旅館」経営者の家族で、「津屋崎千軒 海とまちなみの会」会員でもある安部さんが、07年4月21日から5月6日まで「旧玉乃井旅館」で開く現代アート作家らによる「現代美術展覧会」は、第2回「街並み保存 津屋崎現代美術展」と言える内容です。それゆえに、『藍の家』の保存・活用や、「旧玉乃井旅館」の「〈解体と再生〉プロジェクト」と、そして「海とまちなみの会」による津屋崎千軒のまちづくり活動に大きなインパクトを与え、新たな地平を拓くイベントとして期待されるのではないでしょうか。
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