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秋葉街道似多栗毛11  西俣 - 三倉

(ムサシの散歩道の紅梅が満開)

秋葉街道似多栗毛の解読を続ける。

いろ/\しゃれながら行く程に、早くも三倉村近くに至れば、向うへ瞽女二人連れにて、一人は六十ばかりの年寄り、また一人は十五、六の娘なり。
※ 瞽女(ごぜ)- 鼓を打ったり三味線を弾いたりなどして、歌をうたい、門付けをする盲目の女芸人。

弥二、跡より追い付いて「おめえ方はどこへ行きなさる」ばゝ「はい、私どもは、秋葉参ります」
弥二「はゝあ、節季候が明き屋へ入るは当りまいだが、ばゞなら、雪隠(せついん)へでも行けばえいに、あきやへはなぜ行く」ごぜ「この子が目の立願に」
※ 節季候(せきぞろ)- 門付け芸人の一種。江戸時代、師走になると赤い布で顔を隠し、頭に裏白(うらじろ)をつけた笠をかぶった芸能者数人が一組となり、割竹をたたいて「節季候、節季候、めでたい、めでたい」と唱えて、家々の門口を訪い歩いた。
※ 立願(りつがん)- 神仏に願をかけること。願立て。願かけ。


弥二「はあ、それは気の毒な事。どうしておめい方、二人ながら目がつぶれたの」
ごぜ「はい、聞いておくれなされ。若い時と云うものは、恥ずかしい事だが、色好きで、色男がなあ、五、六人も有ったが、中に大きに惚れた男があって、その人が大病を煩い、まず、わしも人の亭主の事なれば、会いにも行かれず。それを苦に病んで、つい目を泣きつぶしました。そのうえ、この子がで目がつぶれます。今では色の事も、恋の事もわすれ、ほんの今が闇地獄でござります」
※ 疳(かん)- 疳の虫によって起こるとされる、小児の神経症。夜泣きやひきつけなどの発作を起こす病気。

弥次「時に、ばあさん、わしは江戸の目医者だが、晩に一つ所に泊りなせい。見て直してあげよう」ごぜ「ありかとうござります」
喜八「ばあさん、おめいは、まあ、六拾にもなるものだからいゝが、あの娘子は気の毒な。横に付いた目はしかたがねいが、縦についた目ばかりは、晩にわしが明けてやろう」と咄しながら歩行けば、程なく三倉の町に至り、ここは鴬餠の名物にて、茶屋女、呼込んで居る。

茶屋の女「御休みなさえまし。名物の鴬す餠(うぐいすもち)あがりなせい。御休みなされ、御入りなされまし」と呼び立つる。両人ちっと休もうと小奇麗なる内を見立て、草屋ゆう茶屋へ入る。娘茶をくんで出る。たばこの火を出す。鴬餠を持って来る。この内の娘の顔を見て、いろ/\としゃれもあれども、少し思う子細あれば、ここに略す。

   鴬餠を 喰いながら 茶屋の床木に 腰をかけ 初音を聞くや 鴬の餠
※ 床木(しょうぎ)- 床机。縁台。

鼻紙に書き娘にやる。
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