goo

宗祇終焉記5 文亀二年七月~ 宗祇臨終

(黒田代官屋敷の蘇鉄の花)

宗祇終焉記ノ解読を続ける。いよいよ宗祇の命が尽きる。

廿七日、八日、この両日、こゝに休息して、廿九日に駿河国へと出立ち侍るに、その日の午の刻ばかりに、みちの空にて、寸白といふ虫おこりあいて、いかにともやるかたなく、輿を立て、薬を用いれども、しるしもなければ、いかがはせん。
※ 寸白(すばく)- 条虫・回虫などの、人体の寄生虫。また、それによって起こる病気。すんばく。
※ 露(つゆ)-わずかなこと。少しも。


国府津という所に旅宿をもとめて、一夜を明かし侍りしに、駿河より迎いの馬、人、輿などもみえて、素純、馬を馳せて来り。向われしかば力をえて、明ければ箱根山のふもと、湯本という所に着きしに、道のほどより、少し心よげにて、湯漬けなど食い、物語うちし、まどろまれぬ。
※ 素純(そじゅん)- 東胤氏(とうたねうじ)の法名。室町-戦国時代の武将、歌人。

おの/\心をのどめて、あすはこの山を越すべき用意せさもうて、打ちやすみしに、夜中過ぐるほどに、いたく苦しげなれば、押し動かし侍れば、只今の夢に、定家卿に会い奉りしと言いて、「玉の緒よ絶なばたえね」という歌、吟ぜられしを聞く。
※ のどむ(和む)- 気持ちなどを落ち着かせる。やわらげる。静める。
※ 「玉の緒よ絶なばたえね」- 百人一首に取り上げられた式子内親王の御歌。
  玉の緒よ 絶えなば絶えね 永らえば 忍ぶることの 弱りもぞする
※ 式子内親王(しきしないしんのう)- 平安時代末期の皇女、賀茂斎院である。新三十六歌仙、女房三十六歌仙の一人。後白河天皇の第三皇女。


人これは式子内親王の御歌にこそと思えるに、又この度の千句のうちにありし、前句にや「ながむる月に、立ちぞ浮かるゝ」という句を沈吟して、我は付け難し。みな/\付け侍れなど、たわぶれに言いつゝ、ともし火の消ゆるがようにして、息も絶えぬ。時に、文亀二年夷、則ち晦日、八十二歳。
※ 沈吟(ちんぎん)- 静かに口ずさむこと。

誰も/\、人心地するもなく、心惑いども思いやるべし。かく草の枕の露を余波(なごり)も、ただ旅を好める故ならじ。もろこしの遊子とやらんも、旅にして一生を暮らし果つとかや。これを道祖神となん。
※ 遊子(ゆうし)- 家を離れて他郷にいる人。旅人。

   旅の世に また旅寝して 草枕 夢のうちにも 夢をみるかな

慈鎮和尚の御詠歌。心あらば今宵ぞ思いえずべかりける。
※ 慈鎮和尚(じちんかしょう)- 滋円の諡号(おくりな)。平安時代末期から鎌倉時代初期の天台宗の僧。歴史書「愚管抄」を記した。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )