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秋葉街道似多栗毛15  小奈羅安泊り(2)

(庭のモクシュンギクの花)

少し空いたが、秋葉街道似多栗毛の続きの解読を続ける。

弥二、そろそろと出かけ、女の床へ這い込み、ぐづ/\と話をする。その内、勝手も静まり、寝る喜太八もそろ/\這い出行く内へ、勝手の女、男と寝て居たりしが、そっと起きてあとへ出居る。男ばかり寝て居ると、北八は女と思い、壱朱手に握らせ、中へ這入ると、男「これは朝でもよろしゅうござりますに、お茶代を有難うござります」と礼を言われて、

喜太八はびっくりして、逃げるひょうし、暗紛れに、小膳棚へ当たり、突き倒すと、膳棚のもの、ぐわた/\/\とみな落ちて割れる。この物音に家内中、目を覚まし、何事ぞと皆起きる。喜太八は漸々座敷へかえり、夜着の中へ這い入る。
※ 夜着(よぎ)- 寝るときに上に掛ける夜具。特に、着物の形をした大形の掛け布団。かいまき。

喜太八「とんだ目に逢った。男の所へ這い込んで、壱朱やったれば、これは朝でもえいに、寝所へ御茶代を忝ないと礼を言われて、逃げるとて、膳棚へ当たり、ぶっ砕きて、大騒ぎだ」弥二「しりがくるだろう」

北八「弥二さん御めえどうした。早かった」弥二「おいらがあんべいはよかったが、女の一けんへ手をやろうとて、つゝとやって見るれば、そこらあたりが何か出来物で、誤まる。おいらぁ、しょっては詰らぬから帰ろうと思うと、そのくせに女がひつこいやつで、いろ/\と云うから、しかたがねい。そこで外に断わりもゆえぬから、この間は瘡(かさ)であんばいが悪い。一夜ばかりで御前にうつしても気の毒だからとゆったれば、御遠慮なされますな。わしもちっとは持ち合わせがござりますという。大笑いだ」という所へ、

勝手より亭主来り、「御客、皆んな起きた。貴様達はとんだ手合だ。人の寝所へ来て、それ故、道具まで皆砕くはどういう理屈だ。挨拶によって、了簡せぬ」と大きに力む。弥次、いろ/\断りをいえども、聞かず。連れの女もいろ/\挨拶し、よう/\道具代金壱歩出し、あやまり事すめば、二人もつまらぬ目に合い、しばらく休みけるに、勝手もわれ物をかたづける。

夜も明け方に近ければ、そろ/\朝の仕度に掛りける。二人ながら寝入りもせずして、やがて起き上り居るに、朝めしも出れば、喰いしまい、いとま乞いもそこここにして、この宿を立ち出て、

    口先で にげんとすれば 膳棚へ さし当りたる 返事とうわく(当惑)

弥二 七重八重 ひざ折りて出す 山吹の 理のひとつだに なきぞかなしき
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