クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

インゲ・ボルク

2004年11月17日 | 演奏(家)を語る
前回のパネライ(Panerai)の最後の文字iからまた、しりとりをして、今回はドイツ系の名ドラマティック・ソプラノの一人であったインゲ・ボルク(Inge Borkh)について語ってみたい。

もともと女優としてキャリアを開始したというだけあって、若い頃のブロマイド写真を見ても実感出来るように、この人はかなりの美人であった。しかし、その面長の美貌から、思いがけず太く強靭な声が飛び出してくる。

彼女の代表的な名演は、壮年期のカール・ベームがドレスデンで録音したR・シュトラウスの楽劇<エレクトラ>全曲(G)に主役で参加したものだろう。これは、激しいリズムと強烈な音響が交錯するベームの物凄い指揮ぶりと併せて、彼女を含めた参加歌手たちのほぼ全員が名唱を聴かせるという驚異的な名盤だ。圧倒的な声と歌唱でドラマをぐいぐいと引っ張るボルクの超人的なエレクトラをはじめ、声もキャラクターも最高無類と絶賛したいジーン・マデイラのクリテムネストラ、強い声に可愛らしさも備えた理想的なマリアンネ・シェッヒのクリソテミス、そして若きF=ディースカウの雄雄しきオレスト。もうこれほどに条件の揃った全曲録音というのは、他の諸作品も含めてそうそうあるものではない。

ボルクはまた、<サロメ>のタイトル役にも定評があった。ラスト・シーンだけではあるが、素晴らしいものを彼女はスタジオ録音で遺してくれている。フリッツ・ライナー&シカゴ響と録音した<エレクトラ>と<サロメ>の一枚物の名場面集(RCA)である。盆に盛られたヨカナーンの生首に唇を寄せて陶酔に浸るサロメの、その恍惚の表情が目に見えてくるような艶めかしい息づかいの歌に、私は完全にKOされてしまったのであった。

一方、彼女が染物師の妻を歌ったR・シュトラウスの<影のない女>は永く入手不能となっているため、残念ながら未聴である。カイルベルトの指揮による全曲盤(グラモフォン)は他のキャストも強力で、LP時代から大変評価の高いものだったので、CD復活を切に望みたい。

伝説のエレクトラなどと称されることもある彼女だが、今はもう“知る人ぞ知る”かもしれない大歌手の一人だ。

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