思い起こせばいろいろあり過ぎる。小さい頃はGTSみやげのタイの枕の狭い面積の上に寝ていたりした。当たり前だがまだ顔も丸く日本犬のようだった。ミニダックスだから体も長いのだけど、顔がだんだん長くなるのもなんだか不思議だった。お袋はそれが不満で、もう長くならなくていいと言い聞かせていた。
気まぐれなところが多くて、散歩に行く前はぴょんぴょん跳ねて喜ぶくせに、家から離れていく道を選択すると、ごろんと横に寝て拒否した。抱っこして僕が散歩するという感じになって、長時間になると重かった。リードを外すと逃げ出すが、追いかけると途中で諦めてごろんと横になった。降参という意味らしい。
食べ物に対する執着は強く、テーブルの上にも何とかしてよじ登るようだった。一家の晩御飯が全滅することもあったようだし、しかし食い過ぎると吐くのだった。ゴミ袋も漁るし、ティッシュを細かく千切ってまんべんなく部屋を散らかすのも得意だった。叱ると逆切れして唸った。ライオンのような顔になり恐ろしいのだった。トイレは何度も教えたが、結局最後までまともに覚えることができなかった。上手くいきそうになっても体が長いためか、トイレの的を外してしまうのだった。いろいろ飼ってきたけど、そんな犬は初めてだった。頭も良くなかったのだろう。もちろんお手などの芸も、すべて出来なかった。
血管の病気があるらしく、体が弱いらしいと後で知った。考えてみると運動はそういう訳で得意じゃなかったのかもしれない。最近は階段から落ちたりしていた。寝起きにフラフラして足元がおぼつかないことがあった。僕の鞄の中に入って寝ようとして大事な書類を破いたり、中にあるものをかき出して、僕が忘れ物したりした。しつこく舐めるので却って煩わしくなり邪険に扱うこともあった。なんだか済まなく申し訳ないと、いまさら思う。元気な頃は手首にかみついてじゃれて遊ぶのが好きだったが、そんな遊びもいつの間にかしなくなっていた。手羽先などを食べていると、寄こせという意味だろう、激しく吠えて要求した。もちろんその期待には応えられなかったのだが。
朝から様子がおかしく、いよいよかとは思っていた。帰宅すると息が荒く目を開いたまま舌を垂らして寝ている。さすってもろくに反応が無い。嫌いな爪切りもさせるがままだったのだという。昏睡というか、意識は無かったのではあるまいか。
息が苦しそうになると体をさすったり体位を変えたりして見たが、だらんと力無く張り合いが無かった。足を伸ばして口を半開きにし、最後は目玉をむいて息切れた。9時1分頃だった。次男坊が帰ってくるまでもたなかった。見開いた眼は硬直してもなお、なかなか閉じることができず、見ているのがつらいのだった。
朝から隣の畑の蜜柑の木の西側に穴を掘った。雲行きが怪しく、雨になる前に埋めた方がよかろうと思った。畑にはいろいろと花が咲いていて、手向けるのには不自由が無かった。土を掛ける前に体をうずめるように手向けてやった。パンダの小さなぬいぐるみと、口元にドッグフードも置いた。
小琳という名前は、大切な玉のように貴重だという意味がある。もちろん音の響きもかわいいので、女の子だしふさわしいと思ってつけた。犬にとってどのようなあの世が待っているのかは知らないが、どこに用を足しても怒られないようなところだとよさそうである。
はっきりと冷たくなったので自覚しているはずだが、そしてこの手で埋めたのだから間違いないのだが、本当に家に居なくなったのかは怪しいような気がする。たぶんしばらくはこの寂しさとつきあいながら暮らさなくてはならないのだろう。
追記:家人から、小琳ちゃんだって芸を教えたら覚えたはずだ、と苦情があった。芸など教えるなと言ったのはあなたであって、小琳ちゃんはその機会を失ったのだという。まったくその通りで、何も覚えなくていいとは思っていたし、あえて教える必要など無いと言っていたのは間違いが無い。人間の言うことを聞かない犬であろうと、それでいいと思っていたのかもしれない。そういう訳で、芸が無かったのは僕のせいです。小琳ちゃんの名誉のために訂正しておきます。また、お座りくらいは出来たんじゃ無かったかな。
なんかホントに胸にぽっかり穴があいてしまったような喪失感なんですよ。あえて考えなくてもできるようなルーティンワークをしております。
ペットも長く一緒に暮らしていると、家族の一員ですものね。急にその存在がなくなることに、しばらくは耐えられないほどの喪失感を感じらることでしょうね。
ウチの愛犬(ラッキー・雑種)も裏庭に眠っております。本当は勝手に埋めてはいけないらしいですが…