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クラシック音楽オデュッセイア

2025年正月、ついに年賀状が1通も来なくなった“世捨て人”のブログ。クラシック音楽の他、日々のよしなし事をつれづれに。

ブゾーニの歌劇<トゥーランドット>

2005年08月02日 | 作品を語る
前回まで語ってきた指揮者モントゥーの、最後のトゥーをしりとりして、今回から数回に分けて歌劇<トゥーランドット>について語ってみたいと思う。(※モントゥーのトゥーとトゥーランドットのトゥーは、原語でつづると実は全く違うのだが、今回は日本語のしりとりということで続けてみたい。)

歌劇<トゥーランドット>と言えば、殆どの方が「未完に終わったプッチーニ最後の傑作」として思い出されることと思う。しかしここでは、いきなりプッチーニ作品の話をするのではなく、その先駆となっているフェルッチョ・ブゾーニの歌劇<トゥーランドット>(1917年)の筋書きと音楽を、まず追うところから始めてみたい。

〔 ブゾーニ作曲による歌劇<トゥーランドット>の筋書きと、音楽的特徴 〕

ブゾーニの歌劇<トゥーランドット>は全部で4つの場から成っていて、最初の2つで第1幕、あとの2つで第2幕という風に呼び分けられている。物語の展開は、以下の通り。

第1場(第1幕)

ペキンの町に、訳あって名を隠す王子カラフが登場し、「この町に私の未来がある」と歌う。やがてかつての家臣であったバラクと出会い、二人は語り合う。ここには絶世の美女トゥーランドット姫がいる。「求婚者には3つのなぞなぞが与えられるが、全部答えられないと首をはねられる。そして今まさに、サマルカンドの王子が処刑されるところである」といった情報が、二人の間で交換される。サマルカンドの王子は斬首されて果てるが、彼の母親が投げ捨てた紙にはトゥーランドット姫の顔が載っていた。それを拾って姫の顔を見たカラフは激しい恋心を燃え上がらせ、自らが次の求婚者になろうと決意する。

(※開幕冒頭のせき立てるようなリズムがまず、印象的だ。カラフの声はプッチーニ作品と同じく、力強いテノール。彼がトゥーランドットの肖像を眺める時の音楽は、一転してロマンティックな雰囲気になるが、いかにもブゾーニらしい神秘的な雰囲気。モーツァルトの<魔笛>で聴かれるタミーノの歌などを想像してはならない。)

第2場

宦官(かんがん)長のトルファルディーノが、「次の求婚者が、次の犠牲者が来るぞ」と嬉しそうに会場準備をしている。トゥーランドットの父である皇帝アルトゥムは、この残酷なゲームにうんざりしており、早くなぞを解き尽くせる男が現われてくれないものかと願っている。そこへカラフが現われるが、頑として彼は自分の名前を言わない。廷臣のパンタローネとタルタリアが、皇帝と一緒になってカラフを翻意させようとするが、カラフは聞き入れない。「トゥーランドット姫を得るか、さもなくば死だ」。

(※宦官のトルファルディーノは、テノール。彼が登場して披露する歌は、結構長い。続く皇帝登場の場面で聴かれる合唱は、壮麗で力強い音楽である。同じブゾーニの<ファウスト博士>(※1)や<アルレッキーノ>では、ちょっと聴かれないものだ。皇帝の声は、声量豊かなバリトン。いかにも、偉丈夫の皇帝といった感じ。娘の結婚が早く実現することを願って歌う、「孔子さま、私が望むのは」と始まる皇帝のアリアは、なかなかの聴かせ歌である。)

やがて、ヴェールで顔を覆ったトゥーランドット姫が登場。カラフを見て、彼女は内心ドキッとする。「この人、今までの男たちと違うわ・・」。トゥーランドットには、アデルマという女が付き添っていた。彼女はもともとある国の王女だったが、国破れ、今はトゥーランドットお付きの奴隷に身をやつしている。(※同じく国破れて流浪中のカラフのことを、このアデルマはよく知っていた。少女時代、彼に憧れていたからである。)

(※トゥーランドットの声は、プッチーニ作品ほどの強烈なパワーは求められていないが、やはりドラマティック・ソプラノである。登場していきなりカラフに惹かれる胸のうちを歌う点は、プッチーニのヒロインとは対照的だ。しかしその歌自体は、やはり強い女性をイメージさせるものである。)

トゥーランドットから出された二つのなぞなぞを、あっさりと解くカラフ。三つ目のなぞを出されるところで、ヴェールを脱いだトゥーランドットの美貌を見て彼は一瞬よろめいてしまうが、何とか最後のなぞも解いてみせた。宮廷内に歓声。ショックを受けたトゥーランドットは自害しようとするが、制止される。皇帝は喜んで婚礼の準備をさせようと動き出すが、姫は「まだよ!」と拒否的な態度に出る。カラフは言う。「ならば今度は、私の方から一つのなぞをお出ししよう。私の名は何というか、当ててほしい。期限は夜明け。それが出来たら、私はこの勝利を諦めてペキンを去っていく。しかし解けなかったら、姫は私のものだ」。

第3場(第2幕)

トゥーランドット姫が部屋にいる。アデルマが姫のそばに付き添っている。姫は内心カラフに惹かれるものを感じつつ、今の立場を失いたくないという気持ちやプライドもあって、揺れ動いている。

(※この第3場の開始部で聴かれる合唱は、イギリス民謡<グリーン・スリーヴズ>に酷似している。何かいわくがあるのかどうかは、不明。それに続いて踊りの音楽が始まるのだが、これは全然中国的ではなく、どこかアラブ中東の音楽を思わせるようなエキゾティックな曲である。ひょっとしたら、トゥーランドット姫が中東の踊り子達を雇って踊りを披露させているという設定なのかも知れない。しかしそれ以上に、トゥーランドットが揺れ動く心を歌うアリアが聴き物だ。これはイケてる曲である。歌手も歌い甲斐があるだろう。)

やがて宦官長のトルファルディーノが、姫のもとにやって来る。(※ここでの二人のやり取りがなかなか楽しいので、日本語に直して一部を下に抜粋する。以下、トルファルディーノはTR、トゥーランドットはTUと略記。)

TR:姫様、ワタクシ、あの男が眠っているところへ忍び寄りまして、マンドラゴラの根(※2)で作った秘薬を用いましてですね、あの男の舌を緩めさせ、自分から名前をしゃべるように仕向けてみました。すると・・。
TU:彼は名前を言ったの?
TR:はい、それがですね・・。
TU:彼は名前を言ったの?
TR:それが、『姫を手に入れるか、さもなくば死だ』って、そればっかりなんですよー。
TU:使えない男!あんた脳みそないの?お下がり!

やがて皇帝アルトゥムが入って来て娘を説得しようと試みるが、トゥーランドットは頑固に拒否する。皇帝は怒って出て行ってしまう。アデルマがトゥーランドットに、取引を持ちかける。「私、彼の名を知っていますのよ。私を自由の身にしてくださるなら、お教えしますわ。そうすれば、姫様も自由になれますのでは?」。アデルマは少女時代に憧れていたカラフに、実はその後あっさりふられていたのである。そのため、いつか見ていらっしゃい、と胸の中に復讐の炎を燃やし続けていたのだ。「あなたは奴隷ではなく、私の姉妹になるわ」というトゥーランドットの言葉を聞いて、アデルマはそっとトゥーランドット姫に耳打ちする。

第4場

夜が明けた。宮廷内に皇帝と従者たち、トゥーランドット姫と侍女たちが集まり、そこへカラフも登場する。なぜか葬儀の音楽が流れているので、カラフは訝(いぶか)る。喪のヴェールをつけたトゥーランドットが誇らしげに、「あなたのお名前を知っていますわ、カラフ!ティムール王の息子」と伝えると、宮廷内に失望感が広がる。敗北を認めたカラフは、がっくりと肩を落として去って行こうとする。すると背後から、「行ってはなりません」と呼び止める声が響いた。それは他でもない、トゥーランドットの声だった。「石になっていた私の心を、あなたは解いてくれました。今、私の心は激しく鼓動しています」。トゥーランドットからの愛の告白であった。

大喜びの皇帝と廷臣パンタローネ、そしてタルタリア。トルファルディーノとアデルマの二人だけは当てが外れてがっかりするが、宮廷内には歓声が響きわたり、カラフとトゥーランドット、二人の婚礼へと場面が進む。トゥーランドットは喪のヴェールを婚礼のヴェールに付け替える。そして、「全ての人を一つにつなぐ力、その名は愛」という喜びの合唱で、賑々しく幕となる。

※1 ブゾーニの<ファウスト博士>・・・当ブログ2005年1月13日の記事参照。 
※2 マンドラゴラの根・・・この植物の由来については、当ブログ2004年11月3日の記事参照。

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