クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

歌劇<ルサルカ>(2)

2006年01月14日 | 作品を語る
前回からの続きで、今回はドヴォルザークの歌劇<ルサルカ>の後半部分。第2幕後半から、第3幕終曲まで。

第2幕(後半) 王子の城~つづき

外国の王女と、彼女の味方につく王子によって悲しみのどん底に突き落とされたルサルカは、外へ飛び出す。するとそこには、懐かしい水の精の男ワッサーマンがいた。彼と出会ったルサルカは突然声を取り戻し、悲しい気持ちを歌い始める。

(※ルサルカのつらい状況を見ながら歌うワッサーマンの悲しげなアリアは、このオペラの中でも大きな聴きどころの一つである。「かわいそうなルサルカ。人間界に彼女の幸福はなく、水の世界に戻された後は、死をもたらす呪いの存在になり果てる。かわいそうなルサルカ」。中間部で極めて印象的なメロディが流れるこのアリアは、プロフォンドな声を持つバス歌手にとっては非常に歌いがいのある曲だろう。このワッサーマンのアリアと、婚礼を祝う合唱が交錯する展開は、喜びと悲しみのコントラストが鮮烈に浮かび出して、劇的な効果に富む。)

(※ここでルサルカが絶望的な気持ちを訴える歌は、何かせき立てられる様なテンポで歌われる。「彼の心は、他の女性のもの。私には、彼女のような情熱がない。冷たい水から生まれたから。王子には見捨てられ、水の世界からは呪われて、私は虚しいこだま。人の妻になれず、水の精にも戻れない。死ぬことも出来ず、生きることも出来ない・・」。)

そこへ、王子と外国の王女が登場。ルサルカは王子の腕に飛び込むが、ゾッとした王子は彼女を突き飛ばす。ワッサーマンが怒りに満ちた声で、間もなく王子に訪れる死の宿命を予告する。そして、ルサルカを伴って水の中に消えていく。恐ろしくなった王子は、「私を助けておくれ」と外国の王女にすがりつく。しかし彼女は、「あなたは、ご自分で選んだお嫁さんのところへ行きなさいよ」と、彼に肘鉄を食わせて去っていく。

(※この場面は笑える。何が笑えるかと言えば、この王子の情けなさである。オペラ・ブッファのキャラでもないのに、こんな情けない王子もちょっと珍しい。彼につけられた音楽に魅力がないのは、どうも作曲家に嫌われたからではないかという気もしてくる。一方、外国の王女が漂わせる雰囲気の、何とまあ堂々としていること!ルサルカが基本的にリリコ・スピントのソプラノであるのに対して、この王女はドラマティック・ソプラノ、またはメゾ・ソプラノの声が合っている。)

第3幕 再び、湖のほとり

狐火になって、ゆらゆらと漂っているルサルカ。かつての美しい金髪も、すっかり灰色。すべてに背を向けられた悲しみを歌う。そこへ、魔女イェシババが登場。「あんたが救われる方法が、たった一つだけある。このナイフで王子を刺し殺すんだよ。そして王子の暖かい血をすすれば、あんたは水の精に戻れるんだ」。しかしルサルカは、そんな事は出来ないと答える。「じゃあ、好きにしな」と魔女は去っていく。ルサルカは、ナイフを湖に捨てる。やがて、水の精たちの歌声が聞こえてくるが、その内容はルサルカへの絶縁の言葉であった。

(※「ナイフで王子を殺して、その血で・・」と来れば、これはまさに『人魚姫』のプロットである。ここで聴かれる水の精たちの合唱は美しいものだが、やがて、「お前は、あたしたちの踊りに二度と入ってくるんじゃない。泥沼の上で、人魂どもといつまでも揺らめいているがいい」と、ルサルカに対して過酷な内容を歌い始めるのである。)

森番と皿洗いの小僧が、魔女イェシババのもとにやってくる。「王子の重い病は、逃げ去った不気味な花嫁の呪いだろうから、助ける方法を教わってこい」と人に言われて、恐る恐るここへ頼みに来たのであった。ルサルカのことを徹底的に悪く言う小僧の言葉に激怒したワッサーマンが突然出現し、「どっちのせいか、分かっておるのか」と一喝する。森番と小僧の二人は死ぬほど驚いて、「ギャアー、河童のお化けー」とわめきながら逃げ去って行く。その後、第1幕の冒頭のように、木の精たちがワッサーマンを囲んで踊り始めるのだが、彼の方はもうそんな気分ではない。

王子が登場。「私の白い牝鹿よ。・・戻ってきておくれ」と、ルサルカへの仕打ちを後悔している気持ちを歌う。そこへルサルカが現れ、王子に「私はもう、あなたに死をもたらすだけの存在よ」と告げる。しかし王子は、「それでいい。私にキスしておくれ。私にやすらぎを与えておくれ」とルサルカに告げ、彼女の接吻を受ける。王子は死ぬ。「人間の魂に、神の祝福を」と歌いながら、ルサルカも静かに湖底に消えていく。(終)

―以上のような訳で、ドヴォルザークの歌劇<ルサルカ>は、主人公がウンディーネの末裔であると同時に、作品としては『人魚姫』のプロットも引き継ぎ、さらに『沈鐘』の影響も色濃く反映しているという、究極の(?)ウンディーネ・オペラなのであった。さて次回は、《ウンディーネ・シリーズ》の締めくくりとして、これまでにご紹介してきた作品の整理と、一回ごとの枠の関係で割愛してきた話の補足をしておきたいと思う。

(PS) ドヴォルザークの交響詩<水の精>

晩年のドヴォルザークが作曲したいくつかの交響詩の中に、<水の精>というのがある。しかし、これは『ウンディーネ』や<ルサルカ>とは全く別系統の作品である。エルベンの詩集『花束』に題材をとったもので、以下のような不気味な筋書きを持つ。音楽はしかし、そんなに陰惨なものではない。ご参考までに・・・。

〔 水の精の男と結婚した人間の娘が、里心を出して実家の母のもとにいったん帰る。しかし、母が止めたこともあって、約束した期日になっても彼女は夫のところへ戻らなかった。怒れる水の精が彼女の家の戸口までやって来て、二人の間に産まれていた赤ん坊の惨殺死体を置いて去って行く。 〕
コメント (2)
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