青いバラ、青いユリ、野ばら、そして毒と植物園といった話が続いたので、ここで極めつけの怪奇植物にご登場願うことにしよう。ヨーロッパの古い怪奇伝承に見る「マンドラゴラ(別名アルラウネ)」である。
凶悪な犯罪者を見せしめのために全裸にし、野原の真ん中で絞首刑にしたところが昔はあったらしい。で、その男の最後の精液が地面にしたたり落ちると、やがてそこから妖しげな植物が生えてくる。それが、マンドラゴラである。
災いをもたらすとか、逆に富をもたらすとか、ほれ薬の材料に使うとか、尾ひれのようについた話もいくつかあるのだが、とりわけよく知られている言い伝えは、二つ。一つは、その根が人間の姿をしているというもの。そしてもう一つは、それを引き抜くと土の中から恐ろしい声が出てきて、抜いた人を死に至らしめるというものだ。だからマンドラゴラを引き抜く時は、まず根元にひもの一方をくくりつけ、もう一方を犬の尻尾につける。そして、人間はしっかりと耳をふさいでから、犬の尻をボカンと蹴飛ばす。この妖しい植物が生えてくるたびに、かわいそうなワンちゃんが一匹犠牲になったわけである。
この、世にもいかがわしい出自を持つ怪奇植物の伝説に触発されて書かれた文学作品に、ハンス・ハインツ・エーヴェルスの『アルラウネ』がある。美女であると同時に美少年にも見える、その両性具有の妖しい美しさをもって次々と関わる人たちを溺れさせ、破滅に導いていく。そんな魔性の人造人間の物語である。古来の怪奇伝説と、当時の医学界の大きな話題であった人工授精技術とを融合させた、作家エーヴェルス畢生(ひっせい)の逸品だ。
また、アヒム・フォン・アルニムの作品の一つである『エジプトのイサベラ』にも、アルラウネの根から成長した醜怪な男が出てくるようだ。(※フォン・アルニムと言えば、ブレンターノと協力して集めたドイツ民謡集『子供の魔法の角笛』が重要な業績だが、これが作曲家としてのマーラーに多大な霊感を与えていたことは、クラシック・ファンにはおそらく周知の事実であろう。)
ポーランドの作曲家カロル・シマノフスキが、このマンドラゴラを題材にした20数分ぐらいの管弦楽曲を書いている。これはおそらく<ハルナシェ>などと同様の舞台作品かと思われるのだが、台本や解説書を持たない私には、どうもよくわからない代物である。
テノール独唱がオペラ・アリア(※ホセ・カレーラスが歌ったら、ドンピシャにはまりそうな曲)みたいなものを突然歌い出したり、終曲間際にいきなり野太い男の声で「マンドラゴーラ!マンドラゴーラ」と叫ぶ声が飛び出してきたりして、なんだかなあと。<ハルナシェ>にはわかりやすい民謡素材の旋律や舞曲のリズムがあり、また豊かな管弦楽の響きと壮麗な合唱、そして独唱が曲を大きく盛り上げるので、それなりに楽しめる要素がある。しかし<マンドラゴラ>は、ひたすら妖しい・・。
さて、話を先ほどのエーヴェルスの『アルラウネ』に戻してみたいのだが、このヘルマフロダイトな人造美女アルラウネこそ、オペラの題材に最適なのではないかと考えたりもする。うまくストーリーを編集して、現代音楽の技法、あるいはホラー映画音楽の手法でも使ったら、結構イケてるものが出来るんじゃないかという気がするのである。しかし一方で、アルラウネ嬢はあのベルクさんとこのルルちゃんとキャラがかぶってるかなあ、という危惧感もまた拭いきれない。う~ん、やっぱり無理かな、これは・・。
凶悪な犯罪者を見せしめのために全裸にし、野原の真ん中で絞首刑にしたところが昔はあったらしい。で、その男の最後の精液が地面にしたたり落ちると、やがてそこから妖しげな植物が生えてくる。それが、マンドラゴラである。
災いをもたらすとか、逆に富をもたらすとか、ほれ薬の材料に使うとか、尾ひれのようについた話もいくつかあるのだが、とりわけよく知られている言い伝えは、二つ。一つは、その根が人間の姿をしているというもの。そしてもう一つは、それを引き抜くと土の中から恐ろしい声が出てきて、抜いた人を死に至らしめるというものだ。だからマンドラゴラを引き抜く時は、まず根元にひもの一方をくくりつけ、もう一方を犬の尻尾につける。そして、人間はしっかりと耳をふさいでから、犬の尻をボカンと蹴飛ばす。この妖しい植物が生えてくるたびに、かわいそうなワンちゃんが一匹犠牲になったわけである。
この、世にもいかがわしい出自を持つ怪奇植物の伝説に触発されて書かれた文学作品に、ハンス・ハインツ・エーヴェルスの『アルラウネ』がある。美女であると同時に美少年にも見える、その両性具有の妖しい美しさをもって次々と関わる人たちを溺れさせ、破滅に導いていく。そんな魔性の人造人間の物語である。古来の怪奇伝説と、当時の医学界の大きな話題であった人工授精技術とを融合させた、作家エーヴェルス畢生(ひっせい)の逸品だ。
また、アヒム・フォン・アルニムの作品の一つである『エジプトのイサベラ』にも、アルラウネの根から成長した醜怪な男が出てくるようだ。(※フォン・アルニムと言えば、ブレンターノと協力して集めたドイツ民謡集『子供の魔法の角笛』が重要な業績だが、これが作曲家としてのマーラーに多大な霊感を与えていたことは、クラシック・ファンにはおそらく周知の事実であろう。)
ポーランドの作曲家カロル・シマノフスキが、このマンドラゴラを題材にした20数分ぐらいの管弦楽曲を書いている。これはおそらく<ハルナシェ>などと同様の舞台作品かと思われるのだが、台本や解説書を持たない私には、どうもよくわからない代物である。
テノール独唱がオペラ・アリア(※ホセ・カレーラスが歌ったら、ドンピシャにはまりそうな曲)みたいなものを突然歌い出したり、終曲間際にいきなり野太い男の声で「マンドラゴーラ!マンドラゴーラ」と叫ぶ声が飛び出してきたりして、なんだかなあと。<ハルナシェ>にはわかりやすい民謡素材の旋律や舞曲のリズムがあり、また豊かな管弦楽の響きと壮麗な合唱、そして独唱が曲を大きく盛り上げるので、それなりに楽しめる要素がある。しかし<マンドラゴラ>は、ひたすら妖しい・・。
さて、話を先ほどのエーヴェルスの『アルラウネ』に戻してみたいのだが、このヘルマフロダイトな人造美女アルラウネこそ、オペラの題材に最適なのではないかと考えたりもする。うまくストーリーを編集して、現代音楽の技法、あるいはホラー映画音楽の手法でも使ったら、結構イケてるものが出来るんじゃないかという気がするのである。しかし一方で、アルラウネ嬢はあのベルクさんとこのルルちゃんとキャラがかぶってるかなあ、という危惧感もまた拭いきれない。う~ん、やっぱり無理かな、これは・・。
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