クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

母の転院~小さな奇跡~

2023年04月30日 | エトセトラ
2023年4月30日。素晴らしい晴天となった今月の19日(水)、2ヶ月間お世話になった救急病院から、ちょっと離れた町の療養型病院へと、母は移送された。交通の足としては、高額な料金のかかる民間救急車を使用。「より廉価な介護タクシーでも、大丈夫かもしれない」という病院側スタッフの提案もあったのだが、移送途中の急変で命を落とす患者の例も少なからずあるということで、応急手当の出来る医療者が同乗する民間救急車の方を選んだ。ここで1万か2万のお金を渋ったために、本人が道中で亡くなってしまったら、悔やんでも悔やみきれまいと考えたからである。時間にして、40分ほどの移動。途中高速道路をフル活用したこともあって、目的地到着時に現金払いで29,500円。うちの家計には正直きついが、better safe than sorry ということで悔いはない。

ストレッチャーに横たわった状態で病室から出てきた母の姿を見て、ブログ主は驚いた。この2ヶ月間意識がほとんど戻らず寝たきりで、経鼻経管栄養を受けながら下痢を繰り返していたというにもかかわらず、顔色が随分良い。はだけた寝巻の中から見える体の色つやも、意想外にみずみずしい。「おそらく全身が土気色になっていて、総入れ歯を外した顔は干しかぼちゃみたいにひしゃげているだろう」と覚悟していたら、予想以上に良い状態でびっくり。看護スタッフの皆さんの行き届いたケアのおかげだろうなと、深い感謝の念を抱きつつ、母と救護担当の男性職員ともども車に乗り込む。その途中、眠っている母に声をかける。「K(ブログ主の名前)さんが来たよー」。閉じられた母の瞼が、ピククッと動く。「これからお引っ越しだよ。お引っ越しするの」。再び瞼がピクピクッ。聞こえているのかな・・。

で、そこから移送開始となったのだが、これがちょっとしたアクション映画の体験アトラクション。高速道路を時速90kmで爆走する民間救急車の速度感も凄かった(※超法規的手段としての青サイレンなど、全く使う必要無しだった)が、それをさらなる猛スピードで追い越す長距離トラック。背後から右車線をグゴオォーッという轟音とともに近づいてきて、そのまま抜いて前に出る大型車の恐ろしさ。頭の中で、あのBGMがしきりに繰り返される。

ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ、ンパッパッパッパッ♪
ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ、ンパッパッパッパッ♪

こちらのドライバーは片目を失ったヒーローではなく、男顔負けの度胸と腕を持つ若い女性だ。次々と追い越しをかけてくる大型トラックを操るのは、(モヒカン刈りの暴走族ほどヤバくはないが、)厳しい仕事のノルマに目を吊り上げている殺気立った運転手。こええよ。w いや、ほんと。こちらが載せているのは石油でもなければ、砂でもない。瀕死のおばあちゃんだぞ。間違っても、映画みたいなド派手な横転事故は無しで頼むよ(泣)。(※一応民間救急車側の立場でフォローしておくと、移送途中での死亡は絶対に避けたいので、一刻も早く受け入れ先に到着する事を至上目的に設定していたということ。)

―ということで、期せずして『マッドマックス2』みたいな世界を疑似体験してしまったブログ主だったが、奇跡との遭遇がその後にやって来る。

民間救急車の到着とほぼ同じタイミングで、弟の車も新しい入院先に到着。お互いに片手を上にあげて、「おお~っ、お疲れ」の合図。母の新しい泊まり先の方たちが、入り口でにこやかに出迎えてくれた。ストレッチャーが車から降ろされ、病院の廊下に入ってくる。弟が、母の近くに駆け寄る。すると、それまで2ヶ月もの間意識がほとんどなかった母がはっきりと目を覚まし、弟の顔を見るや、即座に次男との再会を認識したらしく、感激した表情で涙を流し始めた。お、おい、本当かよ、これ・・。そしてさらに、やせて骨ばった手で、弟の手をギュッと握る。長く昏睡状態で寝たきりだったことがちょっと信じられないぐらいの、しっかりした力が感じられる。続いて顔を見せた長男(ブログ主)とも、緩い握手。「これからのリハビリ次第で、サルコペニアは克服できるかもしれない」と、そんな明るい予想を立ててみたくなるような手の感触だった。

今自分が体験しているのは、1つの奇跡。いとおしむべき、小さな奇跡。・・・そんな思いが脳裏を巡った。

【追記】

今回の転院先を選ばせてもらった理由は、大きく2つ。1つ目は、毎月の入院費が10万円を少し切るぐらいの見込みで、他の候補地に比べて安かった事。(※実は、それでも大変。母の年金受取額は、1カ月当たり5万円ちょっと。後の不足分は当然、ブログ主の受け持ちとなる。)2つ目の理由は、ロケーションの良さ。弟が住んでいるマンションから車で5分ほどのところにその病院はあり、その気になれば歩いて通えないこともない・・そういう場所なのだ。これは大きなポイントである。ある意味、この2つ目の理由が決定打になったとも言える。

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