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クラシック音楽オデュッセイア

2025年正月、ついに年賀状が1通も来なくなった“世捨て人”のブログ。クラシック音楽の他、日々のよしなし事をつれづれに。

ベルリオーズの<荘厳ミサ曲>

2005年01月29日 | 作品を語る
前回ちょっと言及したJ・E・ガーディナーの指揮によるベルリオーズの<荘厳ミサ曲>(1824年)について、今回は簡単な補足をしておきたい。この作品についての詳しい解説は、ガーディナー盤CD(Ph盤)のブックレットを見ていただくのが何よりなので、専門家でも何でもない私からは、聴いて面白かった部分のお話だけ書いておきたいと思う。

演奏時間55分程の規模で書かれた、この埋もれていた興味深い作品の楽曲構成は、以下の通りである。

1.Introduction(序奏)
2.Kyrie(キリエ=あわれみたまえ)
3.Gloria(グロリア=栄光・・これは Gloria, Gratias, Quoniam という三つの曲から成る。)
4.Credo(クレド=我は信ず・・これは Credo, Incarnatus, Crucifixus, Resurrexit という四つの曲からなる。)
5.Motet pour l’offertoire(奉納のモテト・・ミサ通常文ではなく、「出エジプト記」の第15章にあるものらしい。)
6.Sanctus(サンクトゥス=聖なるかな)
7.O salutaris(オー・サルターリス=おお、犠牲の救い主よ)
8.Agnus Dei(アニュス・デイ=神の子羊)
9.Domine salvum(ドミネ・サルウム=主よ、我々の王を助けたまえ・・これも上記「奉納のモテト」と同様にミサ通常文ではなく、その当時のフランスで慣習的に用いられていた歌詞らしい。)

このCDを聴きながら真っ先に「あっ!」と思ったのが、第3曲グロリアの中の「グラティアス」である。この旋律に聴き覚えのある人は大勢いるはずだ。これは、<幻想交響曲>の第3楽章「野の風景」で聴かれる主要主題である。あのおなじみのメロディに乗って歌われる歌詞は「主の大いなる栄光のゆえに感謝し奉る。神なる主、天の王、全能の父なる神よ。主なる御ひとり子イエズス・キリストよ。父のみ子、神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、われらをあわれみたまえ」というものである。これを知ると、<幻想交響曲>の聴こえ方も変わってきそうだ。つまり、あのわびしい孤独感を演出しているような第3楽章の主題には、上記のような歌詞がもともと作曲者の頭の中で歌われていたということなのだ。尤も、CDの解説書にあるガーディナーの言葉によると、このメロディはドーフィネ地方と呼ばれる地域の民謡に由来するものらしいので、さらにさかのぼれる民謡の歌詞が何かあるのだろう。いずれにしても、楽しい発見ではある。

もう一つ、私のような素人でも「おおっ、こ、これは」と目をみはらされたのが、第4曲クレドの中の「レスルレクシト」。この言葉自体は、「復活」を意味する英語の resurrection の語源になっているものであることは明白だが、「聖書にありしごとく、三日目によみがえり、天にのぼりて、父の右に座したもう」と歌い始めるこの曲、実はあの大作<レクイエム(死者のための大ミサ曲)>の中で聴かれる「怒りの日」の後半にさしかかるところの『トゥーバ・ミルム』の原型なのだ。もう、そっくりである。聴いていて思わず、ニンマリしてしまう。

ただ、そっくりとは言っても、これはあくまでプロトタイプ。粗い原型である。この「レスルレクシト」だけは若き日のベルリオーズ自身も気にいっていたらしく、<荘厳ミサ曲>全体を自ら“お蔵入り”にした後も、これだけは改訂版も書いていて、その楽譜も残っている。ガーディナー盤の最後には、ボーナス・トラックのような形でその「改訂版・レスルレクシト」も追加録音されているのがうれしい。これはちょうどベートーヴェンの<レオノーレ序曲>を、よく知られた第3番の前に第1番、そして第2番と作曲された順に辿って聴いていく時のような面白さが味わえるものである。

原典版では、<レクイエム>の『トゥーバ・ミルム』で完成されることになるあの“どかどかサウンド(笑)”の原型に続いて、バス独唱が「主は栄光のうちに再び来たり、生ける人と死せる人とを裁きたもう」と歌う。が、その後の改訂版では、同じ箇所のトランペットを二本から四本に倍増させ、ティンパニも一台増やして増強し、さらに上記の歌詞に続けて、「不思議な響きを伝えるラッパが、すべての人々を玉座の前に集めるであろう」という、まさに Tuba mirum そのものの歌詞を追加して、バスの合唱で爆発的な威力をもって歌わせる。つまり、筆が進むにつれてはっきりと、あの<レクイエム>の誇大妄想的な超大規模サウンドにどんどん近づいていくのがはっきりと聴いてとれるのである。これは大変スリリングな体験である。

弱冠20歳のベルリオーズが書いたという当ミサ曲は、今回私が触れた上記二点以外にも、ベルリオーズの作品を知っている人ほどたくさんの発見に巡り会うことの出来る、非常に興味深い作品である。ガーディナーの指揮による演奏も、また録音も優秀。興味の向きは、御一聴を。

【2019年4月27日 追記】

●ガーディナー盤ベルリオーズの<荘厳ミサ曲>より、グラティアス

有名な<幻想交響曲>~第3楽章の元ネタ。



●ガーディナー盤ベルリオーズの<荘厳ミサ曲>より、レスルレクシト(オリジナル版)

有名な<レクイエム>で聴かれるトゥーバ・ミルムの原型は、〔0:58〕から。



●ガーディナー盤ベルリオーズの<荘厳ミサ曲>より、レスルレクシト(改訂版)

上のオリジナル版よりも、パワーアップ↑。


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