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秋葉街道似多栗毛8  森町泊り(2)

(西原は北へ低くなっている)

家から見る西原は北へ行くほど稜線が低くなって大代の谷間に落ちている。落日は冬至以降に、毎日北へ移動し、時間が遅れて、日が長くなっている。これからは、稜線が低くなるのと、日が伸びることの、二つが重なり、夕日が稜線に沈む時間がずんずん遅くなっていく。日が沈むと寒くなるから、3時過ぎに出掛けていたムサシの散歩も、4時に出ても日差しが残っている。確実に春が近付いているのを感じる。特に今日は風をさわやかに感じるほど、暖かい日であった。

秋葉街道似多栗毛の解読を続ける。

その内下女、茶、たばこ盆持ち出ると、一目見て、北八「おや/\、とんだ名所の沢山な、という顔だ。おめえ。先ず第一、ほうぺたの疵はなんだ」

下女「はい、こりゃぁ去年の秋、山の番に行きました所が、夜中時分に、ごそ/\と粟畑の中をわけてくるで、大方、ひる、山で約束した男が忍ばれるそうなと思った所が、とんでもない、荒熊がわしが寝所の小屋へ、むじり/\と登りかけ、また月夜ざしで見た所が、先月、太郎兵衛殿が打った、つがひの熊殿がわちゃくゞて、逃げ出した所が、かじり付いて、やれ上へなり下になり、うゝ、すう、いって組み合いました。若い衆と取り組むよりは、大そう骨がおれた事だ。どうもせずようがないで、わしは高い所へ登って、尻をまくったら、それで漸々逃げました。その時から、疵がこんなに跡になりました」と云うへ、
※ 月夜ざし - 月のあかり。
※ わちゃく- 悪ふさげ。からかう。いたずら。
※ せずようがない-(方言)どうしようもない。施しようがない。

両人おかしさ隠して、弥二「そんならおめい、高い所で一ツけんを出しておとしたら、それで逃げたのか」
下女「左様/\、人と申す者は、何でも耳に留めて置く物でござります。おらが村の子供が、正月歌います歌に、正月の元日に、おんばぁとこへ行ったれば、芋煮てかくいて、大根煮てつき出いて、もっとくりょうといったれば、釜の段へ登りて、物を出いて音嗅いだ、と申しますから、それで思い付いてやって見ました」両人堪え兼ねて、ころげまわりて笑う。おぬけも逃げて行く。
※ くりょう - (方言)くれ。下さい。

   熊の角力 取りても おどかしは 時にのぞんだ 思いつきの輪
※ 思いつきの輪 - 「つきの輪」は熊の月の輪のしゃれであろう。
北八「弥二さん、天のたすけという事もある物だ」

北八「よせ/\、おめい先ず当分月代はすらずに置きなせい。明日から秋葉の山越え、四、五日は山の中ばかり行くげながら、もし熊が出まい物でもねい。その時、おめえの髭づらを、おれが股ぐらへひっぱさんで、熊ぁおどしてやるは、どうだ。」
弥二「馬鹿ぬかすな」「*玉の御香ずりだ」と両人。
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