goo blog サービス終了のお知らせ 

クラシック音楽オデュッセイア

2025年正月、ついに年賀状が1通も来なくなった“世捨て人”のブログ。クラシック音楽の他、日々のよしなし事をつれづれに。

歌劇<ルサルカ>(1)

2006年01月08日 | 作品を語る
ドヴォルザークの代表的歌劇<ルサルカ>。このオペラの主人公ルサルカも、ウンディーネの末裔である。それも、当シリーズの掉尾を飾るに相応しい究極の(?)ヒロインである。このオペラは、前回までに語ってきたロルツィングの<ウンディーネ>やレスピーギの<沈鐘>と比べたら遥かに有名な作品なので、ここではストーリーを細かく追う形はとらずに、その粗筋と音楽的な聴き所だけをチェックしていく展開にしたいと思う。今回はその前半部分に当たる第1幕と、続く第2幕の前半までを扱う。

第1幕 湖のほとりの草地。

まず、4分程度の短い序曲。水の精の男を表す動機に始まり、フルートによるルサルカの動機など、重要な音楽的モチーフが提示される。

(※序曲の冒頭で、チェロの旋律に控えめなティンパニが添えられる音型が聞かれるが、これが水の精の男を表す動機とされている。この「タタタタ、ターンタ」というリズムは、ハウプトマンの『沈鐘』に出て来る水の精ニッケルマンの鳴き声「ブレケケ、ケックス」を音符化したものだという専門家の指摘がある。また場面設定も、『沈鐘』の舞台風景に近い物になっているらしい。なお、このドヴォルザーク・オペラに登場する水の精の男は、本によってはドイツ語流にワッサーマンという名前で紹介されることもある。当ブログでも便宜上、今後はその呼称を使おうと思う。)

序曲に続いて、踊りながら笑いさざめく3人の木の精たちの合唱。彼女たちはワッサーマンを取り囲み、からかって楽しむ。

(※伊達男気取りの年老いた男を若い娘たちが取り囲んで笑うという開幕風景は、ワグナーの<ラインの黄金>を思わせるが、このオペラに登場する水の精ワッサーマンは、アルベリヒなどとは全く違って善良そのものの男である。ところで、この開幕早々に聴かれる「木の精たちの合唱」では、いきなりドヴォルザーク節全開の素晴らしいオーケストラ伴奏が楽しめる。ワッサーマンの動機を土台にした強烈な連打音。ゴキゲンな土俗的高揚感が最高だ。)

ハープのアルペッジョに乗って登場したルサルカと、ワッサーマンの対話。水浴に来た人間の王子を見て、恋をしてしまったというルサルカ。「人間って、魂を持っているんですってね。私も人間になりたいわ」。驚くワッサーマン。続いて、有名なルサルカのアリアが聴かれる。

(※この対話の中で聞かれるルサルカのセリフから、彼女がウンディーネから人魚姫に引き継がれたモチーフをそのまま踏襲していることが分かる。また、彼女が登場して間もなく歌うアリア「白銀(しろがね)の月よ」は、美しい旋律の多いドヴォルザークの声楽曲の中でも屈指の名曲である。この歌の最後で、ルサルカの願いもむなしく月が雲に覆われてしまうのは、何か暗い運命を予告しているかのようだ。)

ルサルカは決意して、魔法使いの老婆イェシババのところへ行く。ここで老婆は、次のようなことをルサルカに言う。「魔法の薬は作ってあげるけど、かわりにその妖精の衣をいただくよ。それにあんた、人間の世界に行ったら、愛の証(あかし)を手にするまで声が出なくなる。そしてもし、その愛を得られなかったら、あんたは水の世界に引き戻されて、深い淵で永遠に呪われ続けることになるんだ。その上、あんたのいい人も道連れになる。それでもいいのかい」。

(※「人間になったら、声が出なくなる」というのは、『人魚姫』のプロットそのものである。そして「愛を裏切られたら、自分自身が死の使いとして相手の男を死なせねばならない」という設定は、ウンディーネからラウテンデラインに引き継がれたモチーフである。)

イェシババが、いかにもおとぎ話に出て来そうな呪文の言葉を歌いながら、魔法の薬を作る。「かわいそうなルサルカ」と嘆くワッサーマンの声が響いてくる。やがて、牝鹿を狩で追ってきた王子が登場。人間になったルサルカと出会い、惹かれる。「ねえ、一人足りないわよ」とささやき合う水の精たちの声を耳にしてルサルカは瞬時ためらうが、決意したとおり、王子に手を差し伸べて一緒に城へ向かう。

(※終曲部分は、力強い音楽。しかし、後々にまた確認されることなのだが、このオペラに登場する王子の歌には、あまり魅力がない。)

第2幕 王子の城の庭

森番と皿洗い小僧の対話。「王子様が森で出会った怪しい娘と、結婚するらしいよ」と話している。二人はルサルカを気味悪い存在と見ており、嫌悪感をあらわにしている。そこへ、王子とルサルカが現れる。王子は、会って以来全く物を言わない花嫁に対して苛立つ思いを隠さない。外国の王女が続いて登場。彼女は、「私が座りたいところに、他の娘がいるのよねぇ」と歌い始め、やがてルサルカを悪しざまに見下げた態度を取る。さらに王子までもが、王女の側についてしまう。いたたまれなくなったルサルカは、一人で走り去る。やがて城の広間では、婚礼を祝う祝典の音楽が鳴り始める。

(※この部分では、王子がルサルカへの不満を吐露するつまらない歌よりも、外国の王女の迫力ある存在感が目を引く。そして音楽的には、婚礼の祝典音楽が聴き物だ。華々しいファンファーレに導かれた、いかにも晴れやかな曲想の舞曲が流れる。これは本当にゴキゲンな音楽で、聴いていると心がウキウキしてくる。)

第2幕の後半から最後の第3幕については、次回・・。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 歌劇<沈鐘>(3) | トップ | 歌劇<ルサルカ>(2) »

コメントを投稿